見つからない
エイリワスとの戦いから、数日が経った。
ライサム全土では、未だ戦いの爪痕が残っていた。
エイリワスによって引き起こされた戦闘は、ブウタ地区だけに留まらなかった。
各地でエイリ星人が出現し、ECOとの戦闘が発生。
多数の地区で建物が破壊され、道路や施設にも大きな被害が出た。
そして――ECOもまた、大きな被害を受けていた。
戦死した隊員。
行方不明となった隊員。
重傷を負い、今も病院で治療を続けている隊員。
各支部では、戦闘によって失われた戦力の確認と補充、負傷者の搬送、施設の修復、エイリ星人の残骸の回収など、終わる気配のない作業が続いていた。
エイリワスは倒された。
だが、彼が残したものはあまりにも大きかった。
そして、その被害の中でも――
一人だけ。未だに見つかっていない隊員がいた。
ジエル・レート。
エイリワスとの戦闘の末、行方不明に。
その後、数日間にわたって捜索が行われた。
海岸。崖の下。周辺海域。森。可能性のある場所は、すべて調べられた。しかし。
見つかった手がかりはエデンが見つけたジエルの血に染まった青いはちまきだけだった。
遺体は――なかった。それでも、ECOはすぐには捜索を打ち切らなかった。
数日間。隊員たちは交代しながら、ジエルを探し続けた。
だが、ライサム全土で発生した戦闘による被害は大きい。いつまでも一人の捜索に人員を割き続けることはできなかった。やがて。ジエルの捜索は、打ち切られることになった。
その日。
エリア・オズの海岸には、ECOのSランク隊員、盤上流鹿が一人立っていた。
波が静かに打ち寄せている。
数日前まで、多くの隊員がここを行き来していた。しかし今は、もう誰もいない。流鹿は海を見つめたまま、静かに息を吐いた。
「……どこにもおらんな……」
返事はない。当然だった。ここには、ジエルはいない。流鹿は目を伏せる。
「……すまん、エデン君」
それだけ呟くと、海岸を後にした。
まだ終わっていない任務がある。ライサムの各地では、今もECOの隊員たちが戦いの後始末を続けている。流鹿にも、やらなければならない仕事があった。だから――
もう、探すことはできない。
その頃。少し離れた森の中。エデンは一人で歩いていた。
「……ジエル」
木々の間を進む。何度も地面を見つめる。何度も周囲を見渡す。誰もいない。それでも、足を止めない。もうECOの捜索隊はいない。流鹿も戻った。他の隊員たちも、それぞれの任務へ戻っていった。それでもエデンだけは、まだここにいた。
「どこにいるんだよ……」
小さく呟く。
「ジエル……」
返事はない。風が木々を揺らす。エデンはその音を聞きながら、また歩き始めた。
――まだ、生きている。
そう信じて。誰もいなくなった森の中を、ただ一人で探し続けていた。
それから、二日間。エデンは毎日、エリア・オズへ向かった。亜爆もついていった。朝になると支部を出る。そして、海岸へ向かう。昨日も。一昨日も。その前の日も。やることは、何も変わらなかった。
「……ジエル」
海岸を歩く。波打ち際を見つめる。岩場を確認する。崖の下へ続く道を探す。森へ戻れば、戦闘の跡を一つずつ確認する。
「ジエル!」
名前を呼ぶ。返事はない。それでも、また次の場所へ向かう。
「……ここにもいない」
エデンは呟く。そして、また歩き出す。その後ろには、亜爆がいた。
「……」
何も言わない。ただ、一定の距離を保ちながらエデンについていく。エデンが海岸へ向かえば、亜爆も海岸へ。森へ入れば、亜爆も森へ。エデンが足を止めれば、亜爆も足を止める。
この二日間。
亜爆は、一度も「もうやめましょう」とは言わなかった。エデンが探し続ける限り、付き合った。だが。その表情は、日に日に暗くなっていた。
「……」
亜爆は、少し離れた場所からエデンを見る。
エデンはしゃがみ込み、岩の隙間を覗いていた。
「ジエル……」
ジエルはどこにもいない。立ち上がる。今度は海を見る。
「……あっちかもしれない」
そう言って、また歩き始める。亜爆はその背中を見つめた。その姿が、痛々しかった。きっとエデン自身も分かっている。数日間探しても見つからない。捜索隊も解散した。
ECOも、ジエルを死亡として扱い始めている。それでも。エデンは探す。
「……エデンさん」
亜爆が小さく声をかける。
「ん?」
エデンが振り返る。
「……いえ」
亜爆は言葉を飲み込んだ。
「もう見つからないかもしれない」
そんな言葉を口にすることはできなかった。
エデンは何も知らないように、また前を向く。
「行こう」
「……はい」
二人は歩き出す。
夕方になっても。
日が沈んでも。
エデンは探し続けた。
そして、また翌朝になる。
またエリア・オズへ向かう。また同じ場所を探す。何も見つからない。
それでも――
エデンは、諦めなかった。そんなエデンを。
亜爆はただ、悲しそうな顔で見つめていた。




