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静かに芽吹く想い

――ルーミア村・村長邸。


「カズヤ様、お目覚めですか?」


朝、柔らかな日差しとともに、静かに扉がノックされた。


「ん……ああ、おはよう」


扉を開けたのはエリシアだった。長い銀髪が朝の光を受けて輝いている。おっとりとした優しげな笑顔を浮かべ、両手には朝食の載った盆が抱えられていた。


「朝食をお持ちしました。本日は村の中央広場で少しだけ行事があるのですが、その前にゆっくり召し上がってください」


「わざわざ悪いな……最近毎朝こんな感じだな」


カズヤは少し苦笑いしながら受け取った。


「いえ……カズヤ様には本当に助けられましたから。私たちの村が今も笑って暮らせているのは、あなたのおかげです」


エリシアの目は揺るぎない感謝と、どこか熱を帯びた色を宿している。


「そんな大層なことじゃないよ。任務だからな」


「……そう仰いますが、私たちにとっては命を救われたことですから」


エリシアはそっと一礼して部屋を後にした。その背中を見送りながらカズヤはため息をつく。


(……あの戦いから数日。村は完全に平和を取り戻してる。けど、なんつーか……こいつらの態度、明らかに前より距離が近いよな)


事実、この数日でエリシアとリシェルの態度は明らかに変化していた。


――◇――


朝食を終えた後、カズヤはリシェルと共に村の外れへ出かけた。


「今日は私が村の見回りを担当だから付き合ってもらうよ」


「了解……まあ、散歩がてらって感じだな」


「それと、最近魔物の動きは完全に消えたけど、念のためね。カズヤがいてくれれば、私は安心できるし」


「頼りにされてるのは悪くないけど、こっちも楽できるって思われてないか?」


「ふふ、まぁ否定はしない」


リシェルはからかうように笑った。


(戦いの時はバチバチだったけど、こうして話すと意外と気さくだな……それに、なんか懐いてきてる気がする)


森の中を歩きながら、リシェルは時折カズヤに話しかけ、冗談を交えたり、エルフの文化について話したりした。


「ところで……カズヤ、最近村の皆にも結構慕われてるよ。あんたの評判、すごくいい」


「そりゃまぁ……変な任務だけど、結果的に村を救ったしな」


「それだけじゃないさ。村人が言ってたよ。『天使様は偉そうじゃなくて、普通に話してくれる』って」


「そんなもんか……」


(気を張らずに接してただけだが……それでいいなら何よりだな)


――◇――


昼前には村の広場で小さな祭りが開かれていた。


カズヤはエリシアとリシェルに案内され、様々なエルフたちと交流した。


「これ、エルフ伝統の果実酒なんです。ぜひ召し上がってください」


「……うまっ」


「ふふ、でしょう?私の手作りです」


「え、これもエリシアが?」


「はい……お口に合ってよかったです」


「いや、マジで美味い。市販でも売れそうだな……」


エリシアは頬を染めながら微笑んだ。


(こいつ、可愛いな……)


正直、最初は“女しかいない村で子孫繁栄”という無茶ぶり任務に抵抗があった。しかし、日々を過ごすうちに彼女たちがどれだけこの村を大事にしているか、真剣に種族を守ろうとしているのかが痛いほど伝わってきた。


(無理やりじゃなく、自然に……その方がいいよな)


――◇――


夕方、カズヤは湖畔で一人、夕日を眺めていた。心地よい風が頬を撫でる。


「ここにいたんだ」


声の主はリシェルだった。手にはエルフ特製の甘い果実酒を二つ持っていた。


「一緒に飲まない?」


「……まぁ、せっかくだから付き合うか」


二人並んで座り、静かに湖を眺めながら酒を口に含む。


「この景色……いいな」


「うん、私も好きな場所だよ」


リシェルはカズヤの横顔をじっと見つめた。しばらく沈黙が流れた後、ぽつりと呟く。


「……こんな風に、あなたと一緒に過ごせる日が来るなんて思ってなかった」


「ん?」


「最初は警戒してたし、正直嫌だった。でも……あの戦いを見て、あなたが真剣に私たちのこと考えてくれてるって分かった」


カズヤは言葉に詰まった。


「……ありがとな」


「これからも……ずっと一緒にいて欲しいって思っちゃうの、おかしいかな?」


「……いや、俺も同じ気持ちかもしれない」


リシェルは笑った。嬉しそうに、安心したように。


「任務が終わっても、私はカズヤの傍にいたいな……」


その言葉は小さく、しかししっかりとカズヤの胸に響いた。


――◇――


夜、カズヤの部屋の扉が静かに開いた。


「……カズヤ様、夜分遅くに失礼します」


エリシアだった。手には温かいハーブティーがあった。


「……今日も一日お疲れ様でした。少しでも疲れが取れればと思って……」


「ありがとう、エリシア。君は本当に気配り上手だな」


「いえ……私も、カズヤ様のお役に立てるのが嬉しいのです」


紅く染まった頬を隠すように俯くエリシア。その仕草がとても愛らしかった。


「無理しなくていいよ。今まで通り、気楽に頼らせてもらう」


「はい……私はいつでも、カズヤ様の力になります」


(……この任務、悪くないかもな)


少しずつ心を通わせ、想いが芽生えていくエルフたちとカズヤの穏やかな日常は、静かに続いていた。

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