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こちらは神材派遣管理会社「ユル」でございます。  作者: U-SAN
「街道/廻道(かいどう)、繰路(くりじ)巡路(めぐりじ)」
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「城下町の市場調査-巡礼編XLⅨ  家政婦体験篇XLー」

大型搬入エレベーターのシャフト内で、ヴァルは私に向かって口を開いた。

 

 ≪もう、良い加減。

  メタで入るのは、お止めになりませんか?≫

 

 (隣同士なのだから、もう少し言い方があるだろうに……)

 

 私はヴァルの横顔をちらりと盗み見る。

 

 私達を載せた搬入用エレベーターは、

 壁に囲まれた縦穴の中を、ひたすら地上へ向かって上昇していた。

 

 【君は本当に、私を虐めるのが好きだな。

  そのようでは、いずれナーレにも愛想を尽かされるぞ?】

 

 ヴァルは常々、何気ない流れへ楔を差し込むことが、どうにも癖になっている節がある。

 

 ≪何故そこでナーレが出てくるんですか……。

  今は貴方様と話しているんですよ?≫

 

 ヴァルは見た目だけなら子供である。

 それだけに、ああも真っ直ぐ言葉を返されると、私は酷く困り果てた。

 

 【もう少し、自分というものを大切にしたらどうだい?】

 私は大型搬入用エレベーターの中を右往左往しながら、考える。

 

 【読者がどう思うのかまで勘定に入れて、君は私に物を言っているのか?】

 ヴァルは私の言葉を聞くと、小さく頭を振りつつ言葉を紡ぐ。

 

 ≪流石に諄いと思いませんか?

  毎回毎回、コントみたいに観念を語られても困るんですが?≫

 

 【心中お察しするよ……。

  歳を取るとな、勝手に観念が頭へ湧いてくるんだ。

  私だって、こんな風になりたくてなったわけじゃない】

 

 私はヴァルと話しながら、ふと昔のことを思い返していた。

 

 ≪そうやって、辛気臭く観念に沈まないでください。

  勝手に頭へ湧いてくるものだというのは、理解していますから……≫

 

 【頼むから……十三歳らしくしてくれ。

  そう達観されると、なんだか気に食わん】

 

 私はナニをしているのか分からなくなりつつある。

 彼を救うのか? 彼女等を救うのか?

 

 【私はね……君らしく生きて、死んでくれればいいんだ】

 ヴァルの姿は、いつの間にか視界から消えていた。

 

 洞窟の壁面は透明な膜のように変わり、

 その向こう側の世界を静かに映している。

 

 寂寥を抱えた夕日が、

 私を照り返して溶かそうと躍起になる。

 

 真っ赤だった貌も、力尽きるように、ゆっくり青褪め始めていた……。

私たちは地上の四阿へ向かう大型搬入エレベーターの中で、

 ただぼうっと時間を潰していた

 

 (それにしても、ゆっくりね……)

 

 私の焦れた思いなど気にも留めず、

 エレベーターはゆっくりと地上を目指している。

 

 大型搬入エレベーターの隅には、

 網や木箱が無造作に積まれていた。

 

 大量の食糧でも運ぶためのものなのだろう。

 今はしばし、お役御免といった様子である。

 

 アヴェーラは、何時ものように髪を弄びながら、

 じっと時を待っていた。

 

 フィーネは片足を揺らしながら、

 どこか退屈そうに壁へ寄り掛かっている。

 

 大型搬入エレベーター内では、

 わざわざ口にするような話題も浮かばない。

 

 周囲はどこまでも岩肌で、

 何もかもが黄土色に染まり切っている。

 景色という景色も無かった。

 

 唯────揺れ動き、軋む音だけが漣のように繰り返され、

 私達を静かな倦怠へ誘っていた。

 

「貴女方を御呼びしたのは、理由がありますの……」

 

 揺れと軋みの合間へ溶け込むように、

 アヴェーラの声が静かに零れる。

 

「なんだよ……急に?」

 

 フィーネはアヴェーラの妙な言葉の滑りを感じ取ったのか、

 僅かに表情を曇らせる。

 

