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唄う海のように  作者: 下弦 鴉
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2、二歩目は不安定

 旅に出る日の朝に、シャワーを浴びたよ。何だか久しぶりで、とっても気持ちよかった。でも、水の流れる音を聞いている間、君の声がどうしても聞きたくなっちゃって。もう、泣かないって思ってたのに、潤んできちゃうんだ。どうしても。君の些細な一言とか、面白い事、怖い話とかもしたよね。それがさ、今頃になってよみがえってきちゃって。こんなんじゃ、もう一生恋はできないね。未練がましい気がするけど、仕方ない事だって、割り切って生きれたらいいなぁ。

 それからね、髪の毛も切ったの。肩に付かないくらい短く。そしたら、毛先がぴょんぴょんはねちゃった。癖毛の事、すっかり忘れてたよ。君にも、この髪の毛、よくからかわれてたよね。寝癖直して来いよって言ってさ。何だか、懐かしいね。

 「有実!朋ちゃん来たわよ!」

 「うん、ちょっと待って」

 学校を休んでまでは行けないから、夏休みに行く事にしたんだよ。君といろいろな所に行った時も、夏だったし。だから、学校はサボってないよ。もう、サボってないからね。

 君が始めてくれた手提げカバンで行く事にしたんだ。覚えてる?取っ手の部分が白いやつ。確か、プーマのだった気がするな。私の好きなブランドだって、知ってたんだっけ。たまたまだっけ。ねぇ、君はどっちか覚えてる?

 「有実ぃ〜!!」

 「待って、もうすぐだから」

 鏡の前に立って、君がくれた髪留めで前髪を止めてみたよ。私、これがお気に入りなんだ。ラメの入った透き通る水色の髪留め。海に似てるからって、くれたんだよ。君、その時とっても、照れくさそうだったね。

 階段を下りて、すぐの玄関に、君の姿を見た気がしたんだ。いつもみたいにラフな格好して、おせぇよって、言ってた。でも、瞬きしたらね、消えちゃったんだ。君が居たはずの所には朋美がいて、遅いって、頬膨らませてた。君が来てくれたと思ったのに、瞬きなんて、しなければ良かったのに。そしたら、もっと君といれたのに。

 「ほら、有実。早く行くよ、電車に遅れちゃう」

 「う、うん」

 「それじゃ、行って来ますね、おばさん!」

 「いってらっしゃい、気を付けてね」

 「は〜い!」

 「うん、じゃね。お母さん」

 あんまり元気よく言えなかったと思うけど、前よりはましになったと思うんだ。だって、何だか楽しみになってたんだ。この旅が。もしかしたら、どこからか君が合流して来てくれるかもしれない。そんな、変な想像してたんだ。こんなお願い、神様だって叶えられないよ。きっと。


 電車に乗る前は、だいぶ楽だったよ。でも、どこに行こうか迷っちゃって。適当に電車に乗る事にしたんだ。私たち、スイカだから、ホントにラッキーだったよ。切符だったら、きっと時間通りに電車に乗れてなかっただろうから。

 あ、そうだ。まだ、初めに行く所、教えてなかったよね。まずは、箱根に行く事にしたよ。ここからそんなに遠くないし、君と始めて行った所だって、一番最初に思い出したから。少し、楽しみだな。君がいない事は、とても悲しいけど、朋美がついて来てくれてるから、きっと大丈夫だよ。君がいなくても、しっかり生きれるってところ、見せてあげなくちゃ。

 「有実、次で降りよう」

 「うん」

 久しぶりに地面に立った足がね、まだ震えてた。ずっと座りっぱなしだったから、少し歩きにくかったな。でもね、町並みが綺麗だから、そんな事忘れて走っちゃった。転びそうになって、朋美に笑われたんだよ。

 「今日止まる所、探さなきゃね」

 「そうだね。……じゃあ、私と一輝が泊まった所にしよう」

 「どこだか覚えてるの?」

 「……自信、ないけど」

 おおまかにしか覚えてなかったから、はっきり言えなかったよ。君だったら、覚えてたかな?簡単に、こっちだよって、案内してくれたかな?

 「有〜実!」

 朋美の手に両頬を挟まれて、怖い顔された時、とってもびっくりしたんだ。私、変な事言っちゃったかなって。そしたらね、朋美は今度笑って言うんだ。

 「またその眉寄せたら、アタシ、帰っちゃうからね」

 「眉?」

 「そう、眉」

 そう言って、つんつんって私の眉間を突付いたの。後から知った事なんだけど、君の事を考えてたり、君の事を思い出してたりしたら、私の眉間に皺が寄るんだって。悲しそうな顔してるのに、眉間に皺ができて面白いって、朋美は笑ってたよ。私には、どこが面白いのか、いまいち分からなかったけど……。

 「で、どっち行けばいいの?」

 「え?」

 「有実達が止まった所。どっち?」

 右を指したり、左を指したり、その朋美の動きが面白くって、何だか笑えたんだ。久しぶりに笑った気がして、何だか驚いたよ。

 「……確か、こっちだったと思うよ」

 「有実の確かは当てにならないのよねぇ」

 「だ、大丈夫だよ。こっち、こっちだった」

 むきになって言ったらね、また笑われちゃった。そしたら、また笑えてきて、何だか、君を失った寂しさが減っていった気がしたよ。このままいけたら、また、君がいた頃みたいに笑って生きれる気がしたよ。



