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諒が宿を出て五日後。七回王都の鐘がなる午前七時きっかりに、諒はようやく行き先――セレクリュール王国王都、サランの入口に到着した。


いや、正確にはその一歩手前か。


何故なら、ただ今冒険者三人組に囲まれているからだ。理由は簡単、弱そうに見える諒をいいカモだと思ったらしく、この冒険者たちは恐喝という行動に出たのだ。


治安の悪いことだ。


諒は、なんとなく機嫌が悪かったので、少々イラッとしながらやはり表情は変えずに笑顔で剣を突きつけてくる冒険者三人を見た。


「何でしょう?」


聞くと、冒険者が睨みつけてくる。


「金を出せ」


単純明快な台詞だった。しかも、六日前に似たような言葉を聞いた気がする。


「えっと…何故に」


「お前が気に入らないからだよ。それに今、金欠なんでな」


諒の問いに、親切にも答えてくれた冒険者。いくら親切に答えたと言っても、内容がアレである。


「犯罪ですよね?理由なんてもはや、理不尽としか言えませんよね?」


諒は三人に確認した。諒の落ち着いた様子に驚いたのか、冒険者の一人の眉がぴくりと動く。しかし、残りの二人は諒を睨んだままだ。


「金を出せ」


二度目の金の要求が冒険者の口から出た。割と冷静だ。


諒は飄々と返事をした。


「少し難しいですね」


「早く、金を、出せ」


冒険者は粘るつもりのようだ。


諒は目を細めて冒険者三人を観察していたが、三人の態度が変わらないことを確認して、はぁっと息を吐いた。厄介だ。


しかもこの冒険者三人組、特に率先して諒に金を要求している男は、かなりの強者のようだ。隙のない立ち姿や、魔力が精密に練られていることからそれが分かる。


しかし逆に、そのような者が、わざわざ諒のように大したものなど持っていそうもない若造をピンポイントで狙うだろうか。


強いということは、つい先日出てきたような辺境の村でない限り、その戦闘能力で金儲けは容易いということだ。だから、そもそもの「金がない」ことからしてまず怪しい。


それに…記憶が正しければ、この男の魔力の波長は諒が昔トリップした時に、幼子だった諒が見ている前でギルド本部の裏口から出てきた上に、「マスター」などと呼ばれていた男のものと同一。


と、いうことはだ。もしかすれば。


諒は意図して黒い笑みを浮かべる。


「いいんですか?冒険者ギルドマスターとギルドの幹部が何の罪もない一般人をかつあげしていた、という体験に基づいた噂を流しても」


「なっ!?」


すっぱりと切り込めば、冒険者――ではなく、ギルドマスターがぎょっとした声を上げる。


諒は見極めるように三人を見つめた。


「これ以上私の邪魔をするなら社会的に抹殺して差し上げますが」


重い沈黙が諒と三人の間に流れる。


静寂を破ったのは、ギルドマスターだった。


「………悪かった。膨大な魔力を感じたものでな。慌ててギルド本部を出てきたというわけだ」


素直に剣を下ろし、諒に謝った。


「マスター!? 言ってしまっていいんですか!?」


今度は動揺した幹部が叫ぶ。


「心配いらん。どうせバレている」


そうだろう?と諒を愉快そうに眺めるギルドマスター。諒はもう既に黒い笑みを消して、いつも通りの穏和な表情に戻っていた。


「私を試すおつもりだったでしょう。そんな不審な行動はやめてくださいね。ついうっかり面白いゴシップを流しかけましたよ」


「…恐ろしいな、お前」


輝くいい笑顔でさらりと黒い発言をする諒を、ギルドマスターが気味が悪そうな顔で見る。幹部二人もかなり引いていた。


諒としては、腹黒い青年のような演技をしているだけなので、演技がうまくいっていると喜べばいいのか、心外だと悲しめばいいのか微妙な気分だ。


まあそう気にするようなことでもないのですぐに別の思考に移った。


噂云々については機嫌が悪かったため少し脅したのだが、小心者の田舎者を演じれば余計な警戒をされずに済んだ可能性もある。


そこのところをちょっとだけ反省して、諒は三人に宣言した。


「話も終わったので、私はもう行きます。無駄な時間をとらせないでくださいね。では」


勝手に話を完結させてさっさと歩き出す。ギルドマスターには今のところ関心はないので、待て、と呼ばれた気がしたものの無視する。厄介事は大体避けるに限る。


ギルドマスターは諒の魔力に驚いてここまで来た人種の上、冒険者ギルドという戦闘能力のある者を採用して働かせる職場のマスターをしているので、もう目を付けられたかもしれないが、今更である。


諒は最後に一度振り返ってギルドマスターたち三人に右手を二回振って挨拶し、追われないよう魔力ごと姿を消した。


三人が目を見開いて辺りをきょろきょろと見回している。大方、魔力まで消えたのに驚いたのだろう。


魔力は隠せないのが常識である。


二度も異世界トリップしたような青年に常識など通じるわけがないが。


諒は狐につままれたような顔の三人を尻目に、透明人間状態でのんびりと王都に入った。




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