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第80話 「歪みの向こう」

 “その先”を目指す流れは、止まらなかった。



 境界だった場所。



 今では、完全に機能が変わっている。


 通路でもない。


 交差点でもない。



 “研究拠点”。



「……もう完全に別物ですね」


 リリアが呟く。


 そこには、以前の面影はない。


 整然とした配置。


 規則的な動き。


 そして――


 同じ試行の繰り返し。


 エルミナが静かに言う。


「ええ」


「目的が明確です」


 セリスが低く言う。


「……到達の再現」


 ノアが笑う。


「いいね」



 中心にいるのは。



 あの個体。



 最初に越えた存在。



「……」


 アレンが、その姿を見る。



 さらに変わっていた。



 動きに迷いがない。


 判断が速い。


 そして――



 “理解している”。



「……完全にリーダーだな」


 小さく呟く。



 その個体が。



 動く。



 地面に線を引く。


 図を描く。


 だが。



 以前とは違う。



 “層”がある。



「……?」


 リリアが首をかしげる。


「なんか……複雑じゃないですか?」


 エルミナが静かに言う。


「ええ」


「多層構造です」


 セリスが低く言う。


「……一次、二次、三次」


 ノアが笑う。


「やばいね」



 彼らは。



 単なる再現ではなく。



 “仕組み”を理解し始めていた。



 どの条件で。


 どの段階で。


 何が起きるのか。



 それを。



 “分解している”。



「……」


 リリアが小さく言う。


「これ……」


「もう止まらないやつですよね」


 アレンは答えない。



 試行が始まる。



 複数の個体が配置につく。


 位置を合わせる。


 角度を揃える。



 そして。



 同時に動く。



 火。


 意識。


 動き。



 すべてが同期する。



「……」


 空気が震える。



 以前と同じ。



 だが。



 違う。



 “安定している”。



「……っ!」


「揺れてる……!」


 リリアが叫ぶ。


 エルミナが静かに言う。


「ええ」


「持続しています」


 セリスが低く言う。


「……干渉の安定化」


 ノアが笑う。


「来たね」



 裂け目が、開く。



 小さい。



 だが。



 消えない。



「……」


 アレンがそれを見る。



 以前は一瞬だった。



 今は。



 “保たれている”。



「……やったな」



 下では。



 個体たちが。



 驚かない。



 恐れない。



 ただ――



 “次に進む”。



 一体が。



 手を伸ばす。



 裂け目へ。



「……」


「……行く」


 リリアが呟く。



 触れる。



 そして。



 引かない。



 踏み込む。



「……っ!」


 エルミナが息を呑む。


 セリスが低く言う。


「……越境」


 ノアが笑う。


「増えたね」



 次々と。



 個体が。



 裂け目に触れる。



 踏み込む。



 戻る。



 また行く。



「……」


 リリアが小さく言う。


「これ……普通になってきてません?」


 エルミナが頷く。


「ええ」


 セリスが低く言う。


「……再現成功」


 ノアが笑う。


「文明レベル上がったね」



 だが。



 その時。



「……?」


 アレンが、目を細める。



 違和感。



 今度は。



 こちら側。



「……何か……変です」


 リリアが言う。


 エルミナが静かに言う。


「ええ」


「空間が……」


 セリスが低く言う。


「……歪んでいる」


 ノアが笑う。


「来たね」



 裂け目の周囲。



 わずかに。



 空間が“揺らぐ”。



 今までは。



 下だけの現象だった。



 だが。



 今は違う。



「……」


 アレンが小さく呟く。



「……影響が来てるな」



 こちら側に。



 “干渉”が及んでいる。



「……それって」


 リリアが言う。


「……まずくないですか?」


 エルミナが静かに続ける。


「ええ」


「境界が……」


 セリスが低く言う。


「……薄くなっている」


 ノアが笑う。


「面白いじゃん」


「やめろ」


 アレンが短く言う。



 下では。



 さらに。



 裂け目が安定する。



 広がる。



 深くなる。



「……」


 アレンが、それを見る。



 これは。



 もはや。



 “接触”ではない。



 “侵食”。



「……」


 小さく息を吐く。



 ここまで来た。



 許した。



 見守った。



 だが。



 その結果。



 “こちら側”が変わり始めている。



「……」


 リリアが言う。


「アレン……」


 エルミナが続ける。


「……どうしますか」


 セリスが低く言う。


「……限界を越えつつある」


 ノアが静かに言う。


「ねぇ」


「ここからどうするの?」



 沈黙。



 アレンは。


 裂け目を見る。



 そこから伸びる手。



 増え続ける到達者。



 そして。



 揺らぐ空間。



「……」


 小さく呟く。



「……いい」



「……え?」


 リリアが驚く。


 エルミナが目を見開く。


 セリスが低く言う。


「……まだ許すのか」


 ノアが笑う。


「最高」



 アレンが言う。



「……ここまで来たなら」



「……最後まで見届ける」



 それは。



 完全な“覚悟”。



 止めない。



 壊れない限り。



 進ませる。



「……」


 空を見る。



 歪みは、広がる。



 だが。



 まだ。



 崩れてはいない。



「……」


 小さく呟く。



「……どこまで行く」



 世界は。



 次の段階へ。



 確実に。



 進んでいた。



――第80話 完


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