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白銀の狼は血に濡れている。  作者: 真田遼一朗
白銀の狼は気高く吠える。
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血狐のレッスン②

 昼食を食べ終え、俺は戦闘を教わる為、ボスについていくところだ。


 ちなみにナポリタンは凄く美味しかった。


「じゃあ、行こうか」


「あれ、店の外じゃないんですか?」


「うん、訓練するからね。訓練場に行くんだよ」


 そんなことを言いながらボスは俺をキッチンへ連れてきた。


「そう、ウェルカムトゥアンダーグラウンドってやつさ」


 ボスはそう言って俺たちの真下を指差した。




 隠し通路を抜け、出来たばかりの綺麗なエレベーターに乗り俺は喫茶店のさらに下へ降りていた。


 エレベーターのボタンの数からして地下に広がる施設は恐らくこの街全体に及んでいるだろう。


 それが出来るのも血ノ森財閥の財力がとてつもないからだ。


 一体いくら稼いで——そんな考えが頭を過ったが、目的の階へと到着したエレベーターの扉から覗いた景色にその答えがあった。


 一言で言うと近未来。そんな感想が浮かんできた。


 真っ白くしかして無機質ではないお洒落な長い廊下が辛うじて見える突き当たりのドアまで続いていた。


「訓練室はあの突き当たりの部屋だよ。地下だから騒音を気にしなくてよくて楽なんだ〜」


 訓練室に向かう道中もボスによる部屋の案内を聞いて進んだ。


 ちなみに部屋の扉は全て自動ドアらしい。恐ろしい限りだ。


「着いたね」


 そして突き当たりの部屋、訓練室に着いた。


 中は思っていた以上に広く、大体のスポーツが出来そうなくらいのスペースがあった。


 だだっ広い部屋の中央で俺はボスと向かい合った。


「さて、戦おうか」


「いきなりですか?」


 唐突な展開に俺は戸惑った。


 レッスンと言いながらぶっつけ本番はスパルタが過ぎる気がする。


 そんな俺の抗議の表情にボスは真っ当な意見で返した。


「能力の使い方は発現した時点で何となく分かっているはずだ。なら、俺に教えられるのは基本的な戦い方だけだと思ってね」


 そう言い終えるとボスは俺の答えを待たずに背後に九つの赤い尾を出現させた。


 そして、その内の二つの尾を使って二つの分身を作ったのだった。


 分身は寸分違わずボスの姿を再現していた。


 残った尾が無ければ本体がどれか分からなくなる程の分身の手にはそれぞれ能力で作り出したと思われる武器が握られている。


 俺から右に位置する分身は二丁の赤い銃、左に位置する分身は背丈より長い赤い槍を持っていた。


「この分身と俺が君の今日の訓練相手だよ」


 俺が質問する間もなく無茶な訓練が始まろうとしている。


 分身だけでもキツそうのにボスまでもが赤い小太刀を二振りその手に作り戦闘態勢に入っていた。


 あたふたする俺なんかお構いなしにボスは訓練の説明を続けた。


「勝利条件は俺に一撃を喰らわせること、手段は問わない。時間は無制限。強いて言うなら仕事まで。質問があるなら今受けるけど——」


「——いや、何も教わらずに戦える気がしないんですけど」


 能力の事はボスが言った通り一から十まで理解している。


 しかし、やれることが分かっていても上手く使える気がしないのだ。


「じゃあ一つだけアドバイスするけど、能力を使って狼にならない方が良いよ」


 しょうがないなあ、と言いたげな様子でボスは説明を始めた。


「え、何でですか?」


「より具体的に言うと、人間の姿のまま狼の力を使えるようになった方が良い。そうすれば普段と同じ感覚で体を動かせるから、さっきより戦いやすくなると思うよ」


「でも、そんな簡単に出来るものなんでしょうか?」


「そんな君にこれを——」


 ボスはどこからか取り出したスマホの画面に表示した狼の耳と尾を持った人間のイラストを見せてきたのだった。


「何ですか、これ?」


「いわゆる獣人だよ。知らない?」


「あんまりそういうのには疎くて」


 そもそも俺はそういう二次元系はさっぱりだ。


 有名どころでも名前を聞いた事があるくらいの認識だ。


「なるほど、だからか」


「と、言うと?」


「心象能力は言わば自分の心の写し身。士狼の中に獣人という情報が無かったから、言われても出来る気が全くしなかったんだろう」


 自分の中に元々無い発想を生み出す事は認識を変えない限り出来ない。


 良くも悪くも自分で完結しているから認識次第で能力の幅は大きく変わりそうだ。


「ほら、今なら出来るはずだよ。認識は既に変わっているからね。それに君の能力は多分、狼になる能力なんじゃなくて狼のようになる能力なんじゃないかな」


 詳しくは分からないけどね、とボスは付け足した。