「これは、あくまで噂の域を出ない話ですの。

  商家界隈で囁かれている、戯言かもしれませんけれど……」

 

 アヴェーラは、私達にどう伝えれば良いのか、

 少し迷っているようだった。

 

「とりあえず話せよ……。

  そこまで切り出されると、こっちも困るだろ」

 

「父達の会話を盗み聞きしてしまったのが始まりですの……。

  今、王国は販路の拡大へ異様なほど力を入れている。

  そのような話が、商家界隈で囁かれていますわ」

 

 アヴェーラは、まだ釈然としていない様子だった。

 しかし、その話には妙に現実味があった。

 

 「どういうことだ?」

 フィーネは身を乗り出しながら、アヴェーラの話に耳をそばだてた。

 

「以前、国王が学制統一を理由に、貨税を増やすお触れを出したでしょう?

 あれはつまり……王国の国庫が、想像以上に逼迫しているということですの」

 

  アヴェーラはエレベーターの中を右往左往しながら、考えていた。

 

 「父と……誰のものかは分かりませんが、扉越しに会話が聞こえたのです。

  領地を持つ貴族や伯爵達へ、街道を開放するよう通達が出されたとか……」

 

 「なんだか、出来過ぎていると思いませんか? 」

 

 アヴェーラは矢継ぎ早に言葉を続けた。

 

「出来過ぎているって……? 何と───────」

 

「フィーネ。 勿論……私達の巡礼ですわ。私はずっと扉越しに聞き耳を立てていましたけれど、

 そのお触れは、学校で巡礼開始が告げられる少し前に出されたというのです」

 

 アヴェーラは、この違和感を胸に抱えながら、

 城下町の市場調査を続けていたらしい。

 

「ずっと、それを考えていたの?」

 

「そうですわ、ナーレ。

 修道女に市場調査をさせるなんて、余りにも妙ですもの。

 

 本来なら、あれは王国の役人が行う仕事です。

 何故わざわざ私達へやらせる必要があったのか……」

 

 アヴェーラは、一度言葉を切った。

 

「しかも最近、城下では保存食や塩の流通量が妙に増えておりますの。

 港へ向かう荷馬車も、以前より明らかに多い……」


「それが、どう海上路に繋がるんだよ?」

 フィーネは先を促すように言った。


「盗み聞きを続けるうちに、少しずつ繋がっていきましたの。


 国王は海上路の構築を進めるため、

 領地を持つ貴族たちへ恩恵を与えようとしている──そういう流れですわ」

 

 点だった話が線として繋がり始め、

 どうにも、きな臭い気配が滲み始めていた。

 

「「それで、巡礼する私達は何を期待されているんだ?」


「簡単ですわ……。

 私達を利用して、地上と海上を結び付けるおつもりなのです」


「結び付ける?」


「巡礼者は各地を渡り歩きます。修道院や学校、人の流れにも自然と関わる。

 つまり──情報と知識を運ぶには都合が良いのですわ」


アヴェーラは矢継ぎ早の問いに、小さく息を吐いた。


「我が国には昔から、知識人を各地へ送り出す仕組みがありましたの」


「でも、それが?」


「人を輸送し、物資を流通させるには、各国が連携し、

 回廊を開放する必要がありますの」

 

「そして我が国は、それを“巡礼”という形で、

 長い年月をかけて作り上げてきたのですわ」


アヴェーラはゆっくりと言葉を重ねる。


「人が動けば、道が開かれる。道が開けば、物資が流れる。

 物資が流れれば、国家そのものが拓かれていくのです」


「つまり、私達は国のために巡礼を?」


 私は単純な疑問を口にした。


「そうかもしれませんわ。

 ですが──まだ腑に落ちない部分がありますの」


 アヴェーラは小さく目を伏せた。

 

「修道女が修道院巡礼へ向かう。

 それ自体は理解できます。

 

 けれど、何故わざわざ市場調査までさせる必要があったのか……。

 そこだけが、どうしても見えてきませんの」

 

「分かっているのは、貴族や伯爵達へ“私達が巡礼できるよう回廊を開放せよ”と、

 国王から通達が出ていた。 ──その事実だけですわ」

 

