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第46話 「未観測」

 それは、違和感だった。


 世界の“外”を知ったあとでも。


 なお残る、違和感。


「……これか」


 アレンが呟く。


 視界の端に映るそれ。



【未観測領域】

状態:未定義

価値:測定不能



「……見えてるのに」


「分からない」


 リリアが首をかしげる。


「そんなことあるんですか?」


「普通はない」


 エルミナが静かに言う。


「“視えている”時点で、何らかの定義があるはずです」


 セリスが低く呟く。


「……だがこれは」


「定義が存在しない」


 ノアが珍しく黙っていた。


「……それ」


 少しだけ、真面目な声で言う。


「やめた方がいいかも」


「珍しいな」


 アレンが横を見る。


「止める側か」


「うん」


 ノアは頷く。


「そこ」


「私でもよく分からない」


「……へぇ」


 アレンが笑う。


「それは逆に行きたくなるな」


「だと思った」


 ノアがため息をつく。


「ほんと止まらないね」


「今さらだ」


 リリアが笑う。


「行きましょうよ」


「ここまで来て引き返すとかないです」


 エルミナも頷く。


「同意です」


「未知こそ価値があります」


 セリスが一言。


「……進むだけだ」


 全員一致。


 ノアが小さく笑う。


「……まぁ」


「そうなるよね」



 アレンが一歩踏み出す。



 その瞬間。



 “すべてが途切れた”。



「……は?」


 声が出ない。


 いや。


 声という概念がない。


 音がない。


 光がない。


 存在の“感覚”すら曖昧になる。


「……」


 アレンは立っている。


 だが。


 “立っている”という定義も怪しい。


 視る。


 だが視界がない。


 感じる。


 だが感覚がない。


「……」


 初めて。


 アレンは“認識できない”状態に入った。



【認識エラー】

原因:未定義領域



「……面白い」


 それでも笑う。


 そして。


 思考する。


「なら」


「定義する」


 手を伸ばす。


 何もない場所へ。


「ここを」


「“ある”とする」



 瞬間。



 空間が生まれる。



「……っ!?」


 リリアの声が戻る。


「何これ!?」


「……空間が生成された……?」


 エルミナが驚く。


 セリスが周囲を見る。


「……何もなかった場所に」


「世界を作ったのか」


 ノアが目を細める。


「……ほんとにやるんだ」


 アレンが周囲を見る。


 まだ不安定。


 だが確かに“存在している”。


「……なるほどな」


「ここ」


「何もないんじゃない」


「“まだ決まってないだけ”だ」


 ノアが頷く。


「うん」


「未観測ってそういう意味」


「誰も定義してない」


「だから何でもあり」


 リリアが笑う。


「じゃあ最強じゃないですか」


「そうとも言える」


 だが。


 その瞬間。



 “何か”が生まれた。



「……」


「……?」


「……何あれ」


 それは。


 形がない。


 存在がない。


 だが。


 確実に“そこにいる”。



【不明】

状態:未定義

危険度:測定不能



「……」


 アレンが見る。


 だが。


 読めない。


「……初めてだな」


 呟く。


「見えない」


 ノアが低く言う。


「それ」


「たぶん“逆”」


「……逆?」


「うん」


「“何もない”から」


「何にも当てはまらない」


 エルミナが息を呑む。


「……無属性どころではない」


「概念外……」


 セリスが剣を構える。


「……警戒」


 リリアが笑う。


「いいですね」


「燃えてきました」


 その瞬間。


 “それ”が動いた。


 いや。


 “何かが起きた”。


 リリアの体が消える。


「……は?」


「リリア!?」


 だが。


 攻撃が見えない。


 結果もない。


 ただ――


「消えた……?」


 アレンが目を細める。


「……違う」


「“存在していない状態”にされた」


 ノアが言う。


「やばいよこれ」


「普通に終わるやつ」


 アレンが前に出る。


「……いいね」


 久しぶりに。


 本気で。


 楽しい。


「分からないなら」


「定義する」


 手を伸ばす。


 “それ”へ。


「お前は」


「ここにいる」



 その瞬間。



 “それ”に輪郭が生まれる。



「……!」


「見えた!」


 エルミナが叫ぶ。


 セリスが踏み込む。


「斬れる!」


 ノアが笑う。


「やっぱり」


「やると思った」


 アレンが言う。


「未知なら」


「決めればいい」


 そして。


「終わりだ」



 定義を固定する。



 “それ”が崩れる。


 消滅。



 リリアが戻る。


「っ……!」


「何今の!?」


「説明は後だ」


 アレンが笑う。


「……いいね」


「ここ」


「最高だ」


 ノアがため息をつく。


「……ほんと」


「バグみたいなやつ」


 三人が笑う。


「今さらです」


「ええ」


「当然だ」


 完全一致。



 未観測領域。



 そこは。



 “可能性そのもの”だった。



――第46話 完


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