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不本意にも冒険者ギルドの幹部に目を付けられてしまった諒は、大分王都を歩き回り、いかにも裏の人間がうろついていそうな、人気のない路地で隠形を解除した。念のため、魔力は消したままだ。
「…どうして異世界トリップ早々、隠れているんでしょうか、私は」
多少愚痴のような思いが湧いて言ってみたが、自分の不手際なので仕方ない。諒は溜め息を吐いて、路地から出ようと――したところで路地の奥の方から女性の悲鳴が上がった。
何かしら後ろ暗いところのある人間は、やはり人気のないこの路地でコトを起こすらしい。
実際諒も、人気がないからという理由で隠形の魔法を解除している。
諒は、表情だけは呑気に、不穏な声で呟いた。
「このタイミングですか?わざわざ私が路地に入った、このタイミングで悲鳴を上げるんですか?どこか作為的なものを感じるんですが…」
言いつつも、さっきまで出ようとしていた、たくさんの人が闊歩する大通りから身を翻した。
この際、手を出す余地があれば八つ当たりしてしまおうと思ったのだ。
いつもは穏やかな気性の諒だが、平穏に元の世界に還る方法を探したいのに、今日は冒険者ギルドマスターに興味を持たれたりして、後々面倒なことになりそうである。
最初から機嫌が悪かったこともあって、もはや自棄気味なのだ。
できることがあるなら、手伝いたいとも思っているが。
基本的に諒は、自分の行動の動機は全て、自分の都合、自分のためであって、純粋な善意はない、と考えている。
村を魔獣から守ったことも、自分の都合。その奥にあるものは、善意ではなく自己満足を求める心。
自棄の奥にあるものもまた然り。
穢れを知らない幼子とは違うのだから、純粋な善意はない。自分は決して聖人君子にはなり得ない。
自分を的確に表すなら、偽善者だろう。
諒は路地の奥に向かいながら、そう思った。
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「こ…ここ、どこだろう…」
人気のない路地で、暗い色の金髪に碧眼の、可愛らしい部類に入る容姿をした十七歳の少女、エセルは不安げに一人小声で言った。
エセルは割と勝気なところのある少女だったが、さすがに一人で道に迷うと不安にもなる。
加えて、入ってしまった路地は薄暗く、不気味だ。引き返そうとしても分岐点で間違った方へ進んだエセルは、どんどん奥へと来てしまっていた。
人気がないため、何か恐ろしいものでも出てきそうであり、そこがさらにエセルの不安を煽っている。
もう、ここから出られないのではないか。
エセルは、そんな焦りと不安でドキドキと鳴る胸にぎゅっと握った片手を当てて、早足で先に歩いた。
その時。
エセルの目の前に、ぬっと先から来たらしい男が二人現れた。
エセルは出かけた叫び声を呑み込んで、男に話しかける。
「すみません、私、道に迷ってしまったんです。大通りまで案内していただけませんか?」
やっと人に会うことができた、と安心したエセルだったが、彼女は失念していた。
このような路地で会う人間は、大抵ろくな人間ではない、ということを。
うら若い乙女である彼女が本来警戒すべきことなのに、迷子の恐怖のせいで、すっぽりと頭から抜け落ちていた。
ほっと一息ついたエセルをじろじろと眺め、男の一人が呟く。
「…上玉か」
「え?何ですか?」
自分に何か言われたと勘違いしたエセルが男に尋ねる。
しかし、男二人はそれを無視した。エセルの二の腕を掴み、路地の奥に歩き出す。
「な、何するんですか!? いやっ、ちょっと、離して!!」
誘拐されかかっていることに気付いたエセルが悲鳴を上げたが、男は強引にエセルを引きずっていく。
「やめて!いやぁ!!」
叫ぶエセルを、男が見下すような目で見て、ふん、と嘲笑った。平民の服を着るエセルを、適当な貴族の男の元へ売りとばすつもりなのだ。
「助けて!誰か、助けてぇっ」
エセルは暴れながら、無我夢中で魔法を使おうと、呪文を詠唱しようとした。
だが、敏感にそれを感じ取った男の一人に手で口を塞がれる。
「大人しくしてろ、殺すぞ」
男はうんざりしたように、手のかかるエセルを脅した。
エセルは黙り込む。どうしようどうしようどうしよう、と脳内で同じ言葉がぐるぐる回って繰り返される。
エセルは、迂闊に路地裏の住人に話しかけてしまったことを後悔した。自分の判断力のなさを、全力で恨む。あの時、彼女は適当な場所に隠れるべきだったのだ。…今更悔いても、もう遅いが。
そして、自分はどうなってしまうのか、と泣きそうになって考えた。




