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第60話 「二つの道」

 問いは、返らなかった。


 だからこそ――


 世界は、動き出した。



 最初に動いたのは。



 疑う者たちだった。



「……動きが変わった」


 エルミナが静かに言う。


 森の外縁。


 彼らの拠点。


 そこでは、明らかに変化が起きていた。


「……速いな」


 アレンが呟く。


 リリアが覗き込む。


「なんか……めちゃくちゃ忙しそうじゃないですか?」


 個体たちは。


 地面を掘る。


 木を組む。


 石を重ねる。


「……構造物が進化してる」


 セリスが言う。


 ノアが頷く。


「うん」


「試行回数が増えてる」


 失敗する。


 壊れる。


 だが。


 また作る。


 繰り返す。


「……止まらないですね」


 エルミナが言う。


 アレンが答える。


「当然だろ」


「頼る先がない」


「だから」


「自分でやるしかない」



 やがて。



 一つの“成果”が生まれる。



「……あれ」


 リリアが目を見開く。


 個体が。


 石を叩き。


 削り。


 形を整える。


「……道具?」


 エルミナが呟く。


 セリスが低く言う。


「……加工」


 ノアが笑う。


「来たね」


 アレンが言う。


「これで加速する」



 道具が。



 文明を押し上げる。



 一方で。



 信じる者たちも。



 止まってはいなかった。



「……こっちも変わってる」


 リリアが言う。


 森の中央。


 信仰の拠点。


 そこでは――


「……高くなってる」


 エルミナが呟く。


 木と石を積み上げた構造物。


 上へ。


 上へ。


 空へ向かって。


「……塔だな」


 アレンが言う。


 セリスが低く言う。


「……象徴構造」


 ノアが笑う。


「神に近づこうとしてる」


 リリアが苦笑する。


「分かりやすすぎません?」


 エルミナが静かに言う。


「ですが」


「理にかなっています」


「上にいると認識しているなら」


「上を目指す」


 アレンが小さく笑う。


「まぁな」



 二つの道。



 片方は。


 “自分で到達する”。


 もう片方は。


 “上に近づく”。



「……完全に分かれましたね」


 リリアが言う。


 セリスが頷く。


「……収束しない」


 ノアが続ける。


「むしろ」


「加速する」


 エルミナがアレンを見る。


「……どう思われますか?」


 アレンは少し考える。


 そして。


「……いいんじゃないか」


「……え?」


「どっちも正しい」


「ただ」


「方向が違うだけだ」


 リリアが笑う。


「雑ですねぇ」


「本質だ」



 その時。



 疑う側で。



 新たな動きが生まれる。



「……?」


 エルミナが目を細める。


 一体の個体が。


 道具を使い。


 火を起こそうとしていた。


「……まさか」


 セリスが低く言う。


「……エネルギー制御」


 ノアが笑う。


「来たね」


 アレンが言う。


「これはデカい」



 そして。



 火が生まれる。



「……っ!」


「ついた……!」


 リリアが叫ぶ。


 小さな火。


 だが。


 確実に。


 世界を変える力。


「……文明の転換点です」


 エルミナが言う。


 セリスが頷く。


「……不可逆」


 ノアが言う。


「ここから一気に来るよ」



 一方で。



 信じる側。



 塔は、さらに高くなる。


 個体たちは。


 疲れても。


 止まらない。


 ただ。


 上を目指す。


「……すごい執念ですね」


 リリアが呟く。


 エルミナが静かに言う。


「ええ」


「信仰の力です」


 セリスが低く言う。


「……合理性ではない」


 ノアが笑う。


「でも強い」


 アレンがその光景を見る。


「……どっちも強いな」



 その時。



 疑う側のリーダーが。


 火を見つめる。



 そして。


 空を見る。


「……」


「……また見てる」


 リリアが言う。


 だが。


 その目は。


 以前とは違う。



 恐れでも。


 祈りでもない。



 “理解しようとする目”。



「……」


 アレンが小さく呟く。


「……いいね」


 エルミナが微笑む。


「ええ」


 セリスが一言。


「……進んでいる」


 ノアが笑う。


「どっちもね」



 二つの道。



 交わらない。



 だが。



 どちらも、前に進んでいる。



 そして。



 その先にあるものは――



 まだ誰も知らない。



――第60話 完


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