桜咲く山で、君おもう 3
「……あっけねーな」
「ほんとだねー」
『全くだ』
男は腕を斬られたことで戦意喪失したのか、もうこの場にはいなかった。
知能ない半裸オークは甲冑オークに殲滅され、巨体もバクとルシファー、ギンキ、ハンサ、カナコ、そしてノブキを筆頭にした現地人メンバーで半ばレイドバトルだ。苦戦しているがそれぞれの持ち味を生かしながら戦う。
対して非戦闘員な愛花が隣に座る。既に反対側にはミサが、何気に子供好きな麻央に撫でられていたが、結局俺はまだ離してもらえないでいる。
「ほーほー、異世界行って随分可愛い子お持ち帰りしたねー」
「ちげーし」
十年前と変わってないちょっかいにため息をつくが、大した麻央は少し困惑していた。
よくわかる。多分普段顔に出さない優華もきっとそうなるから。
しかしその理由を知らない愛花は麻央にフレンドリーに接する。
「そーそー、私ユウマの幼馴染なの。あ、別に昔結婚しよう的な約束してないから安心してね!」
「あ、え、えーと……」
どうやら助け舟が欲しいのか抱きしめる力が少し強くなった。
仕方ないので一泊置き、
「……あー、愛花。こいつお前のかーさん苦手なんだよ」
「……へ?」
本当に今日は珍しい日だ。何せ出会って一度もキョトンとした愛花の顔を見たことないし、久々に麻央の嫌そーな顔を見たから、まさに超絶レア二枚ものの達成感はあった。
要約すれば愛花の母『椎倉 凪』は麻央と優華、そして俺の戦闘全般の師匠だ。
彼女は能力持ちで転移し、能力持ちを呼ぶための魔法陣があった王都の教会に召喚された。
あの日召喚予定は少数だったが、何かしらの強力な力の干渉で百を超え、さらに能力なしの者は各地にランダムに転移していた。だが当時は突然現れた異邦人としてでしか扱われなかったが。
教会で王の話を聞いて、騎士団長の指示を受けてそれぞれにバラけたが、師匠は騎士団長の胡散臭さをいち早く感じて王都を抜けたらしい。それから能力と、元々特殊環境で育んでいた戦闘能力で生き残り、たった二年で魔界と人界を繋ぐ『迷いの森』を作った『霧の魔女』として広まるほどの強者になった。
そんな中で俺たちは迷い込み、出会いと再会、修行、魔法学校への入学、そして別れ……。
師匠とは魔法学校が何者かの襲撃で焼失した日、狙われてた麻央と俺を庇って試作の転移魔法で逃されてから会っておらず、噂ではその日に襲撃者と交戦ののち戦死した、とされていた……のだが––––
「……確かユウカがその後に一度会ってるんだ。曰く『弟子が手のかからなくなったから、日本に帰れる時まで観光と土産を集める』だとか言ってたな。帰還術式は多分みればあの人ならあっさり帰ってくるだろうからもうしばらく待てばいいぞ」
「そっか、お母さん生きてたんだね! 全然顔を見せてくれないからもしかしてと思っちゃった––––ってなんで二人とも震えてるの!?」
「ゆう兄バイブレーション!」
年相応にはしゃぐミサだが、俺ら二人はそうは笑えない。
口籠る俺と麻央のかわりに、スマホの『リブ』が嘆息して説明する。
『二人……いや凪が隠れ拠点にしてた《迷いの森》の生徒、自身曰く《凪塾》で散々しごかれたんだ。イディオ、つまり君たちから見て異世界の戦い方とは趣向が違い、元来一つの職をマスターすることが当たり前のこちら側に対し、この塾はほぼ全てに対応していたんだ。
先天的な魔法などの才能を除き、剣技特化のユウカと、本来近接そのものを鍛えない魔法職の麻央、ユウマは最初に《近接格闘術》を覚え、そこから《棒術》、《杖術》を一通り、それから個人に特化した訓練法を覚えさせられたんだ。それはもう、スパルタにね』
「ふーん」
と、大型を倒し終えた更識がいつの間にか真正面にいた。忍者か?