 エレベーターは低い唸りを残したまま、

 ゆっくりと停止した。

 

「────参りましょう。

  追々、見えてくることもある筈ですわ」

 

 そう言って、アヴェーラは先に扉の向こうへ歩み出る。

 

 フィーネと私は、黄土色じみた違和感を胸に残したまま、

 エレベーターを後にした。

 

 (やっと、此処まで戻ってきたのね)

 

 『裡貫く通路』は、柱廊によって支えられながら、

 別荘と本館を空中で接続していた。

 

「四阿まで、参りましょう……」

 

 アヴェーラは先導するように歩き出し、

 私達もその背を追って中庭を横切る。

 

 左手では、『裡貫く通路』の回廊が、

 本館と別荘を静かに繋いでいる。

 

 中庭には噴水と、

 弧を描く石垣。

 

 草に埋もれかけた小径は迷路めいて、

 どこか人を惑わせるようだった。

 

 ───アヴェーラは、迷路めいた中庭を、

 何の躊躇いもなく歩いていく。

 

 道は縦横無尽に繋がっているように思えた。

 時に左へ、時に右へ。

 

 幾つもの小径が交差しては、

 草木の奥へ消えていく。

 

「……これ、本当に四阿へ向かってるんだよな?」

 

「ええ。

  目印を見失わない限りは、ですけれど」

 

 アヴェーラは四阿を指差す。

 

 四阿は常に視界の左手へ見えていた。

 

 けれど道を進む度に、

 あの建物だけが静かに遠退いていくようにも思える。

 

「近付いてる気がしないんだけど……」

 私はその事実をアヴェーラに訴えた。

 

「真っ直ぐ進めれば早いのですけれど、

  本館へ繋がる通路が行く手を遮っておりますの。

  ですので、庭園を迂回するしかありませんわ」

 

「早くしないと、飢え死にするぞ?」

 

「この中庭には、一族のお墓もありますわ。

  フィーネは今夜、そちらへ泊まるおつもりで?」

 

 アヴェーラはフィーネを下から見上げ、

 わざとらしく口元を緩めてみせる。

 

「冗談だろ!? 勘弁してくれって……」

 

 フィーネは襟元を直しながら、

 先を急かすようにアヴェーラへ手を手を振った。

 

「そうですの? フィーネが怖がるところを、

  もう少し見ていたかったのですけれど……」

 

 アヴェーラは名残惜しそうに息をつくと、

 それでも四阿へ導くように歩き出した。

 

 大分歩き突けた来たのだろう、

 陽が少しづ陰り始めた。

 

 アヴェーラの本館が近づくにつれ、溜池と、

 それへ水を引き込むために組まれた水道の橋が見えてきた。


 その隆起した構造は、地形そのものを跨ぐようにして伸びている。

 

 私達は水道の橋を渡り、ゆるやかに左へと逸れる。

 本館の背後をなぞるように、静かに歩を進めた。

 

「さっきの橋から、大きな石が見えたけど……」

「アレが一族のお墓ですわ……」

 

 ───アヴェーラの一族の墓は、六つの拱門の先にあった。


 木々と草に深く抱かれるようにして、そこだけが静かに閉ざされている。

 道は途中で掌を開くように分かたれ、いくつもの小径へと枝を伸ばしていた。

 

「皆そこで眠っているの?」

「えぇ……そうですわ。

  一人で眠る者もいれば、家族と共に眠る者もおりますの」

 

 アヴェーラにとっては、それが普通なのだろう。

 私は、自分とはどこか違う理の上にある世界へ来てしまったのだと、静かに実感した。

 

「大分、遅くなってしまいましたわ……」

 

 アヴェーラがそう口にした頃、

 私達は以前説明を受けた“一階通路”へと辿り着いていた。

 

 それは中央広場で、ヴィーウィ先輩と共に口頭で教えて貰っていた場所でもある。

 

 一階通路は腰ほどの高さしかなく、

 『裡貫く通路』と同じく、上部はブラウンガラスと石枠のみで構成された半開放の回廊だった。

 