                      *


 「どうしよう、どうしよう……」

 この家に入らないといけないんだけど、僕にそんな勇気はないよ。何であいつは僕にこんな事頼んだんだろう。確かにあいつとは親しかったけど、あいつの彼女なんかと親しい訳ないだろ。話した事すら、クラスだって同じになった事だってないんだからな。もう。

 でも、このままこの家の周りをウロウロしてたら、不審者として警察に電話されちゃうかもしれない。いったん引き返して、もう一回来ようかな?……そのほうが、怪しい気がするな。

 「……どなた?」

 「は、はい!?」

 後ろから急に声を掛けられて、思わず声が裏返った。びっくりして振り返ると、そこには一人の女性が立っていた。高く結われた髪に、白髪が混ざって入るが、綺麗な人だった。

 「どなたですか?私に用ですか?」

 「……え、いや、あの……」

 こんな返事に困っていたら、間違えなく警察を呼ばれる。その前にきちんと説明をしなくては。でも、何て言ったらいいんだ?

 「もしかして、有実のお友達?」

 有実。そうだ、あいつが言ってた彼女の名前だ。って事は、この人は、あいつの彼女のお母様?だったら、話さなくては。

 「あ、と、友達じゃないんですけど。……あの、僕の友達が、その子の彼氏だったんですけど……」

 一瞬眉を寄せたけど、何とか通じたようで、警戒を解いてくれたようだ。

 「もしかして、一輝君のお友達?」

 「そうです。あ、ぼく、篠山(ささやま)って言います」

 「ささ、やま……君」

 「はい。で、あの、急で悪いんですけど、えっと、あの、有実さんはいますか?」

 「有実なら、さっき出かけたわよ」

 「……出かけた。……どこへ行ったか、あ、出来ればでいいんですけど、教えてもらえませんか?」

 「どこへって……う〜ん」

 悩むような所へ行ったのだろうか。それとも、実は家出だったりして。だから、返事に困ってるんじゃないか?だったら、これは、どうやって渡せばいいんだろう。

 「ごめんね、行き先は聞いてないの。何か、急用なら、呼び戻しますよ?」

 「あ、それなら、いいですよ。迷惑かける訳には行きませんから。あ、帰ってきたら、ここに電話してください」

 念のために用意してきた、自分の携帯電話の番号を書いたメモを渡したけれど、見ず知らずの人に、そう簡単に電話なんて掛けてくれるだろうか。はあ、お先真っ暗だな……。

 「じゃあ、有実から何か電話があったら、これ、教えときますね」

 「有難うございます、それじゃ」

 ああ、やっと終わった。何で、全く知らない人と話すだけで、こんなにも息が上がってしまうんだ、僕。そんなに他人が嫌いなのか。人とぐらい、普通に話させてくれよな、まったく。

 とは言ったものの、連絡が取れなくちゃ、意味がないな。家で待ってても、どうせ暇だし、僕も後を追いかけて行ってみようか。……場所が分からなけりゃ、無意味だな。

 「はあ……」

 「どした、奈留(なる)

 「……昼なのに、出てこれるんだな、幽霊って」

 「なんだなぁ、俺、初めて知った」

 「僕もだよ、カズ」

 あ、言うの忘れてたけど、僕には幽霊とか、そう言った類のものが見える。ついでに言うと、僕の隣で楽しそうにふよふよしてるのは、一輝。何の未練も残ってないらしいけど、幽霊となった姿で、死んだ日の次の日に、僕の前に姿を現した。で、彼女に渡したい物があるけど、渡せないから、代わりに渡して欲しいって頼まれた訳。だから、こんな目に遭わされてるんだ。

 「なぁ、俺の予測だけど、有実はどこへ行こうとしてるのか分かるぜ」

 「……僕にそこに行けと?」

 「お、さすがだな、奈留。そのとーりだ!」

 「……言っとくけど、僕の家は貧乏だから、そう遠くまで行けないからな」

 「ダイジョブだよ。なんとかなるさ」

 「ならねぇよ!」

 周りの事を忘れてカズと話してたから、周囲の目が冷たい。痛いほどの視線の先には、子供連れ。そして、お決まりの台詞を残して去ってった。ああ、こんなトコで、独り言を言ってると思われたら、恥ずかしいと言ったらありゃしないよ。

 「なあ、頼むよ、奈留。俺が言う場所に行って欲しいんだ」

 「遠くない?」

 「遠くない」

 「親が心配しても、何とか説得する方法を、教えてくれるか?」

 「努力するさ」

 「……それが出来たら、成仏できるか?」

 「……きっと」

 生きている事を噛み締めたくなって、たくさん空気を吸ってから、吐いた。見上げた空に、薄っすらと透けるカズの体が重なって、青空が曇った。

 「なら、協力してやるよ」

 「やった、ありがと、奈留!」

 「で、行き先は?」

 「それは―――」

 意味もなく耳打ちされた所は、本当にそう遠くなかった。明日にでも、行ってみようと思えるその距離に、そこはある。

 いつ会えるか、分からないけど、そこに毎日行って、有実さんに会わなくちゃいけないな。これを、渡すために。

 お久しぶりです。本当は第一話に書こうと思っていた事を、その時に忘れていたので、ここで書かせてもらいます。


 前作とはまったく違った、人の死なないものを書こうとしたら、こんな結果になりました。恋愛ものは初めて書くので、まだまだ至らない所があるでしょう。それでも、温かく見守ってやってください。

 どうしても文句が言いたい時など、感想にして、私にぶつけてください。返事を書けるよう、きちんとした作品が書けるよう、頑張ります。

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