表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
こちらは神材派遣管理会社「ユル」でございます。  作者: U-SAN
「街道廻道(かいどう)、繰路(くりじ)巡路(めぐりじ)」
80/81

「城下町の市場調査-巡礼編ⅩⅧ 家政婦体験篇Ⅵー」

〈保管庫〉の扉を開けると、胡椒や乾燥ハーブの刺激的な香りが鼻腔を貫き、思わず息を止めた。


熟成した乾酪の濃厚な匂いが、どこか懐かしくもあり、不意に胃をきゅっと締め付ける。

棚の上には整然と並ぶ乾酪やハーブ、脇には腸詰や燻製された肉があり、奥からは重く湿った獣の皮の匂いが漂ってくる。


この独特な匂いの渦に、〈保管庫〉の一同は困惑し、

同時に目の前の世界に引き込まれるような興奮を覚えた。


「凄く臭いがきついですわね、ヴィーウィ先輩?」

アヴェーラは少し顔を顰め、鼻を軽く押さえながら問いかけた。


棚に並ぶ乾酪や腸詰、燻製肉の匂いが入り混じり、乾いた獣の皮の香りが奥から漂う――その刺激は、呼吸をするたびに胸の奥まで染み込むようだった。


「う~ん、そうだよね? どこに『腐った茶葉』があったかな……」


ヴィーウィ先輩はあちこちの棚を眺め、紅茶を探しているようだった。

その無造作な仕草とは裏腹に、保管庫の濃密な匂いの渦がアヴェーラを直撃した。


胡椒と乾酪の刺激が鼻を突き抜け、燻製肉と腸詰の匂いが口の奥まで侵入する――

まるで全身に鼻栓をしたくなるような強烈さだ。


アヴェーラは思わず顔をしかめ、背中を小さく丸めながら「うっ……!」と声にならない悲鳴を漏らした。


ヴィーウィ先輩は平然と匂いに慣れた顔で棚を見回している――その無頓着さが、ますますアヴェーラの「ここから逃げたい!」感を引き立てた。


「先輩、私──部屋の外で待機致します!

頭がクラクラ、鼻もひりひりしてきました……!」


アヴェーラは慌てて後ずさり、思わず棚に手をぶつけそうになりながらも、

必死で部屋の出口へ向かった。


「ううん、大丈夫だよ?

最初は誰でもキツイもんね。アヴィーは外で待ってて!」


そのやり取りを、フィーネと私は静かに見届けた。


暫しの間、フィーネは行動に移した。

「先輩──よく我慢できますね」

フィーネは小さく息を吐き、覚悟を決めるようにして先輩の紅茶探しを手伝い始めた。


そう言うフィーネの視線は、匂いにまったく動じず、

むしろ落ち着いて棚を眺めるヴィーウィ先輩に向けられていた。


ヴィーウィ先輩は鼻を軽く鳴らす程度で、まるで何事もないかのように紅茶の棚を探している。

その無頓着さが、匂いの強烈さを知っている者の余裕を物語っていた。


「先輩? 紅茶の場所、分かるんですか?」

私も二人の紅茶探しに加わる。


ヴィーウィ先輩は鼻先を軽くひくつかせ、棚の間をすり抜けるように歩く。その動きはまるで、匂いの地図を頭の中で描いているかのようだ。


部屋にはまだ、乾酪や腸詰、燻製肉の匂いがほのかに漂い、鼻先をくすぐる――けれど先輩には、

それらが邪魔になる様子はまったくない。


「ううん……『腐った茶葉』の匂いは分かるんだけど、

棚の位置が変わってるみたい。だから困っちゃった」


「この前はここら辺にあったんだけどね。

どうして場所を変えちゃうのかな?」


ヴィーウィ先輩は鼻先をひくつかせ、匂いを頼りに棚をくるくると眺める。

匂いだけで大体の場所を把握できる鋭い嗅覚を持っているのに、棚の配置が変わると途端に途方に暮れる――そのちょっとドジっ子なギャップが、なんとも愛嬌があった。


部屋には乾酪や腸詰、燻製肉の匂いがまだ漂い、鼻先をくすぐる。


しかし先輩はそれに動じることなく、むしろ匂いを頼りに紅茶探しを続ける。

落ち着いた余裕と、ほんの少し抜けた感じ――まさにヴィーウィ先輩らしい光景だった。


「先輩、紅茶って何だか知ってます?」

私は思わず尋ねた。


ヴィーウィ先輩は鼻先をひくつかせ、棚を眺めながら首をかしげる。」


「うーん? 腐ってる茶葉ってこと?

後は渋くて、落ちにくいかなぁ……」


≪渋い?≫

ヴァルはその言葉を反芻した。


(……そんなに変な答えかな?

 私はそこまで気にしないけど?)


≪家政婦が紅茶を『渋くて、落ちにくい』って言ったんだ。

 オカシイと思わないのか?≫


ヴァルは眉をひそめ、思わず目の前の光景を反芻する。

(……でも、私はそこまで気にしないけど?)