 ───その通路は、中庭へと出られるよう途中で途切れている。

 

「大分、遠回りじゃねーか……」

 フィーネは頭を抱えながらそう口にした。

 

「仕方ありませんわ……。四阿は一階の通路と接続しておりませんもの」

 

 アヴェーラの言葉に、私はあまりの構造の歪さを思わず呆れてしまう。

 

「また、遠回りするしかないんだね?」

 私は現実を見たくない気持ちを押し込めながらも、そう口にした。

 

「……結局また遠回りかよ」

 

 フィーネは不満を隠そうともせず、アヴェーラをじっと見つめていた。

 その顔はまるで「早くしてくれ」と言っているようだった。

 

 アヴェーラは唇の端からちらりと舌を出すと、

 改めて先頭に立って歩き出した。

 

 中庭を遠回りしながら、私は『裡貫く通路』を見上げていた。

 タペストリーの構図で見た通り、それは一階通路を軸に組み上げられている。

 

 よく見ると、その途中から通路はわずかにジグザグに歪みながら続いていた。

 

 そんな私の視線には気付いているのかいないのか、

 フィーネは気にも留めず横を並んで歩いていた。

 

「やっと、着きましてよ!」

 アヴェーラの声で、ようやく四阿に到着したことが分かった。

 

 四阿の一階には灯りの灯ったカンテラが掛けられ、

 シャフェとウェルシーが佇んでいた。

 アヴェーラを認めると、恭しくお辞儀をする。

 

 テーブルの上には夕食が用意されており、

 かなり前から待っていたことが窺えた。

 

「大変、お待たせ致しました。お嬢様方」 

 ウェルシーはアヴェーラと私たちの視線を順に受け止めるようにしながら、静かに頭を下げた。

 

 シャフェは言葉を発することなく一礼し、

 私たちに席へ着くよう静かに促してきた。

 

「今日はどのような献立ですの? 」

 アヴェーラはシャフェに問いかけた。

 

「本日は創作料理でございます。お嬢様」

 

 ───確かに見たことも無い料理であった。

 

「≪タルト……ソヴァージュ≫です」

 

 シャフェは皿にかけられたハンカチを静かにめくり、その料理を私たちの前に示した。

 

 それはパンのようでありながら、パンとは異なる形をしていた。

 

 柵で囲われた小さな水場のように、

 生地の上へソースとフレッシュチーズが静かに置かれている。

 

「挽肉とフレッシュチーズですの……?

  どのように食せばよろしいのかしら」

 アヴェーラは得体の知れない創作料理を前に、目を瞬かせた。

 

「こちらでナイフにてお切り分けいたしますので、そのままナイフでお召し上がりください」

 

 (─────なんとも不思議なご相伴に与れる身にもなったものね……)

 

 私はシャフェがタルト・ソヴァージュ切り分けくれることを待ち至りた……。

【この時代では、タルトという調理法そのものが未成立だ──】

 主は、静かにそう告げる。

 

 ≪ではなぜ?≫

 僕は主の意図を探ろうとした

 

 【彼女たちには、美味い料理くらい振る舞ってやれよ。

  中世なんだろ? 女性の扱いってもんを少しは考えろ、ヴァル】

 

 主はどうやら、彼女たちを甘やかすためにここへ来たのだと、僕は理解した。

 

 ≪お人が悪いですね。結局それ、遠回しに甘やかしているだけでは?≫

 

 【五月蠅い。少女は甘やかしてなんとやらだ!

  ──中世なんだよ。幸せにしてやりたいだろ?】

 

 ≪もうお止めになればよろしいのでは?

  そのようなお立場で、そこまでなさるのは──≫

 

 【──────。そうかもしれん。

  それでも、逆行が必要なのだ。

  少女なのだから、そうであって欲しいのだ】

 

 主は願いを叶えようとしながら、

 どこか表情だけが噛み合っていなかった。

 

 ───ただ、あるがままに生きる。

 主が“あるべき物語”を見ている限り、僕たちは同じ世界に立っていない。

 それはあまりに明快で、冥界のようでもあった。

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