553話 見られている
二か月後に起こる、三門玲司の故郷からの侵攻、通称“例の事件”。同学年の“ノーツ”持ちが戦った末に犠牲になるという未来を回避するために対策に強化を入れていたが、そのすべてが無に帰した。
という連絡を回すよう、赤羽十四哉は四人の同級生に協力を仰いだ。
Cランク以下を代表して鎌ヶ谷祝、Bランクから亀有阿等礼、Aランクから東戸寿々絵、Sランクから三郷楽阿。残るS+ランクにはトシヤ自身が話を回す。
この学年には“ノーツ”持ちは百十五人いる。トシヤ一人では手間がかかるので、ランクごとに代表者を設けたのだ。
「本当かよトシ、全部向こうに知られたって」
「ああ」
「一体誰が……スパイがいたというの?」
ラクアとスズエは半信半疑にトシヤに聞き返す。生徒百人が命を落とす大事件だが、情報は大人に回していない。どこに首謀者の味方が潜んでいるか分からないから、警察や親にも相談をしていない。
“ノーツ”という特別な力を持っている彼らの力で乗り越えると誓った。だからこそ、知り合いの誰かが敵に回ったのではないか疑ってしまう。
「いや裏切った者はいない。アラレ、話してくれ」
「了解。まず俺たちは数年前の三門の故郷へ行ってきた」
「アラレも行ってきたの?」
過去の世界へ行ってきたという話が飛び出してももはや誰も驚かない。この島ではファンタジーな出来事起こるのは日常茶飯事だ。
現にイワイも二か月前に異世界へ呼ばれ、巻き添えを食らったメンバーにはアラレと同様、過去のレイジに会った人がいたと聞いている。
「そこで会ったのが小学生の頃の三門。彼は当時から心が読めるようで、俺たちが来たことにすぐに気づいていた」
「つまり、作戦がバレたのは当時小学生の頃の……ん? それって問題なの?」
「ああ、未来の自分が被害に遭うのに、それを言い触らすか?」
話の流れからして、過去へ行ったことで昔のレイジに情報が出回り、首謀者どもへ告知された。となるが、それは自分を殺す計画だ。
広めたところで自分の首を絞めるだけ。合理的ではないとしか思えない。
「えっ、ていうかアラレは知ってたの?」
「Bランクってことで報告は受けていたよ。それをトシに相談したら、これは黙っておこうって」
「これは俺の判断ミスだ。バレたって言ったところで結局は対策を練り続けるしかない。これからやることはバレてないわけだし、余計な不安を匂わせるのは悪手と思ってな」
トシヤの告知を冷静に受け止めるアラレを奇妙に思う声が上がるが、彼だけはすでに状況を知っていた。
そして元々は彼らの秘密にしておくつもりだったが、他にも勘づいた人が出てきたことから考えを改め、緊急告知に動いている。
「確かに頑張るしかないが……黙っておいた方がいいなんて、トシらしくない」
「ああ。レイジならこうするだろうって思って、あえてな」
黙っておけば余計な不安を煽ることはない。それは理解できるが、トシヤのやり方とは思えなかった。どんな課題も仲間とともに乗り越えてきた彼が、一人で抱え込むはずがない。
その信頼は正しく、トシヤはあえて自分の思うベストではなく、事件に最も関係しているレイジならどうするかを考えた結果だと告げる。
だからその判断が間違いと認めた瞬間、思考を百八十度ひっくり返し、今こうして話を広げている。
「おっと、話止めて悪かった。続きを」
「オーケー。過去のレイジに知られてなぜ情報が広まるかだが」
トシヤは話を戻し、自分が危険な目に遭うだけの行動をレイジがとったと考えられる理由について語る。
「極論言うと、あいつは自分を殺す気だ」
「自分を殺す……」
情報を広めるはずがないと思うのは、自分を危険に曝すと考えられないから。ならその前提を覆せば意味は理解できる。
