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アタシは課長職を降ろされた。まあ覚悟はしていたが。
三ヶ月連続で一人のスタッフも派遣できなかったことに加え、アライ君をはじめチーム全体の売り上げも落ちていたことが原因だ。
アタシとは対照的に、トミタさんの勢いは止まらなかった。七月にもまた一人、スタッフを増員した。オオカワのいる現場だ。これで三人目である。どうなってるの、まったく……。
アタシに代わって新しく課長に任命されたのが、誰あろうトミタさんだった。そりゃないっしょ、でも、彼の実績からしたら妥当な人事と言える。
それで、トミタさんは横浜支社から本社へ異動。代わりにアタシの部下だったアライ君が横浜へ異動となった。ごめん、アライ君。
ようするに、いままでアタシがいたポジションにトミタさんが入り、アライ君がいたポジションにアタシが(以下、略)。
アタシの腹はすでに決まっていた。辞表を出そう、と。
トミタさんと顔を合わせるのが辛かったわけではない。彼の下で営業として、いま以上にいい働きができる気がしなかったのだ。それならば……
つぎのプランをアタシは考えていた。それをトミタさんに伝えるべく、アタシは彼をひそかに喫茶店へ呼び出した。イタリアン・ポマトとかいう例のヘンな名前の喫茶店だ。
「マジっすか」
トミタさんは口を開けたまま固まってしまった。
「マジです」
アタシは毅然とした態度で言った。すると彼は顔を掻きながら、
「いや、でも、もったいないですよ。せっかく今まで、営業をやってきたのに……」
しばらく間をおいてアタシは言った。
「オオカワさんも、きっとこんな気持ちだったと思います。いまの環境を変えたいっていうか」
「なにかアテでも、あるんです?」
「アタシ、オペレータやります」
「はっ?」
トミタさんは二の句を継げずにいた。
「オペレータになって、オオカワさんたちのいる現場に入りたい。営業担当はもちろんあなたです、トミタさん」
アタシは言った。本心だった。
「マ、マジっすか……でも、どうして」
「だって楽しそうじゃないですか。変わり者のオオカワさんに、お調子者のタキオカさん。最近入ったシンタニさんはまだよく知らないけど、あなたが選んだスタッフなら間違いないはず」
トミタさんは唸ってしまった。
「正直、ボクとしては痛いですね。剛流さんが今まで纏められていた営業チームをボクが預かるわけだから、貴女のサポートを期待しているんですが」
「……ごめんなさい」
少しの沈黙のあと、トミタさんが口を開いた。
「でも品川の現場だって、これ以上増員がかかるか、わからないですし」
「あくまでアタシの希望です。でも、まだ増えそうじゃないですか、あすこ」
これは営業としての、アタシの最期の勘だった。




