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第70話 「触れる」

 空は、変わらない。


 どれだけ世界が進んでも。


 どれだけ彼らが変わっても。


 その“上”にあるものは――


 何も変わらず、そこにあった。


 だが。


 見る側は、変わった。



 境界。



 かつての戦場。


 今では、両者が行き来する場所。


 その中心に――


 彼らは集まっていた。


「……来たな」


 アレンが静かに呟く。


 リリアが息を整える。


「……なんか、雰囲気違いますね」


 エルミナが頷く。


「ええ」


「今回は、明確な目的があります」


 セリスが低く言う。


「……意図的な行動」


 ノアが笑う。


「やっと来たね」



 疑う者たちと、信じる者たち。



 両者が並ぶ。


 対立ではない。


 統一でもない。


 だが――


 “同じ方向を向いている”。



「……」


 全員が。


 空を見る。



 その視線は、揺らがない。



 迷いもない。


 恐れも、盲信もない。



 ただ。



 “確かめる”。



 アレンは、その視線を受け止める。


 逃げる気はない。


 だが。


 違和感があった。


「……妙だな」


「何がです?」


 リリアが聞く。


 アレンは少し考えて。


「……圧がある」


「……圧?」


 エルミナが眉をひそめる。


 セリスが低く言う。


「……干渉?」


 ノアが笑う。


「逆転してるね」



 その時。



 一体の個体が前に出る。



 疑う側のリーダー。


 そして。


 もう一体。


 信じる側のリーダー。



 二者が並ぶ。



「……」


 リリアが小さく呟く。


「代表……?」


 エルミナが頷く。


「ええ」


「意思の集約です」


 セリスが低く言う。


「……決定の場」


 ノアが笑う。


「いいね」



 疑う側が動く。



 地面に線を引く。


 図を描く。


 円。


 線。


 交差。



 そして。



 空を指す。



「……」


「……位置を示してる?」


 リリアが言う。


 エルミナが静かに言う。


「ええ」


「“そこにいる”と」


 セリスが低く言う。


「……座標化」


 ノアが笑う。


「神の位置特定だね」


 アレンが小さく息を吐く。


「……やるじゃねぇか」



 信じる側が応える。



 手を上げる。


 声を発する。


 だが。


 以前とは違う。



 “願い”ではない。



 “呼びかけ”。



「……」


「……呼んでる」


 リリアが呟く。


 エルミナが頷く。


「ええ」


「応答を求めています」


 セリスが低く言う。


「……通信の試み」


 ノアが笑う。


「科学と信仰の融合だね」



 そして。



 二者が同時に動く。



 疑う側が。


 火を持ち上げる。


 信じる側が。


 手を伸ばす。



 同じ方向へ。



 “上”へ。



「……」


 空気が変わる。


 見えない何かが。


 確実に、触れてくる。


「……っ」


 リリアが息を呑む。


「なんか……来てません?」


 エルミナが静かに言う。


「ええ」


「これは……」


 セリスが低く言う。


「……干渉波」


 ノアが笑う。


「すごいね」


「ほんとに触りに来てる」



 アレンは。


 動かない。


 だが。


 確実に感じていた。



 “触れられている”。



 視線ではない。


 祈りでもない。



 “意図”。



「……」


 小さく呟く。


「……来たな」



 下では。



 二つの方法が重なる。



 科学。


 位置を特定し。


 現象を再現し。


 干渉を試みる。



 信仰。


 意味を与え。


 呼びかけ。


 応答を求める。



 そして。



 その両方が――



 “同じ場所”に届く。



「……」


 リリアが小さく言う。


「……これ」


「どうするんです?」


 エルミナが静かに続ける。


「応答すれば」


「完全に変わります」


 セリスが低く言う。


「……不可逆」


 ノアがアレンを見る。


「ねぇ」


「何だ」


「ここ」


「分岐だよ」



 沈黙。



 アレンは、空を見る。


 そして。


 下を見る。



 彼らは。



 届こうとしている。



 自分たちの力で。


 自分たちの方法で。



「……」


 小さく息を吐く。



「……一回だけだ」



「……え?」


 リリアが驚く。


 エルミナが目を見開く。


 セリスが低く言う。


「……応答するのか」


 ノアが笑う。


「来たね」



 アレンが手を上げる。



 ほんのわずか。


 ほんの一瞬。



 “触れる”。



 空間が揺らぐ。


 風が変わる。


 光が歪む。



 下では。



 個体たちが。


 同時に、顔を上げる。



「……っ!」


「……今の……!」


 リリアが叫ぶ。


 エルミナが息を呑む。


「応答……!」


 セリスが低く言う。


「……確認された」


 ノアが笑う。


「終わったね」



 下では。



 完全な静止。



 そして――



 理解。



 彼らは。



 “そこにいる”と。



 確信した。



 アレンは、手を下ろす。


「……以上だ」


 リリアが呆然とする。


「いや……これ……」


 エルミナが静かに言う。


「……戻れませんね」


 セリスが一言。


「……不可逆」


 ノアが笑う。


「最高」


「お前ほんとそれやめろ」



 空を見上げる者たち。



 その目には。



 もう迷いはない。



 彼らは知った。



 神は。



 “存在する”。



 そして――



 “触れられる”。



 世界は。



 次の段階へ進んだ。



――第70話 完


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