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最期

最近は遠くまで飛べなくなった。

食べ物を探しに行くのも困難で、余計力が入らなくなっている。

これが死ぬということなのだろう。

今までの祖先と同じように、目の前で落ちていった仲間たちのように、私も地面に落ちて、そのまま土へと還るのだ。


「彼は、どうしているかしら……」

ふと、別れを切り出した彼のことが気になった。

あれから、仲間たちがずっと傍にいて遠くから様子を見ることも叶わなかったのだ。


「ずっと、待っているよ。」

誰かがそう答えた。


「あの木でずっと。声をかけられても、ずっとあなたを待っている。」

心臓がどくんと跳ねた。先ほどよりも力が入る。

彼は待っていてくれた。


どうしても、彼に会いたくなった。最期に彼の笑顔が見たいのだ。

翅を広げて、空を飛ぶ。

若い頃より速く飛べないけれど、私はまだ飛べる。

頻繁に葉の上で休ませてもらっては、彼の元へ急いだ。


どんどん力が抜けてくる。

あの大きな木はもう近くに居るというのに、あと一歩が遠い。

横たわっていた体を起こし、最後の力を振り絞って翅を広げた。


ふと、植物たちの隙間から、木とは違う黒を見つける。

彼だ! 思わず笑みがこぼれた途端、私の体から一気に力が抜けた。

強い衝撃と共に、舞った土が私の体に振りかかる。

必死で大木の方角に目を向けたけれど、植物が邪魔して彼の色は見つけられなかった。

触覚すら動かす力は残っていない。


もっと早く行動していれば……。

涙が頬を伝うのが分かった。


遠のく意識に、私は彼の幸せを願った。






僕は、ずっと待つよ。

飛べないけれど、一緒にいてくれるって。

だって、別れ際の彼女の顔は、やっぱり悲しそうな顔をしていたんだ。

きっとあの言葉は本心では無いって、何となくそう思ったんだ。


もう四肢を動かす力も残っていなくて、呼吸が浅いのが自分でもわかる。

心配そうに声をかけてくれる植物を見るが、薄らぼんやりとしていて少し焦点が合っていない。

ああ、眠いなあ。

「心配してくれて、ありがとう」

そう言って目を閉じる直前、僕の視界に鮮やかな黄色がチラついたのが見えた。

ハッとしたけれど、目を開ける力は残っていなくて。



それでも、瞼の裏には黄色の綺麗な翅が焼き付いていた。

モンキチョウとスズムシの話です。

本当はスズムシが鳴き始めるのは秋ごろ、モンキチョウが居なくなる頃なのですが……


また、この話は「たんぽぽ」作中に出てきた昆虫の淡い恋の話……のイメージです。


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