『策士』か、『うつけ』か 4
「......ありえねーだろ」
「巻き込まれて災難だが、まあガンバ」
今更悪態つく柴田にエールを送りつつ、どこかにあったような超人球技を目の前で繰り広げられてため息がついこぼれる。
こんな非日常に対し、逞しいなと商店街の連中の商売根性にも感服する中、いまだ誰も内野、外野を行き来しているのがボールのみな彼らを見る。
「おりゃおりゃ!!」
「はあああああ!!」
「.........なんの」
「ひゃあああああああ!?」
もう一人の常識人、文坂はさすがにB組にいるだけあって運動、反射神経がいいようで、運悪く生き残っている。
その表情はレアな、かなり涙目であり、その眼は仲間の俺に対し助けを求めている。さすがにちょっとかわいそうなため、俺は動くことにした。
今なおボールは優華、麻央、沢上、そしてだんだん麻央に合わせられるようになった更識が投げ合い、柴田は俺のいる外野すれすれラインで傍観、文坂は板挟みに逃げる状態。あれからボールが来ない信木はしゃがんでとばっちりが来ないように黙ったいる。
さて、一応外野になったのにはちゃんと理由がある。九割五分は『さぼり』だが、残り五分は違う。
長い付き合いだ。優華はアイコンタクトで瞬時に反応し、ボールを誰もいないほうに投げる。
俺は優華にボールが渡ると考えたタイミングで右角から悟られないように対称側の角に駆け出していた。そして伸ばす右手はボールに触れる。
「しまっ—―――」
反応遅く手を伸ばす更識はしかし届かず、絶好の当てポジにいた、が―――。
「悪いな――――――『サトシ』!」
「へ―――ごヴぁ!!」
信木とは違った奇声を上げ、柴田は顔面に当たったボールを焦って手を伸ばすが、地面にバウンドする。
「......ほれ、サトシアウトな」
確かに当てるなら更識だが、どうも今投げても痛手にならない気がする。というより麻央が、どの方向に飛んでしまってもキャッチできるようにスタンバっていたから、あえてノーマークの柴田を狙う。
ま、こっち側にアウト狙えそうな文坂がノーマークで反射神経がよく、他四名がカオスなことしているから、唯一狙いやすい柴田倒して時間を稼ごうとしただけだ。ま、地味に勝利は狙っているよ、一応。
「......なんで」
更識は納得いかずプルプル震えるが、麻央の動きを理解できないうちは何言っても火に油だろうと言わずにいた。
そして疑問はもう一人、文坂が口を開く。
「......あの、ユウマさん? こっちに来ないんですか?」
一瞬理解できず首をかしげたが、『こっち=内野』とわかると俺は首を振った。
「いや、別に外野が内野に戻るかは任意だ。悪いな言い忘れた。あと、だ......」
と、綺麗に正面に当てたからか転がり戻ってきたボールを拾い、
「お前はいつまでさぼんだこの野郎ッ!!」
俺の放つボールは一直線に、信木の顔面に再び当てた。
「ごびゃ!!」
また変な奇声を上げたが知らん。俺は後出しじゃんけんのように、隠してたルールとともに信木に指差しいう。
「実は外野に当てても同じなんだよ。ノブキ、てめーアウトだから内野は入れ」
『はあ!?』
それにはノブキをはじめ、ほぼ全員が反応した。そして真っ先に沢上が反応する。
「いや待てユウマ! これは『ドッチボール』だろ? それにそれってむしろ不利になるだろ?」
「ハハッ! ハジメ、生真面目なのはいいが、俺がいつ、これの種目を『ドッチ』と明言した?」
「な...」
「悪いなハジメ、俺は似たものの例に『ドッチボール』を挙げたが、そうだ、とは明言していない!」
「だ、だが、現にこれじゃあ相手が有利だろ。お前が当てたから小中は内野に戻れるんだろ?」
「だが仲間が当てれば戻れない。それでおかしくはならん」
「だからそうじゃなく」
「そもそも、俺は別に勝敗はどうでもいいんだよ」
「はあ?」
まったく、頭がかてーな。俺は信木を当てたため内野に『自主的に』戻る。
「いいか、ここまでがチュートリアルだ。そもそもこの馬鹿がサボるのはわかっていたから外野に最初にいたんだよ」
と伸びている信木を引っ張り起こし、俺は最高に馬鹿にした顔で悪役口調で告げた。
「今ので一通りのルール説明は以上だ。今度こそ追加はない。さ、遊ぼうぜ!」
俺は『勝負』ではなく、たださっさと終わってしまわない『遊び』がしたかっただけなのだから。いいか、これは『オリエンテーション』だぞ?