秘密結社に入ることになりました —①—
■東京都内のタクシー乗り場■
「夜中の2時に…あ、ここだ。」
真夜中の東京…というか東京自体初めて来た。まだ少し肌寒い季節だが、ミニスカートでも全然大丈夫だ。そんな5月の夜、流石に私以外には誰もタクシーを待っている人はいない。
(本当にこんな時間にタクシーが来るのかな。)
ブゥーン…
「あ。」
向こうから1台のタクシーがやってきた。車体はニジイロクワガタのような光沢を放っている。
キキーッ
車体には、普通のタクシーには書いているであろう、タクシー会社のロゴが描かれていない。
バタンッ
「どちらまで?」
「あ、えーと…。」
いざ行き先を言おうとすると言葉が詰まってしまう。本当なのだろうか?
あんな"都市伝説"─────。
「だ…誰かに見られてる気がするので、とにかくお任せのルートを走ってください…。」
「(ピクッ)…承知しました。」
ブゥーン…
本来であれば「コイツは何を言ってるんだ?」と不思議に思うようなオーダーにも一切疑問を持たずに、1つ返事で了承した運転手さん。そのまま人気のない道をゆっくりと走り出した。
ブゥーン…
真夜中で人通りの少ない東京の道を走るタクシー。10分くらい走っただろうか。運転手さんはコチラに何も言ってこない。
「あの…。」
「はい、何でしょう?」
「音楽とかって…流して貰えるんですか?」
「……………ええ、良いですよ。曲はコチラで決めてよろしいですか?」
「あ…えっと…スティーリー・ダンの"DirtyWork"とか…その、流せますか?」
「……………ええ。」
私のリクエストを受けた運転手がスピーカーに手を伸ばす。流れ出した曲は、スティーリー・ダンのDirtyWork。正直よくわからない。別にこの人たちのファンという訳でもない。
ただ、"10分くらい走ったところでスティーリー・ダンのDirtyWorkを流してもらう"ことが重要なのだ。
ネオンやビルの光が後ろに流れていく。外は誰も歩いていない。そもそもここは東京のどの辺なのだろう?真夜中でも人が歩いていると聞いていたのだが。
「……………お客さん。」
「は、はい。」
「かなり走ってますが、どの辺まで行きましょう?」
「え、あ、そ…そうですね…えーっと…。」
この質問には確か…!
「人通りの少ない…路地裏の目の前に。」
「…わかりました。」
"人通りの少ない路地裏を行き先に指定する"これが3つ目のルール。
それから5分くらい走っただろうか?東京とは思えないほど人も建物も少ない場所にタクシーが停まった。周りには路地裏どころか、路地裏ができそうな建物すらない場所に。
「15000円になります。」
「へ?」
「料金ですよ。15000円になります。」
「あ、えーと…その、あの…い、15000円…ですか!?あの…えーっと…!」
「払わないんですか?なら元の場所に戻りますが。」
「あ、えーと…そのあの…すみません…今持ち合わせてなくて…。」
「……………そうですか。では最初のタクシー乗り場に戻りますので。」
「あ!ま、待ってください!それは私…困ります!どうしてもここで降りたくて…その、今度必ず払いますから…!」
そうだ、ここまで来て戻るわけにはいかないのだ。私は絶対に"あの人たちに会わなければならない"のだ。そうじゃないと…わざわざこんな所まで来た意味がない。
「……………なるほど。少々お待ちください。」
「へ?」
バタンッ
「ちょ!ちょっと…!」
運転手がタクシーから降りて歩き出す!
「え、えー…ど、どうしよう…。」
1人でタクシーの中に残されてしまった。ここから出ようにも外は誰もいないし怖いし…それなら朝まで車内で待ったほうが安全かもしれないし…。
こんなの書いてなかった!ネットの都市伝説サイトには…ま、まさか私、何かを間違ったのかな…。
などと色々考えて、どれほどの時間が経ったのだろうか。スマホで現在地を調べようにも、何故か圏外で繋がらない。
「…………………………えーっと…。」
どうすれば良いのだろう…そう思っていた時、向こう側から運転手さんが戻って来ている。
そしてドアが開き──────
「ずっと待っていたので?」
「え!?あ、はい…外出るの怖いから…。」
「……………わかりました。では、ここからは御一人で…私が言う通りに歩いて下さい。」
「え…ひ、1人ですか…!?」
「ええ…良いですか?まずは───────」
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アレからどれくらい歩いただろうか。
30分くらい?
私以外に誰もいない道をあっちに行ったりこっちに行ったりしていると…目的地が見えてきた。
「あそこかな…って、あれ…?」
向こう側に人が立っている。女の子だ⋯歳は私と同じくらい?時と場所に似つかわしくない、とても気品のある綺麗な子だ。こんな時間に1人で…まさか私と同じ目的で?
