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第一章『はじまり』

「今日でバンド抜けるから。」

バンド練習の最後、ボーカルが突然そう言った。

「はぁ!?」

彼の突然の言葉に、俺はもちろん他のメンバーも驚きの表情で楽器を片付けていた手を止めて彼を見た。

「ダチがやっているグループがデビューするんだけど、俺にボーカルやって欲しいって言われたんだよ。」

さらっと言う彼に、俺達はただ間抜けな表情で見つめることしかできなかった。

「もう高3だし、このままこのバンドでやっていくよりは少しでも上を目指せるところのほうがいいじゃん。3年間世話になったな。デビューしたらCD買ってくれよ。じゃあな。」

彼はそれだけ言うと、スタジオを後にした。


俺たちは3年前に4人でバンドを組んだ。たまたま同じクラスになって、たまたま音楽の話が合って集まった4人だった。

最初は趣味で楽器弾いてくらいだったけど、小さなステージに立ったりするうちにみんなででっかいステージに立つことを夢見ていた。

3年間あれこれ頑張ってみたけど、結果は出ず。練習をしていても喧嘩になることもしばしばあり、俺としてはやっぱりかという感じではあった。

「ユキとナオは、これからどうするんの?」

ドラムのリュウこと大倉 龍哉が尋ねた。いつも練習の後に集まる小さなカフェで、俺たちは今後のことを話していた。

「親がさ、音楽なんかやめて真面目に勉強しろってうるさいからな。大学行っといたほうがさ、今のご時世考えると将来は何とかなりそうじゃん。公務員になって、20過ぎで結婚とかしてさ、子供いてって普通の生活もありかなって。」

ベースのユキこと中島 有紀はそう答えながら読んでいた本のページをめくる。

「ユキは俺らの中でも一番成績いいじゃん。俺なんて、最後から数えた方が早いのに、大学なんて無理だよ。」

そう言って、リュウは机に沈みこむ。リュウはドラムに高校生活を費やしてきたため、勉強のほうは全然ダメらしい。

「なー、ナオはどうすんの?」

リュウが俺に話を振る。

バンドでギターをしていた俺は金城 直樹。ギターは兄貴の影響で中学から始めた。兄貴は大学3年で、隣の県にある大学に通って一人暮らしをしているため、最近は滅多に会うことはない。

「まぁ、俺もユキと同じで大学進学に向けて勉強かな。まだ6月だし、これから勉強頑張れば何とかなるだろ。」

運ばれてきたアイスコーヒーに手を伸ばす。6月にしては珍しく真夏日となった今日、冷たいアイスコーヒーはいつもよりおいしく感じた。

「俺は音楽続けたいんだよ。俺たちだけでも続けようぜ。」

沈んでいたリュウだけど、少し希望を持った目で俺たちを見ていた。

「俺はパス。趣味としては続けるかもしれないけど、これからは音楽よりも勉強メインになるからな。」

ユキは本から顔を上げることなくそう答えた。

「ボーカルいないし、このままバンド続けるのは無理だろ。リュウもこうなることは気づいていたんじゃないのか?」

俺が言うと、リュウは少し唸っていた。みんな気が付いていたが、誰もあえて口にしなかったことだ。

「わかってたよ。あいつが引き抜きの話あった時、実は俺、影で聞いちゃってたんだ。あいつ、俺たちの中で一番音楽の才能あるし、絶対行くとは思ってたけどさ。実際に行っちゃって、俺たちは解散ってなるとさすがにな。あいつにとって俺たちはその程度の存在だったんだって寂しいよな。」

すっかりいじけてしまったリュウは、そのまま机に突っ伏してしまった。そんなリュウの頭をユキは軽くポンポンと叩く。あまり話さないユキなりの慰め方なのかもしれない。

「よっし!決めた!」

突然立ち上がった俺に、驚いた表情の二人の視線が集まる。

「バンドは解散したけど、俺たちは親友だと俺は思ってる。リュウとユキに何かあれば俺はすぐに駆けつける。二人はどう思ってるかわかんないけど、俺はそう決めたから。」

そう言った俺に、二つの拳がとんできた。

「バカナオ。」

「俺たちは今までも、これからも親友だろ!今更当たり前なこと言うなよな!!」

ユキの呆れたような表情と、少し照れたようなリュウの顔に、俺は嬉しくて笑顔になってしまった。

「じゃあさ、最後だから悲しいのはなしってことで明るくいっちゃおうぜ!!」

俺は飲みかけのアイスコーヒーのグラスを手に取り目線の高さまで持ち上げた。

二人もそれぞれ自分のグラスを手に取り、三人で視線を交わす。

「三年間お疲れ!そして、俺たちのこれからも続く友情に向けて…」

「「「乾杯!!!」」」

グラス同士がぶつかるカチャンという音と、俺たちの明るい笑い声が店内に響き渡った。


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