第29話 「選別」
遺跡の奥は、静まり返っていた。
さっきまでの戦闘が嘘のように。
「……終わりましたね」
エルミナが小さく言う。
「一応な」
アレンは壁にもたれたまま答えた。
まだ体の奥に疲労が残っている。
だがそれ以上に――
「……見ちまったな」
「何をです?」
リリアが顔を覗き込む。
距離が近い。
いつものことだが、今は少しだけ意識がそちらに引っ張られる。
「向こう側」
「……」
空気が変わる。
セリスが一歩近づく。
「何があった」
アレンは少しだけ考えてから言った。
「観測者ってさ」
「ただ侵略してるわけじゃない」
「……?」
「選んでる」
「この世界」
沈黙。
エルミナがゆっくりと口を開く。
「……選別、ですか」
「そう」
アレンは頷いた。
「強い個体、価値のある存在」
「そういうのだけ残してる」
「それ以外は?」
リリアが聞く。
アレンは肩をすくめた。
「削除」
短い言葉。
だが重い。
セリスの目が細くなる。
「……ふざけた話だな」
「同感」
アレンは笑った。
「だから止める」
「全部」
その時。
奥から足音がした。
「――そこまでだ」
全員が振り向く。
現れたのは――
騎士団ではない。
黒い装備。
統一された動き。
「……誰だ」
セリスが剣に手をかける。
男が前に出る。
「王都特務機関」
「第零班」
聞いたことのない名前。
だが。
雰囲気が違う。
「その遺跡」
「こちらで引き継ぐ」
淡々とした口調。
命令のように。
「……は?」
リリアが眉をひそめる。
「終わったのに今さら?」
「終わっていない」
男が即答する。
「ここは封鎖する」
「お前たちは下がれ」
空気がピリつく。
セリスが一歩前に出る。
「その命令は受けられん」
「王命だ」
「我々も王直属だ」
視線がぶつかる。
張り詰める。
アレンはその様子を見ながら、静かに鑑定を発動した。
⸻
【第零班】
状態:高度訓練
一部:異界接続痕あり
⸻
「……」
アレンの目が細くなる。
「おい」
「なんだ」
「お前ら」
「触れてるな?」
男の動きが止まる。
一瞬。
ほんの一瞬。
だが確実に反応した。
「……何のことだ」
「とぼけるな」
アレンは一歩前に出る。
「微弱だけど見えてる」
「異界の痕跡」
空気が変わる。
リリアが剣を握る。
「……マジですか」
エルミナも警戒する。
「つまり」
「内部にも……」
セリスが低く言う。
「侵食があるということか」
男は沈黙した。
そして。
ゆっくりと口を開く。
「……それがどうした」
「は?」
リリアが声を上げる。
「利用しているだけだ」
「は?」
アレンが眉をひそめる。
「この力」
「制御できれば」
「我々の方が上に立てる」
「……」
一瞬、完全に沈黙した。
そして。
リリアが笑った。
「バカですね」
「同感だ」
アレンも笑う。
「それ、完全に利用されてる側だぞ」
「理解できないならいい」
男が手を上げる。
背後の部隊が動く。
「排除する」
「……来るか」
セリスが構える。
エルミナが魔力を展開。
リリアが笑う。
「人間相手ですか」
「久しぶりですね」
アレンはため息をついた。
「めんどくせぇな」
だが。
視界はクリアだ。
動き。
構造。
そして――
“価値”。
「……見える」
「全部」
アレンが一歩前に出る。
「やるぞ」
三人が頷く。
そして。
戦いは――
新たな段階へ。




