第59話 「問い」
対話は、続いていた。
だが――
進んでは、戻る。
理解しかけては、すれ違う。
完全な一致には、ほど遠い。
「……やっぱり簡単じゃないですね」
リリアが腕を組む。
森の中央。
二つの集団は、距離を保ちながらも、接触を繰り返していた。
エルミナが静かに言う。
「ええ」
「ですが、確実に変化はあります」
セリスが頷く。
「……衝突の頻度は減少」
ノアが笑う。
「でも」
「決定打がない」
アレンがそれを見ながら呟く。
「……分岐点だな」
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その日。
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再び、両者のリーダーが対峙する。
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今度は。
以前よりも近い距離。
周囲の個体も、静かに見守っている。
「……」
信じる側が、先に動く。
空を指す。
そして。
言葉を発する。
以前よりも長く。
明確に。
「……強くなってる」
リリアが言う。
エルミナが頷く。
「“意味”が増しています」
セリスが低く言う。
「……体系化されている」
ノアが続ける。
「教えになり始めてる」
疑う側は、それを聞く。
そして――
地面を指す。
資源を示す。
仲間を示す。
現実を、突きつける。
「……ぶつかってるな」
アレンが言う。
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信仰か。
現実か。
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どちらを選ぶのか。
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その時。
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信じる側が。
“新しい動き”を見せる。
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空を指した後。
自分たちの拠点を示す。
そして。
疑う側に向けて。
“誘う”ような仕草。
「……?」
リリアが首をかしげる。
エルミナが言う。
「……共存の提案」
セリスが頷く。
「……統合しようとしている」
ノアが笑う。
「なるほど」
「飲み込む気だ」
疑う側のリーダーは。
それをじっと見る。
考える。
周囲を見る。
仲間を見る。
そして――
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首を振る。
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「……っ」
リリアが息を呑む。
「拒否した……」
エルミナが静かに言う。
「価値観の維持を選びました」
セリスが低く言う。
「……分裂確定」
ノアが小さく笑う。
「来たね」
アレンが目を細める。
「……ここからだ」
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空気が変わる。
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張り詰める。
今までとは違う。
逃げ道のない選択。
共存か。
決裂か。
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その瞬間。
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疑う側のリーダーが。
空を見上げる。
⸻
「……?」
リリアが驚く。
その個体。
初めて。
長く。
じっと。
空を見続ける。
「……何してるんだ?」
アレンが呟く。
そして。
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言葉を発する。
⸻
ゆっくりと。
だが。
はっきりと。
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“問い”。
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「……」
「……今の」
リリアが呟く。
エルミナが息を呑む。
「……問いかけです」
セリスが低く言う。
「……対象は」
ノアがアレンを見る。
「こっちだね」
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疑う者が。
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神に問う。
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それは。
信仰ではない。
恐怖でもない。
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“確認”だ。
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「……」
静寂。
アレンは、その言葉を受け取る。
意味。
意図。
そして。
その裏にあるもの。
「……知りたがってるな」
リリアが言う。
「答えるんですか?」
エルミナが静かに続ける。
「……ここで応答すれば」
「世界は大きく変わります」
セリスが言う。
「……不可逆だ」
ノアが笑う。
「どうする?」
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全員の視線が集まる。
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アレンは、空を見た。
自分たちの位置。
世界との距離。
そして。
今、この瞬間。
「……」
もし答えれば。
彼らは確信する。
神はいると。
もし答えなければ。
彼らは探し続ける。
考え続ける。
選び続ける。
「……」
ゆっくりと。
息を吐く。
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「……まだだ」
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答えない。
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リリアが小さく頷く。
「……ですよね」
エルミナが微笑む。
「ええ」
セリスが一言。
「……妥当」
ノアが笑う。
「いいね」
「一番面白い選択」
アレンが苦笑する。
「だからそれやめろ」
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下では。
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問いは、返ってこない。
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疑う者は、空を見たまま。
しばらく動かない。
そして。
ゆっくりと。
視線を落とす。
「……」
その目は。
迷いではなく。
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“決意”だった。
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「……来るな」
アレンが呟く。
リリアが言う。
「何がです?」
エルミナが静かに言う。
「……選択の結果」
セリスが低く言う。
「……行動に出る」
ノアが笑う。
「ここからが本番」
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問いは、返らなかった。
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だからこそ。
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彼らは、自分で選ぶ。
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その先にあるものを。
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――第59話 完




