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第67話 「定義」

 世界は、次の段階へ進んでいた。


 戦いではない。


 だが。


 それ以上に深い――


 “理解の戦い”。



 森の外縁。


 疑う者たちの拠点。



 火は絶えず灯り。


 夜でも活動は止まらない。


 だが今、彼らが見ているのは――


 “火そのもの”だった。


「……見てますね」


 リリアが呟く。


 一体の個体が、じっと火を見つめている。


 ただ暖を取るためではない。


 観察している。


「……変化を追っている」


 エルミナが言う。


 セリスが低く続ける。


「……揺れ、消耗、広がり」


 ノアが笑う。


「いいね」


「ちゃんと気づき始めてる」


 アレンが静かに頷く。


「……規則だな」



 火は、勝手に燃えているわけではない。



 条件がある。


 燃えるもの。


 空気。


 維持する手。



 それを。



 “理解し始めている”。



 一体の個体が、火に素材を加える。


 火が強くなる。


 別の個体が、それを止める。


 火が弱まる。


「……」


「……コントロールしてる」


 リリアが呟く。


 エルミナが言う。


「ええ」


「原因と結果を結びつけています」


 セリスが低く言う。


「……再現性の確立」


 ノアが続ける。


「つまり」


「“法則”の発見」


 アレンが小さく笑う。


「来たな」



 彼らは。



 世界を。



 “説明できるもの”にし始めていた。



 一方で。



 森の中央。


 信じる者たちの拠点。



 こちらもまた。


 変化していた。



「……静かですね」


 リリアが言う。


 以前のような激しい動きはない。


 だが。


 空気は、張り詰めている。


 エルミナが静かに言う。


「ええ」


「収束しています」


 セリスが低く言う。


「……統一が進んだ」


 ノアが笑う。


「完成しに来てるね」



 塔の下。


 個体たちが整列している。


 だが。


 以前とは違う。


 ただ揃うのではない。


 “意味を持って並んでいる”。


「……あれ」


 リリアが指差す。


 個体たちの配置。


 同じではない。


 位置に違いがある。


「……役割分担」


 エルミナが言う。


 セリスが頷く。


「……階層」


 ノアが続ける。


「序列だね」


 アレンがその様子を見る。


「……できたな」



 その時。



 中央のリーダーが、声を発する。



 以前よりも。


 はるかに長く。


 複雑で。


 そして――


 “構造化されている”。


「……」


「……何これ」


 リリアが呟く。


 エルミナが静かに言う。


「……文章です」


 セリスが低く言う。


「……教えを伝えている」


 ノアが笑う。


「教義だね」


 アレンが頷く。


「……まとめたな」



 信仰は。



 “形”になった。



 何を信じるのか。


 どう行動するのか。


 何が正しいのか。



 それが。



 言葉として、残される。



「……すごいですね」


 リリアが呟く。


 エルミナが微笑む。


「ええ」


「非常に高度です」


 セリスが一言。


「……統治可能」


 ノアが言う。


「これで集団が崩れなくなる」



 そして。



 両者は、再び近づく。



 境界。


 あの場所。


 火と塔が見える距離。


「……来るな」


 アレンが呟く。



 疑う者たちのリーダー。



 手に、火を持つ。


 小さな炎。


 だが――


 制御されている。



 信じる者たちのリーダー。



 手を上げる。


 声を発する。


 周囲が揃う。



 対峙。



「……」


 リリアが息を呑む。


 エルミナが静かに言う。


「……今度は戦いではありません」


 セリスが低く言う。


「……定義の衝突」


 ノアが笑う。


「来たね、本番」



 疑う側が、動く。



 火を掲げる。


 そして。


 それを見せる。


 燃える。


 変わる。


 消える。



 “説明”。



「……」


 リリアが呟く。


「見せてる……?」


 エルミナが言う。


「ええ」


「現象の提示です」


 セリスが続ける。


「……理解を求めている」


 ノアが言う。


「“神じゃなくて、これが原因だ”ってね」



 対して。



 信じる側が、応える。



 空を指す。


 言葉を発する。


 繰り返す。



 “意味”。



「……」


「……否定してる」


 リリアが言う。


 エルミナが頷く。


「ええ」


「“それではない”と」


 セリスが低く言う。


「……別の定義」


 ノアが笑う。


「いいね」



 火か。


 神か。



 どちらが世界を説明するのか。



「……」


 アレンが静かにそれを見る。


 どちらも間違っていない。


 どちらも正しい。


 ただ。



 “見ている範囲が違う”。



 疑う者は。


 現象を見る。


 信じる者は。


 意味を見る。



「……いいね」


 アレンが小さく呟く。


 リリアが言う。


「何がです?」


「ぶつかってる」


 エルミナが微笑む。


「ええ」


 セリスが一言。


「……必要だ」


 ノアが笑う。


「ここで世界決まるよ」



 沈黙。



 そして。



 両者は。



 “理解しないまま”



 距離を取る。



 戦わない。


 だが。


 分かり合わない。



「……」


 リリアが呟く。


「これ……どうなるんですか?」


 アレンが空を見る。


「……続く」


「……え?」


「決着はまだ先だ」


 エルミナが頷く。


「ええ」


 セリスが言う。


「……深化する」


 ノアが笑う。


「ここからが一番面白い」



 神とは何か。


 世界とは何か。



 その答えは。



 まだ、誰も知らない。



 だが――



 確実に。



 “定義されようとしている”。



――第67話 完


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