第99話 「新たな価値」
王都へ戻ったレインは、久しぶりに静かな朝を迎えていた。
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窓の外では、市場が開き始めている。
行商人の声。
鍛冶屋の槌音。
遠くで鳴る鐘。
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平和だった。
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だが。
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レインの机の上には、ひとつの黒い石が置かれていた。
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「……まだ反応してるな」
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追放後、各地の秘宝を見抜き、世界の真価を暴いてきた彼の眼。
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その眼が、今まで見たことのない反応を示していた。
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黒い石の内部。
見えるのは――
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“空白”。
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「……価値が見えない?」
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リリアが驚いた声を出す。
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レインは小さく首を振った。
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「違う」
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「価値が無いんじゃない」
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「……価値が、測れない」
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部屋の空気が変わる。
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鑑定士レイン。
世界中のあらゆる物に潜む価値を見抜く男。
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その彼が。
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“見抜けない物”が現れた。
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「……面白くなってきたじゃない」
エルミナが笑う。
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セリスは石へ近づき、静かに言う。
「魔力波形が異常です」
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ノアは肩をすくめる。
「また厄介ごとだね」
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レインは石を持ち上げた。
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冷たい。
だが奥で何かが脈打っている。
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その瞬間。
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眼が、勝手に反応した。
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視界に文字が浮かぶ。
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【未解析対象】
【世界外由来】
【接触危険度:高】
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「……っ!」
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レインが石を取り落とす。
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床に落ちた黒石は、音もなく転がった。
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「レイン!?」
リリアが駆け寄る。
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額に汗が滲む。
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今までこんなことはなかった。
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秘宝も、呪物も、神具も見抜いてきた。
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だがこれは違う。
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「……世界外、だと?」
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エルミナの顔から笑みが消える。
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「それ……この世界の物ではない、という意味?」
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沈黙。
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レインはゆっくり頷いた。
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「たぶんな」
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「そして……誰かが持ち込んだ」
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窓の外で鐘が鳴る。
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王城からの緊急招集だった。
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「……タイミングが良すぎる」
ノアが呟く。
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レインは黒石を拾い上げる。
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その奥に。
微かに、別の景色が見えた。
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見知らぬ空。
知らぬ都市。
こちらを見返す“誰か”。
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「……次の面倒が来たな」
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王都の平和は、終わる。
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――第99話 完