小走りで駆け寄っていく。するとこちらに気づいた女の子が優しく微笑む。
「あら?」
「こ…こんばんわ…。」
「道に迷われましたの?」
「い、いえ!」
「そうですの?こんな時間に女性が御一人で…とってもとっても危険ですわ?」
「は…はい…。」
「この場所には?どのようにして来られたのですか?」
「タクシーの運転手さんに言われて…。」
「あら…そうですのね。」
「は…はいあの…"Watcher's"ってご存知ですか?」
「あらまあ…お客様ですわ。」
「お…お客様…ってことは貴方は…!」
「こちらへどうぞ。お話は中で聞かせていただきますわ。」
そう言って指差した路地裏を歩いていく女性。私は急いで後をついていく。
「良くここまで辿り着きましたわね♡」
「あ、えーっと…はい。」
「ネットには3つ目の条件までしか流していないはずですわ?」
「や…やっぱり他にもあったんですか…!?」
「ええ…さ、どうぞこちらへ。」
女の子に案内されるがままにやってきたのは古ボケた扉の前だった。古ボケてはいるが、手入れはしっかりされていてオシャレな雰囲気。
というかあの路地裏から結構歩いた気がする。もうここがどの辺なのかなんて、東京の人でもわからないだろう。
ギィ…
女の子がドアを開けると、そこには人が5人くらいしか入らない程度の空間が広がっていた。
「あ、あの…これは?」
「エレベーターですよ?」
「直で…!?」
「ええ♡お入り下さい♡」
「お…お邪魔します…。」
「77階ですわ。」
「え、ここって2階くらいでしたよ?」
「いいえ、77階ですわ♡」
77階!?先程入る前に確認したが、この建物は2階ぐらいしかなかったぞ!?もしや騙されているのか!?
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隣に立っている女の子は正面を向いている。とても綺麗な横顔…頭のてっぺんから足の先まで、凄まじい品格を纏っている。
「(ニコッ)」
「あ…えへへ…/////」
こちらを見て微笑んだ顔に思わず照れてしまう。とてもではないが、ここが本当に"都市伝説通りの組織"なのであれば、そんな組織の人間とは思えないくらいの人だ。まるでどこかのお嬢様というか、そう言えばどこかで見たことあるような感じがすると言うか。
チーン…
なんて思っているうちに着いてしまった…目の前のドアが開く。
「ここが"Watcher's"の本拠地ですわ♡」
女の子が迎えてくれた先、驚きの光景が私の目に飛び込んで来た。
目の前にはとても広い部屋が広がっていた。高い天井や内装は、まるで海外のお城のようだ。本当にここは日本なのか?と疑ってしまうくらいの場所。
そして────────
「光子、案内ありがとう。」
「いやん♡ルンちゃまに褒めていただけましたわ♡」
「なるほど…君がクライアントだね。」
水色の髪をした人がこちらに歩いてくる。
女の子のような…とっても綺麗な顔をした男の子だ。
「"提示された料金を払わない"…"何があってもタクシーから出ない"…"運転手の言った通りの道を来る"そして、"運よくうちのメンバーに会う"。おめでとう、ちゃんと条件を満たせたみたいだ。」
「運よく…って、最後の1つに運が絡むんですか…!?」
驚愕のルールに思わず思ったことが口から出てしまった…すると、男の子の後ろから、ピョコッと顔を出した女の子が食い気味で
「そうだよっ!最後の最後に運が絡む…そこまでのラッキー人間じゃないと、ウチの敷居をまたぐ価値なし!ってね☆」
白いフードを上げながら元気よく説明してくれた女の子、アイドルのように可愛い顔をしている。
「こらこら…お客さんに失礼だよ?」
「はーい!ごっめんなさーい!」
「失礼したね。」
「あ、いえあの…お気になさらず。」
「申し遅れた…僕は"聖光晶・R・クラウンシュテルン"。Rは"レックスブライト"と読む。この組織のリーダーを務めている者だ。」
「え…貴方が…?」
「そしてようこそ。ここは"Watcher's"の東京支部…というか本部だよ。」
"東京には、世界の平和を守るために戦っている謎の組織が存在する"─────。そんな都市伝説を信じて、田舎からやってきた私は、とうとう探していた人たちに出会うことができたらしい。
「わ…私は"小鳥遊ぽぽ"です…!ここで働きたくて…あ、青森から来ました…!その、えーっと…不束者ですが、どうかよろしくお願いします!」
これは…とある都市伝説を信じて上京してきた1人の女の子が目撃した、誰も知らない場所で世界を監視する秘密結社"Watcher's"の、活躍を描いた物語である。




