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それぞれの一日・シオリとマム

「シオリちゃん、おはよ☆」

「あ、マム。おはようなのだ。」

「シオリちゃん、またお話の続き書いてるの?」


 こちらは同日の籠目小学校の教室。まだ小学3年生だった詩織と真夢もそれなりの成長を遂げ、今は6年生として小学校に通っている。

 もちろん2人にもティムの記憶は残ってはいないが、それでも友情には微塵の変化も無く、相変わらず『2人で1セット』のような仲良しの毎日を送っていた。

 

「シオリちゃんのお話、最後はどういうふうになるの?」

「それがさ・・・。全然思い浮かばないんだよね。どうやって終わらせようかな?」


 実はあの日の事件の後から、詩織には奇妙な日課が生活の中に組み込まれていた。それは彼女の頭に思い浮かぶ不思議な物語をノートに書き留めていくこと。

 この物語には『君のポケットに届いた手紙』という題名が付けられていたが、正直詩織にはこの物語をいつから書き始めたかも、なぜ書いているのかもよく憶えてはいない。

 これは本来神酒が輝蘭のために書いていたもので、彼女が消えた後に奇妙な運命の流れから詩織が書き継いだものだから、あの日の記憶が残っていない詩織にとってそこが判らないのも無理からぬことだが、結局彼女はその本能のようなものの意に従い物語を書き続けているのである。


 しかしここで、詩織には一つ困った問題が起きていた。物語の結末がどうしても思い浮かばないのである。一応物語はエンディングを迎えてはいるのだが、それだと主人公が悲しい運命をたどることになり、ハッピーエンドを迎えたい彼女としては納得が出来ない。しかしだからと言って他のハッピーエンドのパターンもしっくりと来るものが無くて、早い話が作家特有のスランプのようなものに陥っていたのである。


「この物語の主人公って、どんな名前だったかな?」

「ミキなのだ。高村神酒っていう名前。」

「それじゃあ、そのミキって人が帰ってくることにしたらどう?」

「それが一番いいと思うけど・・・、なんだかしっくり来る方法が思い浮かばないのだ。」

「正義の味方が出てくるのは?」

「考えてみたよ。この【ティム】っていう銀のネコを使う方法も入れて、いろんな方法をね。でも・・・。」

「しっくり来ない?」

「うん。そうなのだ・・・。」


 真夢は詩織の隣に腰掛けると、彼女を励ますように笑顔で詩織の顔をのぞき込んだ。真夢の笑顔には不思議な力があるのか、次第に詩織の心の中に、『また頑張ろう』という強い意欲が湧き上がってくる。


「まあ締め切りがあるわけでも無いしね。もうちょっといろいろ考えてみようかな。」

「その意気だよ、シオリちゃん☆でもシオリちゃんが書く物語って、本当に不思議だな〜。」

「ん?どういうとこが?」

「う〜ん・・・。例えば出てくるキャラがマムたちになっているからかな。本当にマムたちが体験したような気持ちになってくるよ。」

「エヘヘ・・・。上手く書けてる?」

「シオリちゃん天才!それから・・・。」

「・・・・・?」


 そして真夢は詩織のノートに書かれたある単語を指さすと不思議そうな表情を浮かべ、再び詩織の顔を見た。詩織は真夢の言おうとしていることがうっすらと理解したらしく、その指の先の単語を見て、こちらも不思議そうな表情を浮かべる。


「それから、この【ティム】っていう銀のネコ。お話の中のキャラクターなのに、マムにはなんだか、本当にいたように思えるんだ・・・。」


「・・・うん。あたしもそう思う・・・」

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