レイジは自分を消すために、自分を守るための対策を首謀者へ報告し、対策の対策を立てる。それならば、彼らの情報を広めたとしてもおかしくはない。
「皆もあるだろう。もし自分が居なければ、誰かを悲しませずに済んだのにって思ったことが」
「……なるほどね、知らんけど」
ラクアはしらばくれつつもその考え方は肯定した。
「そもそも憶測ばかりで語っているけど、実際はどうなの?」
「その通り。全部憶測だ」
自分たちの計画が知られたことで対策は破綻した。それはトシヤの推測でしかない。事実はどうなのか、レイジに聞いてみたのか尋ねた。
だが彼の回答は、すべて机上論。真実である確証はなかった。
「知っているのはレイジだけ。そんでアイツの話は信じられん」
トシヤはレイジに聞いても無駄だと判断している。彼に正直に話してもらえたら、より明確に状況を把握できる。
だが今までの彼の傾向から、言えば騒ぎになることは隠されると読んでおり、尋ねたところで鵜呑みにしていいか心配になる。
ならばいっそのこと、聞かず、最悪を想定しておく。そうすれば何があっても解決できる。
負担は大きくなるが、対策は厳重であるに越したことはない。
「だから最悪に備える。現実がどんなに非情であってもいいようにな」
「信用してないんだな」
トシヤの決断は冷酷だと感じつつも、レイジのフォローをしてうまくいくか自信がなかったので、皆は彼に従う。
「分かった。これまでの対策は無駄になったこと、伝えておく」
「それと俺たちの“ノーツ”も知られていることもな」
これまでの計画が白紙になったから新しいアイディアを出せばいい、とはならない。一人ひとりがどんな特殊能力を持っていて、どんな対策を立ててくると予想できるか。
その読み合いに勝てなければ、新戦法を編み出したところで出し抜けない。より奇抜で柔軟な案が必要になることも、併せて伝えるようトシヤは補足する。
「それと……これからは関係者を限定する」
「限定!?」
積み上げてきたものがチャラになったことも驚きだが、さらに衝撃的な決断をトシヤは下した。
ただでさえ策が限られているのに、人数が減るとさらに限られてしまう。それで本当に事件を防げるのか、判断の根拠が見えなかった。
「誰を残すつもり?」
「半分くらいかな。限定するって言ってもそんな減らすわけじゃない」
トシヤは周りが思っているほど人員を減らすわけではないと補足したうえで、決断の経緯を語った。
「外すのは“ノーツ”を相手に見られている奴らだ」
「見られている……」
誰も心当たりがないが、それは皆該当しないためだ。対象は他校生だ。
「以前あっただろう。レイジが敵に拉致されたことが」
「ああ、覚えてる」
「そのとき助けに行った連中は、敵に“ノーツ”を見られている」
二年前の秋、バスケットボールの全国大会が開かれた。島の選抜十六校と島の外から全国選抜の四十八校。
レイジの故郷から来たチームは敗退した後、眠っていた彼を連れ去っていった。その救出に向かったのは彼の同学年の“ノーツ”持ち。
奪還の過程“ノーツ”を発揮し武力と多勢に抗った。ゆえに一度見られている。
「そのとき見られたから、対策されているってこと?」
「なら俺たちもダメだろ。知られているんだから」
知られたのは対策だけではない。レイジが持っている情報すべて。ゆえに誰がどんな能力を持っているかが全部情報が渡っている。
「ああ。でも見られているかいないかは大きく違う」
トシヤは知られていること自体は問題ではないと断言した。性質を知られただけで初めて見せる相手に対抗できないとは思っていない。
「”ノーツ“なんて本人も熟知していないんだしな。俺だって最近、鎖で繋いだ相手の“ノーツ”をコピーできるの気づいたし」
「言われてみると、いざ勝負して聞いてた話と違うってなったことあったかも」
