オヤスミ☆
『と、まあ真実はこのような感じだったようです・・・。』
トーニャは少しため息を混じえあきらめ顔で話を終えたが、神酒は彼に同調するようにため息はついたものの、その顔は彼とは非常に対照的で、トーニャの話に大きな興味を持った様子だった。
『先日ミキ様のセレファイス行きの件を伝えるために、一度だけティム様がこちらにいらっしゃいましたが、もうその時は大変でした。姉はてっきりティム様が自分のために来たものと勘違いして、後はもう上へ下への大騒ぎです。結局ティム様はアタル様との面会の後に逃げるように帰ってしまわれましたが、あれ以来姉のご機嫌は斜めのままです。』
「それがティムがドリームランドに来たがらない理由か・・・。」
『姉は決して悪いネコでは無いのですが、少し気性が荒いのが玉にキズですので・・・。』
すると神酒は目を大きく開いて笑顔でトーニャに顔を近付けると、彼女がトーニャの話の途中で思い付いたことをペラペラと話し始めた。
「ねえ!つまりリャンはティムにラブラブなんだよね!」
『は?ま、まあそういうことだと思います。』
「あのね、あたしの勘なんだけど、もしかしてリャンって、相当美人・・・じゃ無くて美女なんじゃない?毛並みもキレイだし、顔も整ってるような気がするし!」
『ま、まあ弟の私が言うのもなんですが、あの性格が無ければ・・・。』
「ティムやる〜!!」
神酒はパチンと指を鳴らした。
彼女は正直言って、なんだかとてもうれしい気がしていた。そこには世話焼きおばさん的な意識もあったのかも知れないが、それよりももっと大きかったのは、神酒の知らない世界でも、ティムの事を好いてくれる存在がいたという事実である。
神酒がまだ地上にいた時、ティムはずっと詩織や真夢たちと一緒に過ごしていた。この2人の少女は優しく素直な子たちで、それはティムにとっても幸せな生活だったし、その事について変ともおかしいとも思ったことは無い。
しかし彼女はたまにフッと思うことがあった。それは、ティムの将来に関係すること。彼もいつかは伴侶を持つのが普通のような気もするが、ティムがアルマ以外のネコと仲良くしているところは見たことが無いし、そもそも彼がネコと言っていいのかどうかも判らない。神酒の一般的な人間に対する幸せの考え方がティムに当てはまるかどうかは不明だが、とにかく彼と同じ種族の仲間がいないことに、なんとなく違和感のようなものを持っていたのである。
しかし今、神酒はこのドリームランドの地に、あるいはティムと同じ種族とも思えるネコたちの存在を知った。そしてそれだけで無く、詩織や真夢よりももっと血の近い位置から彼を慕ってくれる異性がいることを確認できたのである。それは彼女にとって、今までどうしようも出来なかった小さなトゲが取れたような、スッキリ晴れた気持ちだった。
「でも、ティムも罪な子だよね☆どうせならリャンのこと、大事にしてあげればいいのに。」
『いえ、とんでもありません!ティム様はミキ様と共に私たちのためにも尽力していただいております!それを独り占めするような真似は・・・。』
「でも、恋愛には関係無いと思うけど・・・」
ふと神酒は腕を組み、ティムの性格を改めて思い返してみた。ティムはどこか思い込みが激しく、自分の考えをなかなか曲げない頑固な側面がある。おっちょこちょいで天然ボケのところもかなりあり、そこが彼の愛嬌と言えないことも無い。
そして仲間を想う気持ちには偽りは無く、自分が信じた相手にはとことん尽くす誠意がある。それこそが彼が永く仲間たちから信頼される大きな要因と言っても、決して言い過ぎでは無いのだろう。
ティムにはリャンの気持ち、まだ判らないかな?
一度でも彼女のことをよく知れば、きっと仲良くなれると思うんだけど・・。
でもよく考えると、どこかシュンに似てるかも?
『ミキ様。そろそろお眠りになったほうがよろしいのでは?きっと明日は早朝から忙しくなるはずですよ。』
「あ、うん。そうだね。」
トーニャの言葉に神酒はベッドに潜り込もうとしたが、急に何か思い付いたらしく、ニンマリとして突然トーニャを抱きしめるとベッドの中に引き込んだ。
『ミ、ミキ様?』
「お願い!あたしド〜モ眠れないと思ったら、多分いつも一緒に寝てるティムがいないからだと思うんだ!トーニャはあたしの護衛なんでしょ?だったらお願いだから、あたしの抱きマクラになってよ!」
『ええ!?』
突然の出来事に、トーニャは大きな戸惑いの表情を見せた。しかし神酒の重ねての少々強引なお願いに断り切れなくなり・・・。
『・・・判りました。でもこれは他のネコやティム様や姉には、ナイショにしておいてくださいね。』
「ヤリィ♪」
そして神酒はトーニャと共に、不思議な夢の世界での深い眠りに就いていった。




