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白銀の狼は血に濡れている。  作者: 真田遼一朗
白銀の狼は気高く吠える。
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鉄の磐創者

「やはり能力犯罪者の心象能力のレベルは士狼を上回っているようだな」


 楓はとある建物の廊下を歩きながらそう呟いた。


 見えぬはずの戦いを観測し、両者の戦力差を正しく評価している。


「しかし士狼の強みを持ってすれば多少の差など些事に過ぎない」


 信頼、あるいは他にも見えているものがあるのか楓はそう言い切った。


「——さて、俺も仕事を始めるとするか」


 戦いの行方など興味なさそうに楓は目的の場所へ仕事をしに歩いていくのだった。




         ◇




「……次は、お前を倒す」


「——まさか、もう勝った気でいるのか? その程度で俺を倒せるとでも?」


 俺の発言に退くどころか前に向かってこようとしているタイトはさらにその心象力を極限まで研ぎ澄ましている。


「元より俺は一人で戦ってきた。今日会ったばかりの奴が居なくなったからって俺の強さは変わらない」


 再び能力が使用される兆しが見える。


 この距離では発動を阻止するにはギリギリ間に合わない。


 俺は相手の能力発動に合わせて再度自分の能力を発動させ、効果を十全に発揮させる。


「そうかい。それでも、俺に倒されてもらう」


「やってみろ、イヌっころ——」


 真っ向から言い合いの後、駆け出した俺たちは真っ正面からぶつかり合った。


「「能力発動!!!」」


「【白銀の孤狼】」


「【鉱石の軌跡(ヴォロエル)】」


 互いに能力で強化した腕——俺は狼の膂力、タイトは鉄の籠手——で激しく衝突する。


 力は驚くべき事に互角だった。


 心象力による身体強化なのだろうが、それでも俺と張り合えるくらいに強い。


 俺の能力のアドバンテージは使用する心象力の効率が良いと言う点だけだ。


 だから別に力で優位に立てない事は不思議じゃない。


 しかし、このまま戦っていても残存する心象力に差が生まれるのは明白だ。


 それが分からないような奴ではない事は戦っていれば分かる。


 まあ、タイトの思惑がどうあれ真っ向から叩き潰すことが俺の能力者としての戦い方としても合っているだろうし一番良い気がする。


 やがて拮抗した力が反発し、俺とタイトはそれぞれ後ろへ弾き飛ばされる。


「くっ」


 体勢を崩し後方に飛ばされた俺は近くにあった竹を掴み、軸にして回転し、もう一度タイトに攻撃を仕掛ける。


「はあああああ——」


 俺の攻撃が迫る中、タイトは即座に作った鉄の剣を地面に突き立て体勢を立て直した。


「舐めるな、この程度……」


 そして攻撃の寸前、俺との間に鉄の壁を作り出し攻撃を防いだ。


 だが、鉄板に向けてなら人間相手には気が引けて使えなかった爪の鋭さが火を噴く。


 防御されてすぐに俺は今まで拳に集めていた狼の爪の力を広げ、目の前に現れた鉄板を瞬時に切り刻む。


 バラバラになった鉄板の先の未だギラギラと光る金色に俺は不意の一撃を繰り出す。


 が、タイトは読んでいたようで全て受け止められてしまった。


「お前の攻撃はもう見切った」


「くっ」


 タイトが言った通り俺の攻撃は全て往なされるか防がれてしまっている。


 パワーはともかくスピードなら負けないと思ったが、そうもいかないらしい。


 心象力の感知で分かった事だが、奴は身体能力だけでなく動体視力をも心象力で強化しているのだ。


 しかし、そんな使い方では長くは持たない。


 つまり——。


「短期決戦狙いか——」


「ああ。だが、分かったところでお前はどうする事も出来ないがな」


 そう言い今度はタイトの方から何かを仕掛けてくるようだ。


 さらに強化した身体能力でタイトは一気に攻勢に転じてきた。


 瞬間的にだけ俺より速く強く放たれてくる攻撃に防戦一方になってしまう。


 なんとか動きに喰らいつくもほんの少しの隙を突かれ、タイトの攻撃を完全に防御できずに俺は吹き飛ばされた。


「オラァ!!!」


 攻撃が決まったにも関わらずタイトは間髪入れずに追撃を入れに迫り来る。


 タイトは体勢が崩れた俺の苦し紛れの防御の上から作り出した鉄の鎖を巻きつけ、吹き飛ぶ俺の勢いをさらに加速させるように振り回してきた。


「ぐっ、吐きそう」


 竹を何本も薙ぎ倒しながら振り回され続ける俺はやがて遠心力で地面か何かしらの建造物に叩きつけられてしまうだろう。きっと痛い。


 竹は時間が経てば勝手に修復されるから心配はいらない。


 黙ってこのまま好きにさせる程お手上げって訳じゃない。


 タイトは今、心象力を過度に使って身体強化で俺を超える力を出している。


 しかし、常にそんな状態で戦っていたらすぐにでも心象力が底を突く。


 つまりあいつは使うべき時に一気に使い、それ以外の時は必要最低限の身を守る程度しか使っていない。


 俺はそのほんの僅かな緩みを狙う。


 俺の能力が上回るその瞬間を。


 俺を振り回している時、あいつは定期的に加速している。


 常にではなく勢いが無くなる瞬間に都度心象力を使いその速度を維持している。俺を拘束し続ける為に。


 加速の後に再度加速するのはさすがにきついはず。


