『きにする。』
気になっている人がいる。
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「私は可愛いと思うんだ」
「……初手からもう嫌なんだけど、一応聞くわ。どう言う文脈、それ」
「いや、客観的な事実として。大変可愛らしく、愛らしい、キュートな外見をしているという自覚があるんだけど、どうかな?」
「仮にその言い分が百パー事実に即してたとしても、今の八秒位の発言で全部台無しだよ。地雷どころか固定砲台じゃねーか」
「事実に即していることは認めると?」
「個人によりけりだろ。主語をデカくすんじゃねー」
放課後の教室に二人きり。
互いに互いの待ち人……委員会の仕事で遅れている、別々の友人を待っていたその最中。不意に始まった会話は取り留めもなく雑然で、どうしようもないほど不毛であった。
「つまり、男女の友情というのはやっぱり難しいんじゃないかと思うんだ」
「あの流れからどうやってそこに着地点出来るん?」
「例えばだけど」
「絶対俺の話聞かねーよな」
「私が君の事を、それはもうどうしようもない位大好きだったとしよう」
「——ほぉ」
「ポイントは、ただ好きって訳じゃないってところ。それはもう情熱的で狂おしく、それこそ夜も眠れない位」
「健康に悪そうな話だな」
「で、私がそれを君に伝えるとしよう」
「はぁ」
「さぁ」
「はぁ?」
「だから、ほら。君はどうする?私からの愛の告白を受けて、何事もなかった様にスンとしていられる?無理でしょう?」
「……だから男女の友情はあり得ませんってか?そりゃいくらなんでも暴論だろ。のっけからそう言う目で見てない間柄だったら、その論理こそ無理筋だろ」
「じゃあ、どう思った?」
「は?」
「私の告白。刺さった?」
「例え話が刺さってたまるか」
徹頭徹尾、破綻し切った理屈を延々と押し通す。
ただそれも、決して今に始まったわけでもなく。お互いこんな不毛なやり取りにも随分なれたものだと、他人事の様に感心してしまう。
「じゃあ、君は男女の友情はある派なんだね」
「ケースバイケースだろ。惚れ込んでなくても気が合う奴は居るし、正反対でもそう言う目で見る事はあるだろ。結局自分次第の相手次第じゃねーの」
「なるほど」
考え込む仕草。
訪れた沈黙の暇に、溜息が響く。
「……余計な世話だし、アンタが訳の分からん議論をふっかけてくるのは今に始まった事でもねーけどさ。そっち系の話題をおもちゃにすんのはあんまり、アレだ、アレなんじゃねーの」
「どれなのか」
「健全な男連中には聞かせないに越した事ないんじゃねーのって話だよ」
「……コンプライアンス?」
「センシティブだ」
「非表示案件だったのかしら……」
「承認欲求の話はしてねーよ」
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「悪ぃ、またせたー!」
廊下から呼び掛ける声に、立ち上がる。
「タッチの差って奴だ。お先に失礼するわ」
「うん。くれぐれも、身体に気をつけてね」
「上京でもすんのか、俺は」
「人生何が起きるか分からないからね。これが今生の別れにならないとは言い切れないでしょ」
「重過ぎるだろ。鉛か」
「金塊かもしれない」
「安見積もりしない奴だなぁ……」
「では、続きはまた明日にでも」
「え」
「え」
「まだやんの、これ」
「だって何一つ、ちゃんとした回答が得られてないから。擦り合わせはしないと」
「んな大仰な……」
「嫌なの?」
「嫌だよ」
不満気に口を尖らせる。表情に僅か、呆れた様に肩を竦めてみせる。
「まー、あれだ。主観は勿論大切だけど、評価の物差しは常に客観だからな。そう言う意味では、まぁ、あながち的外れでもねーんじゃねーか」
「急に回りくどい」
「アンタはなんでいきなりそんな察しが悪いんだよ……」
「要約すると?」
「…………事実に即しているってのは認める、って話だよ」
「……………………ほほぅ」
「溜めるなぁ」
「おーい、早く行こうぜー」
廊下から急かす声が響く。
「——とにかく、こちらの意見を以てこの話は手打ちだ。構わないだろ?」
「……煙に巻かれた感が否めないのだけれども」
「考えすぎだ」
——————
「悪ぃ、待たせた」
「おー、こちらこそだ。なんだ、またあの子と一緒だったの?」
「絡まれてたんだよ。悪質な当たり屋と変わりゃしねー」
「……」
「……なんだよ」
「……満更でもない癖に」
「…………ほっとけ」
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気になっている人がいる。
愛だの恋だの、酸いだの甘いだの。
そんな多くを、未だ正しく知らないまま。
それでも抱いたこの感情はきっと、誰の目から見ても幼稚で、稚拙で、不恰好なんじゃないかと思う。
「おまたせー……ってアレ?一人?」
「うん。つい今し方から、だけどね」
「……なんで口元押さえてんの?花粉症?」
ついでにもう一つ、具合の悪い話をするならば。
気恥ずかしさや見栄や虚勢、そんな諸々を抱え込んだまんま日々を生きる上で。経験豊富な大人諸兄とは違って、芽生えた感情を臆面もなく認めるというのは、我ら学生の身空には些か苦しいものなのだ。
だからこれは、結局の所どこにでもある話。
思春期の盛り、後先なんて碌々勘定にも含めない、退屈極まる日常の一コマ。
「——不意を突かれた」
恋してるにも。
愛しているにも届かない、道半ばの小さな戯言。
「え、全然わかんない。なんの話——って顔赤っ」
私たちには、気になっている人がいる。