≪ナーレ、試しに問いかけてみてくれないか?≫

(分かったけれど? そんなに大切な事かなぁ?)


「先輩? どうして『腐ってる茶葉』って、

『渋くて、落ちにくい』んでしょうか?」


「──うん! 『腐ってる茶葉』ってね!

 落ちにくいんだよ。お洋服に付いたら大変だからね!」


ヴィーウィ先輩は鼻先をひくつかせ、棚の匂いを軽く嗅ぎながら得意げに言った。

その表情は真剣そのものなのに、説明は天然丸出しで、どこか微笑ましい。


フィーネは黙々と紅茶を探しながら、

ヴィーウィ先輩を横目で見た。


「先輩──。」

「うん! フィーユちゃんどうしたの?」


「渋いって話はどうしたんですか?」


ヴィーウィ先輩は一瞬、鼻先をひくつかせて考え込むように首を傾げる。

「えっと……あれ? あ、うん、そうだね。落ちにくい方が分かりやすいと思ったんだよ!」


フィーネも横目で先輩を見ながら小さく息を吐いた。


ヴィーウィ先輩はそれに気づかず、得意げな顔で鼻をひくつかせながら棚を指さす。

「ほらね! これならお洋服に付いても大丈夫!」


部屋に漂う乾酪や腸詰、燻製肉の匂いが鼻先をくすぐる中、

先輩の天然っぷりはますます際立つ。


ヴィーウィ先輩は其れも露とも知らず、

鼻をくんくんさせていた──

≪……どうしてこんなに堂々としていられるんだ……≫

ヴァルは思わず心の中でツッコむ。


ヴィーウィ先輩はそれも露とも知らず、鼻をくんくんさせて棚の匂いを嗅いでいた。

その仕草はまるで、「匂いを頼りに紅茶を守る小さな衛士」のようで、天然なのに妙に愛嬌があった。


私は思わず小さく笑みをこぼす。

(……ほんと、どうしてこういう人なんだろう……)


私は率直に応えることにした。

多分、これが正解なんだろう──。


「先輩は〈パントリー室〉も〈保管庫〉の場所も、本当はご存じだったんじゃないですか?」


「えっ!? そんなに頭良くないよ~。ナーリュちゃん、酷いな……」

ヴィーウィ先輩は鼻先をひくつかせ、棚の匂いを嗅ぐ仕草で考え込む。

その目の端に、どこかほほ笑むような光がちらりと見えた気がした──。


──あぁ、ヴィーウィ先輩は本当は知ってる。

でも、あえて隠しているんだ。


「──あぁ、ナーリュ。ヴィーウィ先輩はそんなに頭良くないんだ。

 だから、ちょっと変なんだ。」

フィーネは心の中で、そっと補足する。


「フィーユちゃんもさぁ、またまた……

 私ってお馬鹿だから、難しいこと言わないでよ?」


ヴィーウィ先輩は鼻先をひくつかせ、ちょっと照れ笑いを浮かべる。

でも、その目の端に、どこか含みのある光がちらりと見えた──。


「だから、バーサービングカートを弄って見せたんですよね?」

ナーリュの問いかけに、ヴィーウィ先輩は一瞬目を泳がせ、慌てたように小さく息をついた。

 

「うん? アレはああいう風に動くのを見たことあるの。

 皆、ああいう風に動かすんだから。私が知っててもおかしくないよ~」


ヴィーウィ先輩は鼻先をひくつかせ、少し照れ笑いを浮かべながら、目の端でこっそりナーリュを見た。


「先輩、顔に出てます。

本当はバーサービングカートを知っているし、

『紅茶』も無いのも知っているんでしょ?」


フィーネは結論を早々と言った。

ヴィーウィ先輩は鼻先をひくつかせ、目をぱちぱちさせながら、どう返すか一瞬迷った。

──でも、その迷いの奥に、少し光がちらりと見えた。


「そうなんだ! 『紅茶』は無いんだよね。

 どうしてかは、私も知らないけど……」


鼻先をひくつかせ、肩をすくめ、目の端でナーリュを見やる。


──「やっぱりバレちゃったか……」

先輩の小さな焦りと、隠しきれない得意げな気配が、そこにあった。


「本当──。先輩、嘘つくの下手ですよね?

さっき自分で自白してたじゃないですか?

『腐った茶葉』は『渋くて』、『汚れ』が落ちにくいって」


ヴィーウィ先輩は鼻先をひくつかせ、言葉がうまく出ない。

肩を小さくすくめて、照れ笑いを浮かべるその仕草が、隠しきれない焦りを物語っていた。

──でも、目の奥にはちょっと得意げな光もちらりと見える。


「だって、試したかったんだもん

 ちょっとくらい、貰ってもバレないかなって」


ヴィーウィ先輩は鼻先をひくつかせ、少し目を伏せながら小さく笑った。

──焦って隠そうとするより、正直に言った方が可愛く見えるのを、本人はまだ自覚していない。

その仕草と声の震えが、秘密っぽさと可愛らしさを同時に伝えていた。


「先輩? どうするんです?」

私はそう尋ねた。


「うーん……どうしようかな、ハーブで誤魔化そうかな。

 先輩の隙を見て、こっそり入れれば……。」


「ナーレちゃんは、メ―ヴァ先輩が見ないように誘導してよ?」

「お外にいるアヴェーラお嬢様が、なんでこんなことしているのか私はよく分からないけど……

 私は頭が悪いからね?」


(えっ!?)