 俺は竹にぶつかりながら加速のタイミングを待った。


 一本、二本、三本を俺でへし折った後、減衰した勢いをタイトは心象力で強化し俺を振り回す速度を再度上げた。


 そして、また竹にぶつけようとしたその瞬間、俺は今まで温存していた力を振り絞り眼前に迫っていた竹を蹴り衝突を防いだのだった。


 あとはこの少しの猶予さえあれば主導権を取り戻せる。


 久方振りの地面の感触を二本の足で確かめながら俺は自分を縛っている鎖を掴んだ。


 そのまま対応される前に今度はこっちが投げ飛ばす。


 しっかりと振り回さそうと鎖を腕に巻いていたのが仇となり、タイトは逆に逃げられない。


 俺はタイトが鎖を手放す前に思いっきりぶん回した。


 抵抗する間もなく放り出されたタイトは俺にされるがままに左に吹っ飛んでいく。


 このまま俺にしたように竹にぶつけてやれば相当なダメージが入るだろう。


 心象力で強化しようにも、もう間に合わない。最低限の身を守る程度しか出来ない。


 これは確実に決まった。そう思った瞬間、手に持った鎖が忽然と手の中から消えたのだった。


「おっとと、危なっ」


 急に無くなるもんだからスカッと空を切ったままの勢いで竹にぶつかりそうになって、ギリギリのところで止まった。


 対するタイトの方は自分でタイミングを決められる分、上手い具合に受け身を取っていた。


 しかし、どう言う事だ。あいつの能力はただ作るだけの能力じゃなかったのか。


 消える前提で作っていたのか。いや、それなら未だに地面に転がっている鉄斧は何だ。


 俺が壊したものから壊さず弾いたものまで全部が残っている。


 よって壊れる云々とは関係ない条件で消えるものと消えないものと二種類の創造物を作ることが出来ると一先ずは仮定する。


「してやってくれたな。体のあちこちがまだ痛むぞ」


 俺は軽い文句でタイトの出方を伺った。


 すると、タイトは荒々しく言葉を返してきた。


「おいポチ公、能力に対する認識が甘いんじゃねえのか?」


「そうかな、俺は段々とお前の能力が分かってきたところだ。すぐにでもお返ししてやるよ」


 何とか口で対抗したは良いもののあまり良い状況とは言えない。


 危機は脱したがこのままでは短期決戦の力負けでやられてしまう。


 この状況を打開するには相手の能力と動きを心象力による感知で見極めなければ。


 距離を詰め、攻撃を撃ち合いタイトの動きを間近で観察する。


 心象力による爆発的な強化のタイミングは大体掴めた。


 隙を晒さないように気を付ければさっきのような展開にはならない。


 それに加え、俺はさらに動きを複雑化させて攻撃を仕掛けた。


 平面的ではなく立体的な動き、すなわち竹を足場として空を駆けるフライングウルフ。


 俺の目にも留まらぬ変幻自在な動きに対応できないタイト。


 このまま押していけばやがてタイトの心象力は先に尽きるだろう。


 連撃を止める術は奴にはもう無い。そう思っていた……、そんな俺の死角から数分前を思い出させる鉄の斧が飛来した。


 それは難なく壊すが、そこを突かれ接近戦に持ち込まれてしまう。


 それは別に良い。まだ心象力に余裕があるからな。


 それよりも今の攻撃だ。鉄の斧の投擲という攻撃。


 あれは念動力の能力があったから使えていた手段だ。


 それをタイトだけで行うとなると、能力の範囲内で少し無理してやっているのだろう。


 鎖が消えた事と合わせて基本的な能力の概要から考えると答えは見えてくる。


 ダメ押しに感知で見えた心象力の軌跡を証拠とするとタイトの能力の正体が判明する。


「……まさか、お前の能力は作る途中で止めることが出来るのか。作りだしてこの世に存在を確定させるまでに猶予があってそのタイミングでキャンセルも出来る。だから、消せるし能力の一部として動かせるんだろ?」


 至近距離で俺を逃さないように攻撃を繰り出し続けるタイトに自分の至った結論を話した。


「お前の言う通り俺の能力は好きな場所に鉄製のものを作れる。心象力は余分に使うが、物体として作らずに保持して動かせば遠隔の攻撃手段にもなる——」


 そう言いかけてタイトは俺の腕をガシッと掴んで捕まえてきた。


 そして——。


「こんな風にな!」


 そう叫んだタイトが右に避けた頭の後ろから鉄の剣が回転しながら俺の顔面に迫ってくる。


 不意の攻撃に俺は反応できない。


 この状況で避けるのは不可能だ。


 そんな中、俺が取った行動は実にシンプルなものだった。


「こうなったら、一か八かだ!」


 反射的、あるいは本能的に俺は大きく口を開け、眼前に迫った剣を粉々に跡形もなく噛み砕いたのだった。


 もちろん本当に俺の虫歯のない真っ白な歯で噛み砕いた訳ではない。


 爪の時と同じだ。獣人の形態で能力を使う時、爪の力を腕や手に顕現させるように口の周りに一回り大きい牙の力をオーラのような形で顕現させたのだ。


 口の近くな分使い勝手は悪いが、当たれば破壊力は抜群だ。


 あまりの衝撃的な防がれ方に面を食らったタイトに透かさず爪の攻撃を放った。


 さすがにこの近さでは防げなかったらしくそれなりのダメージが入ったようだ。


 心象力も目に見えて減ってきている。


 俺の方も振り回されたりと蓄積されたダメージが体にきている。


 決着はもうすぐだ。

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