第15話 「呼び声」
遺跡からの帰還から、二日後。
街の空気は明らかに変わっていた。
「おい、見たか?」
「また遺跡当てたらしいぞ」
「しかも完全踏破だとよ」
ギルド内は、アレンの話題でもちきりだった。
「……落ち着かないな」
アレンはカウンターで呟いた。
視線が集まる。
以前とは真逆の意味で。
「有名人ですね」
リリアが横で笑う。
そして自然に腕を絡めてくる。
「だから近い」
「慣れてください」
完全に定位置になっている。
一方で。
「本当にすごいですね」
エルミナも近くに立つ。
距離が微妙に近い。
だがリリアほどではない。
――その差が逆に意識させる。
「王都にも噂が届いているはずです」
「それはちょっと困る」
「もう遅いと思います」
エルミナが静かに言った。
その瞬間。
ギルドの扉が開いた。
ドン。
重い音。
そして。
空気が変わる。
入ってきたのは――
黒い外套の男。
整った装備。
ただの冒険者ではない。
視線が鋭い。
「……誰だ?」
「ただ者じゃねぇ」
ざわめき。
男は真っ直ぐ歩いてくる。
そして。
アレンの前で止まった。
「あなたがアレンか」
「そうだけど」
男は軽く頭を下げた。
「王都監察官、レイヴンと申します」
ざわっ。
ギルドが揺れる。
「王都!?」
「なんでこんなとこに!?」
リリアが小声で言う。
「……本物ですね」
エルミナも表情を引き締めた。
レイヴンは続ける。
「あなたの能力」
「すでに王都に報告が上がっています」
「早くない?」
「異常事態ですので」
淡々とした口調。
だが圧がある。
「結論から言います」
レイヴンは言った。
「あなたを王都へ招待します」
「……は?」
ギルドが静まり返る。
「鑑定士としてではありません」
「特別監査対象としてです」
「それ何」
「簡単に言えば」
少しだけ間を置く。
「国家があなたを必要としている」
沈黙。
アレンは頭を掻いた。
「急すぎない?」
「状況が急変しています」
「遺跡の出現頻度」
「未知の神器」
「そしてあなたの能力」
レイヴンの目が鋭くなる。
「偶然ではありません」
エルミナが小さく頷いた。
「……やはり」
「何かが動いている」
リリアは腕を組む。
「面白くなってきましたね」
「面白くはない」
アレンはため息をついた。
だが。
断る理由もない。
「行くよ」
「アレン」
リリアがすぐに反応する。
「私も行きます」
「当然」
そして。
エルミナも静かに言った。
「私も同行します」
レイヴンが少しだけ目を細める。
「護衛としては十分でしょう」
「むしろ過剰かもしれませんが」
「褒められてる?」
「たぶん」
その時。
ギルドの隅で声が上がった。
「くそ……!」
ガイルだった。
元パーティのリーダー。
顔が歪んでいる。
「なんであいつが……」
「王都だぞ……?」
仲間が震えた声で言う。
「俺たち……最近依頼来てないぞ」
「……」
沈黙。
現実が突きつけられる。
アレンはちらっと見た。
鑑定が反応する。
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【元パーティ】
状態:信用低下・依頼枯渇
崩壊進行:高
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「……」
アレンは小さく息を吐いた。
もう何も言う必要はない。
結果がすべてだ。
その時。
リリアが耳元で囁く。
「完全に終わりですね」
「言い方」
「事実です」
楽しそうだ。
一方で。
エルミナは少しだけ複雑な表情をしていた。
「……」
「どうした?」
「いえ」
少し迷ってから。
アレンの腕に軽く触れる。
遠慮がちだが、確かに触れている。
「これから、忙しくなりますね」
「だな」
その瞬間。
リリアがぐいっと引き寄せた。
「はい離れてください」
「え」
「これからはもっと近くなるので」
「何が」
「全部です」
意味が分からない。
だが。
腕に伝わる柔らかさは現実だった。
アレンは苦笑する。
「……とりあえず」
レイヴンを見る。
「いつ出る?」
「準備が整い次第」
「馬車は手配済みです」
「仕事早いな」
「国家ですので」
当たり前のように言う。
その時。
アレンの視界に新たな情報が浮かんだ。
⸻
【王都】
状態:異常増加
未知要因:あり
⸻
「……」
アレンは空を見た。
そして。
静かに笑った。
「面白くなってきた」
リリアが笑う。
「ですね」
エルミナも頷く。
「ええ」
そして三人は。
次の舞台へ向かう。
その先にあるのは――
より大きな世界と。
さらに複雑になる関係。
そして。
まだ見ぬ“真価”。
⸻
――第15話 完