 ボスの言っている事は分かる。


 俺の能力は白銀の狼への憧憬が根底にある。


 気高くたとえ独りでも強く生きていけるようなそんな風になりたいと俺は昔、思ったのだろう。


 自分を無くした今の俺には感覚で分かっても本当の意味では理解できていない。


 俺は体を上手く変化させる為、ゆっくりと能力を発動させた。


「上出来だね」


 ボスの発言で俺は自分がしっかり人型のままで狼——獣人の姿になれていることを確認した。


 能力を発動している事は見なくても感覚で分かるが、姿云々の差異はさすがに自分では分からない。


「これで戦いやすくなったね。普段からこの状態を維持できれば、より能力の練度は上がるはずだよ」


「無理じゃないですか、これ。頭のケモ耳も目立つし……」


「大丈夫でしょ。能力の影響で髪色と目の色が変わってるんだし、どっちにしたって目立つんだから。帽子でも被れば分かんないよ、多分——」


 ボスの何気ない一言に一瞬フリーズした後、人生史上最も素っ頓狂な声が出た。


「え、変わってるんですか?!」


「うん、ばっちり」


 ボスが向けたスマホのカメラに映った俺の姿は変わり果てたものだった。


 白銀の狼の毛並みを思わせるモフモフした白色の頭髪。獲物を狙う狼の金色の瞳。


 それらを持つ俺の顔はもはや日本人だなんて思えない。そんなレベルの変わり様だ。


 カッコいいとは思うけど。


「え、これ。能力使ってない時もこうなんですか?」


「そうだよ。ほら、俺の目が紅いのも同じく能力の影響だし」


 確かによくよく考えれば目が赤いなんて普通じゃない。


 俺は慣れるべき変化だと受け止め、話を次に進めた。


「分かりました。見た目に関しては慣れていきます。——それで、能力も発動したことですし、本当に戦るんですね?」


「抵抗があるのは分かるけど、少しは情けは捨てないとすぐに殺されちゃうよ」


 ボスはそんな物騒なことを笑顔で言った。


 しかし、ボスの言うことも理解できる。


 今の俺の意識では恐らく大事な場面で高い確率で何かしらをやらかすだろう。


「そんな君に助言だ」


「助言ですか?」


「ああ、君の気を少しでも紛らわす為の助言だよ」


 ボスはそう言ってアドバイスを話し始めた。


「能力者は殺す気じゃないと倒せないよ。どんな能力者も身体強化しているからね。現に君も今朝の戦いで攻撃を受けたのにも関わらず全くダメージを受けていなかったからね」


「確かにあんな攻撃を受けても何とも無かった……」


「だから相手に気を使う事は全く無いんだよ。もちろん訓練相手である俺にも——」


 ボスは俺の心を見透かすようにそう告げた。


 そして、補足として重要そうな情報をさらっと付け足してきた。


「あと、おまけに教えてあげるよ。心象力の使い方について——」


「心象力の使い方、能力にして使う以外にも使い道があるんですか?」


「ああ、さっき言った通り能力者は皆身体強化をしている。けど、利用している原理は士狼とは別のものなんだ」


「——まさか、それが心象力の使い方の一つという事ですか?!」


「その通り、と言っても士狼にはその使い方は合わないけどね。基本的に能力の方が効率は良いし——」


 俺を見てじっくり考えた後、ボスは口を開いた。


「うん、やっぱり君に教えるのは簡単な感知と引き寄せくらいが良いね」


「感知と引き寄せ……ですか?」


「うん。感知は他の人の心象力を調べることの出来る方法で、引き寄せは軽い念動力って感じかな。まあ少しの距離しか引き寄せられないんだけどね」


 さらにボスは俺が分かりやすいように実践し始めた。


 懐から出会った時付けていた狐の面を取り出し地面に置いた。


「ついでに感知の練習として俺の事を心象力を通して見ておいて。コツとしては自分の心象力を知覚した時と同じ感覚で自分以外を見ること、かな」


「分かりました」


 言われた通り俺はまず心から溢れる自分の心象力を知覚した。そしてその感覚を外に広げ、ボスと周りの環境全てを心で見た。


 俺の準備が整った事を感じ取ったボスが心象力で狐の面を引き寄せた。


 ゆっくりと地面から引き寄せられる狐の面とボスの手の間には確かに心象力が見られた。


 しかも、その奥に微かに底の見えない光——心象力があるのが見えた。


 これが心象力の使い方。


 俺はさらに自分の心の奥に進めた気がした。


「次は士狼がこの狐面を引き寄せてみて」


「はい」


 俺は感覚を忘れない内に心象力を使ってボスの持つ狐の面を引き寄せた。


「成功だね。これで最低限は教えられたかな。あとは実戦だけだね」


「はい。そうですね」


 そうして向かい合った俺とボスは次の訓練に移るのだった。


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