性質を聞いていただけで勝てるほど甘くない。それは皆身をもって知っていたので、トシヤの意見の理解が深まった。
なんなら本人さえ底を掴んでいないわけで、他人に全部把握されることへの不安は薄まった。
「つまり、残るのは」
「そう。奪還に向かわなかった……ベスト八に残ったチームだ」
”ノーツ“を見られていないのは、レイジの救出に向かわなかった人たち。つまり当時試合が残っていた、上位に勝ち上がった高校に所属する生徒たち。
二千代、開幕、いすみ崎といった、“ノーツ”のランキングが高い人を多く擁する強豪校がその一角だ。
「じゃあ主力じゃん。なら安心」
「加えて当時は未覚醒だった人もだろ? 実郷もいるなら、十分だぜ」
ベスト八に残っていない人でも、レイジ奪還時点で“ノーツ”が目覚めていなかった人も頭数に加えられる。
「それでいったらヒビキもそうね。やっぱり彼女が鍵を握るのかしら」
「事件を予知したアイツか」
事件は未来の出来事であり、“ノーツ”で未来を見たという人の話を基に動いている。見た少女の名は津田山響。レイジの同級生のAランクだ。
「やっぱり未来は変わっていないのだろうか」
「どうかしら? まあ毎度未来を見て近い死を実感するのは苦しいでしょうし、見てないかもしれないわ」
こうして運命を変えるための活動を提案して、未来が開けたら実現する価値はある。
けれども都度未来を確認し、死に直面する自分の姿を見るとなると、精神的につらいのは予想に難くない。
結局運命を変えられたところで慢心してしまっては無意味だから、常にチェックは不要と伝えてある。
「私は慣れたけど」
なおスズエにも似た“ノーツ”があり、何日後に失恋・破局するかが頭上に見えている。
場合によっては、そのカウントダウンは寿命を示す。
「やっぱり恋の寿命は皆、後二か月か」
「ええ。変わらずに」
スズエはラクアに視線を向けるとそう答える。彼女からは同学年全員の残り日付が同じに映っている。大勢が同じ日に落命するサインだ。
「一部はもっと早いけど」
「じゃあそいつは失恋が先だな」
それはそれとして生きているうちに恋が砕かれる者もいると呟いた。
「ねえなんで俺を見たの」
「……特に意味はないわ」
「嘘だろ」
その残念な人は自分のことなのかと問い出すラクアに対し、スズエははぐらかした。
「ラクアがあーちゃんに愛想尽かされるのはおいといて」
「やっぱり俺のことなの!?」
長年の片思いが成就したラクアに、冗談にしても酷い話がさらりと流された。
「まずはこれを転送してくれ。整理すると二つ。これまでの対策は全部知られたこと、今後はレイジの故郷へ行ったことがない奴だけで対策を練ることだ」
トシヤは言いながらスマホでメッセージを作成し、同級生グループチャットに送信した。ラクアたちの役目は、それを各ランクのチャットへ転送すること。そして質問に答えることだ。
「これで解散。質問の返答に困ったら相談してくれ」
全員一つ目の役目を果たし、教室へ戻っていく。各地から質問が飛び交うと、各々答えたり、相談して対応していった。
これまでの頑張りが無駄になったことで一時的に騒ついたものの、新たな作戦を、二年前のバスケの大会上位陣と後発組で編み出すというトシヤの提案には賛同の声が多く上がり、じきに落ち着いた。
だが例外も存在した。
「トシー、ヘルプ」
スズエの元に反対意見が返され、対応をトシヤに投げつけた。
「私じゃ手に負えなくて」
「面談なだけだろ……誰から?」
「ハルナよ」
厄介者の名前は千葉春菜。名前を聞いてトシヤは、彼女なら反対するだろうと納得し、事の面倒さを理解した。
「あいつなら仕方ない。俺が話に出る」
事情を聞いたばかりかつ情報の中継役でしかないスズエに任せるわけにはいかないので、トシヤは責任を持って彼女と向き合うと約束した。