手にはペットボトルを二本ずつ、そのうちの三本を俺たちにそれぞれ渡す。おい、俺だけ『青汁サイダー』ってゲテモノ渡されたぞ。
というか、これバクの部下が持ってきていたし、本当に気が効くというか、効きすぎるというか……。
「……それで、実は流派とかあったりするの?」
更識は某乳酸菌飲料を飲みながら問う。
「……ご流」
「え?」
「………ら……ご流」
「はっきり言いなよ!」
痺れを切らした更識が俺の襟を掴んだ。
降伏宣言のように両手を上げ諦めた。
「………平和流だ」
暫くな沈黙後、更識と愛花は笑った。
「いやあんた、それってあなたの名字でしょうが!!」
笑い転げる二人を予想していたが、実際に目の前で起こるとなんとも言えない羞恥心があるな。
それをどう捉えてか、遠くで談笑していたノブキ達がこぞってこちらに駆け寄ってきた。愛花と更識が笑いを電波させていく中で、ひとまず麻央を剥がす。
「ぶー!」
と不満げに頬を膨らます麻央をチョップする。
「暑いんだよ」
「いいじゃーん!」
「冬にしろよ……」
「冬ならいいの?」
「……余計なこと言った。やるな」
「やーだ!」
バッと抱きつこうとしたが、俺は今まさに舞う桜の花びらの如くひらっと避け、麻央はズサっとなる。まあ怪我は絶対しないだろうけど。
「ブーブーブー!!」
三倍になった麻央の頬をつつけば、しぼみ、ニコッとする。
麻央はそれでいい。いつも相手を考えてるのかいないのか、喜怒哀楽の激しい女子高生だ。ただ、それだけでいい。
きっと、今日のような日がまた来るだろう。だからこそ、今度はうまくやる。うまく騙して––––
「ユウマ」
……だけどさ、やめてくれよ。たまに見せるその顔を。子供に諭す朗らかな大人のような顔を。何もかもを真っ直ぐ、どう取り繕っても真相だけは見えているその目を。
「……わかるよユウマ」
「何がだよ?」
「次は絶対に呼んでよ」
「………」
「…自分だけで抱えないでよ」
心読むな。
いつのまにか周りも静かになってるとおもったら、全員俺たちを見ていた、様々な笑い方で。
俺らも忘れるな、と言いたげに。
「……リブ」
『あいさー』
俺は左手を横に、手のひらを上に、
「『アイテムジェネレート』」
パサッとそれは現れ、
「リブ、前に話した術式、眠ってたからって理由は聞かねーぞ』
『フッフッフ、パーフェクトな私にできないことはないさ! それよりユウマは魔力残ってるの?』
「二回分はある」
『失敗しないから!』
ドラマでも見てたかってノリでリブは答え、画面に術式を映しだす。
拡大し、縮小し、全体像を把握。それを転写し、
「あとはこれだな」
と、俺は手を叩き、「それ」に触れる。
ここで二種類の反応をするだろう。何も知らぬ者はただ光った現象に驚き、しかし知るものは瞬時に理解する。
「……まさか魔法だけじゃなくて《錬金術》も使えるの!?」
そう、更識は驚愕した。そう、アニメ等に理解があるやつなら、この動作で全てを理解する。
ハジメは苦笑気味に、
「カスミ、こっちに来るときにおかしな地面見なかったか?」
「……あの地面針のむしろってこれもこの馬鹿がやったの!?」
酷い言われようだった。
俺は魔法、物理戦闘の他に錬金術が使える。錬金術含めそれらは後天的に、あるいは遅れての転移特典か、はたまた知らなかっただけで先天的か、それら三つを駆使する戦闘が俺の最大の武器だ。今は若干弱体化しているが。
「そそ。だが流石にアニメみたいな頭脳はないから、見様見真似の錬金術だがな」
「それで地形壊されちゃたまったもんじゃないわよ……」
項垂れた更識と、それを笑ってなだめるハジメと、そんな二人に笑う周り。
それを麻央は笑い、俺も苦笑する。
今はまだ、過去から逃げていいだろうか?
今のまま、現実を無視し続けていいだろうか?