その言葉の意味を、一瞬、飲み込めなかった。

──思わず目をぱちぱちさせるナーレ。

先輩の天然っぽい自己卑下と、微妙にズレた発言に、頭が追いつかない。


ヴィーウィ先輩は鼻先をひくつかせ、眉を少し寄せながら考え込む。

でも、口元にはちょっと悪戯っぽい微笑みが浮かんでいて、焦っているのか楽しんでいるのか、よく分からない雰囲気だった。


「先輩? 最っ──」

フィーネの唇に、ヴィーウィ先輩の人差し指がそっと押し当てられる。


「しーっ! フィーユちゃんは知らないけど……

顔合わせ済みだからね? ナーレちゃんとは」


先輩の目はちょっとだけ細められ、含みのある笑みが浮かぶ。

──制止する仕草の裏に、ほんのり楽しんでいる気配が隠れていた。

フィーネはその微妙な表情に、一瞬で言葉を飲み込むしかなかった。


「それでね? 三人揃って──

 これもお嬢様が言っていた『家政婦体験』ってこと~?」


ヴィーウィ先輩はくすりと笑い、鼻先をひくつかせながら肩をすくめる。

──隠しきれないちょっとした得意げな様子が、先輩らしい小悪魔っぽさを漂わせていた。


「えっとですね。アヴェーラがその……

執務室の鍵を持っていて、先回りしようって持ち掛けまして」


「それでその恰好だったんだ。

 私は難しいこと分からないけど……

 乗った船で散々、私を誤魔化したんだから~。

  一寸だけ、私も便乗していいよね!」


ヴィーウィ先輩は鼻先をひくつかせ、くすりと笑った。

──ちょっと焦りつつも、楽しそうな表情が隠せない。

フィーネの無邪気な便乗宣言に、先輩の目がちらりと細められ、含みのある笑みが浮かぶ。


「それで、先輩はこのままで良いでんすか?」

「うん!フィーユ、ナーリュもそのままで良いよ。

 コロコロ変わると困るんだよね~」


ヴィーウィ先輩は手当たり次第にハーブを選んだ。


「多分、紅茶は無かったから、

ハーブにするってメ―ヴァ先輩に言っても大丈夫だと思うけど」


「じゃあ、なんで紅茶って言ったんです?」

私は改めてヴィーウィ先輩に確認する。

──全ての原因、起因を。


先輩は鼻先をひくつかせ、少し目を伏せながら答えた。


「だって、メ―ヴァ先輩がティーカップとティーポットを持って来たんだもん。

誰だって『紅茶』だって思うでしょ?

だから──一番記憶に残っていたものを言っちゃったの」


──言い訳混じりのその声と、ほんのり照れた表情が、先輩の天然さと可愛らしさを際立たせる。

私はその仕草を見て、内心で「やっぱり、先輩は全部知ってたんだな……」と感じた。


「じゃぁ、外で待ってるお嬢様と合流しましょう?

いつもの雰囲気でね?

そうじゃないと困るでしょ?」


ヴィーウィ先輩は鼻先をひくつかせ、少し目を細めて私たちを見やる。

私たちは、先輩の目の奥に隠れたちょっとした楽しげな計算を感じ取り、黙って頷くしかなかった。


私たちは〈保管庫〉を出る。

アヴェーラは少し身綺麗に整えているようだった。


「アヴィー、ごめんね! 待たせちゃった!!」

ヴィーウィ先輩はいつものように両手をブンブン振って謝る。

──その無邪気な動きに、アヴェーラは思わず微笑みを返す。


「大丈夫です。先輩、紅茶はありましたか?」

アヴェーラはそう、ヴィーウィ先輩に穏やかに尋ねた。


「ううん! アヴィー。無かったから、ハーブを持ってきたの。

メ―ヴァ先輩、赦してくれるかなぁ?」

ヴィーウィ先輩は鼻先をひくつかせ、少し肩をすくめて小首をかしげる。

──天然っぽく振る舞いながら、どこか楽しげな計算が隠れている。


「大丈夫ですよ。多分」

アヴェーラは微笑みを浮かべ、先輩の無邪気さを受け止めるように答えた。


「二人とも早く! ≪台所≫に行こう!」

ヴィーウィ先輩は振り返り、私とフィーネに元気よく指示する。


「≪台所≫でしたら、反対側でしたね?」

アヴェーラは落ち着いた様子で、反対側の≪台所≫の扉を開けた。


ヴィーウィ先輩は鼻先をひくつかせ、くすりと笑いながら小走りで扉に向かう。

──元気いっぱいな先輩の後ろ姿に、私たちは自然と足を合わせてついていくのだった。

評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この作品はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この作品はスマートフォン対応です。スマートフォンかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。

↑ページトップへ