圧倒的な力、証明の時
――ルーミア村、広場。
魔物の群れが村の外から押し寄せ、空は不穏な雲に覆われていた。地響きとともに現れた黒い巨体の魔物たちは、今までとは桁違いの存在感を放っている。
「これが……元凶……」
エリシアが小さく呟いた。彼女の額には冷や汗が滲んでいる。その隣でリシェルが腰の剣を握り締め、険しい表情でカズヤを見る。
「カズヤ、どうする?この数、この強さ……正直、まともに戦えばこちらの損害は免れない」
「逃げ道は?」
「無い。村の出口も全部塞がれた」
エリシアが苦い顔をしながら首を振る。
カズヤは深く息を吸い込み、眼前の脅威を冷静に見据えた。
「じゃあ、まとめて片付ける」
その言葉に、エリシアとリシェルの目が見開かれた。
「……本気で言ってるの?」
「無理しないで、私たちも戦うから」
心配そうに声をかけてくる二人を、カズヤはふっと笑って振り返った。
「無理じゃないよ。むしろ、お前たちの出番は無いくらいだ」
その瞬間、カズヤの周囲に金色の光が溢れ出した。風が逆巻き、地面が震える。
「《光の剣》」
右手に光の剣が出現し、左手には《雷の槍》が瞬時に生成される。更に腰には《炎の矢》が並び、背後には《氷の盾》が浮かぶ。
エリシアとリシェルは息を呑んだ。
「こんなに……一度に武器を生成するなんて……」
「まさか、属性まで……!」
カズヤは軽く肩を回し、目の前の魔物の群れに向けて踏み込んだ。
「さぁ、派手にいこうか」
◆ ◆ ◆
第一波、巨体のオーガが吼えながら突撃してくる。
カズヤは躊躇なく《シャインブレード》を一閃――光の斬撃がオーガの胴を真っ二つに切り裂いた。血飛沫も、腐臭もない。浄化の光が魔物の体を分解し、塵一つ残さず消し去った。
「っ……!」
エリシアは震える指先を握りしめた。次々と押し寄せる魔物たち。数だけでも百体は優に超えている。
しかし――。
「《雷連撃》」
カズヤが放った雷の槍は大地を裂き、無数の分岐した雷撃が前線の魔物をまとめて貫いた。
「なっ……」
「化け物か、あの男は……」
呆然と呟くリシェル。目の前の光景は常識を超えていた。
次々と現れる魔物も、カズヤの放つ属性武器の前には瞬く間に消し飛んでいく。《フレイムアロー》が空から火雨のごとく降り注ぎ、後方からの援軍もまとめて焼き払う。《グレイシャルシールド》は防御だけでなく、魔物の動きを封じる氷結波を放ち、戦場を完全に掌握していた。
「これが……本当のカズヤ……」
エリシアの声は震えていた。恐怖ではない。圧倒的な力を目の当たりにした興奮と、心の奥底から湧き上がる感動だった。
「……終わらせる」
カズヤはゆっくりと手を上げた。四つの武器が一斉に輝き、空が瞬時に光と雷と炎と氷で覆われた。
「《四属性終焉》」
最後の一撃が放たれる。大地を抉り、空を裂き、全ての魔物が一瞬で飲み込まれた。
◆ ◆ ◆
静寂が訪れる。
黒い瘴気も、禍々しい気配も全て消え去った。
エリシアとリシェルは、ただただ呆然とその場に立ち尽くしていた。
「終わった……のか?」
リシェルの呟きにカズヤは肩を竦めた。
「終わった。元凶も残党もまとめて消えた」
信じられないというように、二人は互いに顔を見合わせる。
エリシアがゆっくりと歩み寄り、カズヤの前で足を止めた。
「……あなたは、やっぱりただの天使じゃない。私たちの救世主……いいえ、私たちの……」
言葉の続きをエリシアは口にしなかった。しかし、その頬は紅潮し、潤んだ瞳が全てを物語っていた。
リシェルも口を開いた。
「今の戦いを見て……私は……心から思った。……あなたについていきたいって」
カズヤは気恥ずかしそうに後頭部をかいた。
「まあ、任務だからな。守るのは当然だろ」
「任務が終わっても、私は……離れないかもしれないわよ」
リシェルが冗談めかして笑いかけたが、その眼差しは本気そのものだった。
カズヤは軽く苦笑した。
(……やれやれ、また面倒事が増えそうだな)
だがその顔はどこか嬉しそうでもあった。
◆ ◆ ◆
数日後――。
ルーミア村は平穏を取り戻し、村人たちは笑顔を取り戻していた。エリシアとリシェルもカズヤと共に過ごす時間が明らかに増え、距離は目に見えて縮まっていった。
カズヤはふと天を仰ぐ。
「ヴェルグ……これが俺の力ってやつか。……ま、悪くないかもな」
ふと笑うカズヤの背後から、エリシアとリシェルの優しい声が重なる。
「カズヤ、ご飯できたわよ」
「一緒に食べましょう」
カズヤは振り返り、穏やかに頷いた。
「行こうか」
新たな絆と新たな力を得たカズヤは、天使としての次なる試練へと歩みを進めるのだった。




