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異世界転生 勇者の体で下宿屋営みます  作者: 抹茶のあずき
第2章:再会編

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111/111

111話 迫り来る危険

屋根の上で閃光が収まると、塔の頂上には静寂だけが戻った。黒い仮面の主は、翼を収めると、何事もなかったかのように舞い降りる。


バサッ、バサッ。


重苦しい羽音が空気を切り、かつての戦場――破壊の爪痕が痛々しく残る部屋へと降り立った。壁は魔法の暴威によって無数の亀裂が入り、穴の空いた箇所からは冷たい夜風が吹き込んでいる。床には力なく倒れ伏したレンとロロの姿。

黒い仮面は、ゆっくりとレンの元へと歩み寄る。


ドスッ、ドスッ、ドスッ。


黒い刃が冷たい光を放ち、まさにレンの命を絶たんとして振り上げられた――その時だった。

黒い仮面が唐突に震えた。黒い刃を構えたまま、その持ち手の部分を自らの顔へと叩きつける。


ガチャーーン!!!


鋭い金属音と共に仮面の半分が砕け、ショウの顔が露わになる。


「か……かえせ……!! 俺の体だァッ!!」


ショウの叫びと共に、左手が残った仮面の破片に突き刺さる。指先から血が滲むのも構わず、ショウは死に物狂いでそれを引き剥がした。


「うぉーーーーーつ!!!!」


ガチャーーーーン!!!!!


仮面が粉々に砕け散った瞬間、彼を包んでいた漆黒の法衣が霧を撒き散らすように崩壊していく。


サーーーーーーーッツ……。


黒い粒子は床に落ちる前に消え失せ、ショウは両膝から崩れ落ちた。


「はぁ、はぁ、はぁ……っ……な、なんだったんだ……いまのは……」


荒い息を吐きながら、ショウは自分の体を確認する。ロジカの刃に貫かれたはずの胸元。そこには、赤く染まった衣服こそあれど、傷口はどこにもなかった。


「シ、ショウ……」


弱々しい声に顔を上げる。ロロが痛みを堪えながら、震える手で自身の体に触れた。淡い光がロロの傷をなぞり、最低限の応急処置を施す。ロロは顔を上げ、フラつきながらも立ち上がった。


「ショウは大丈夫? さっきの奴は……?」


「だ、大丈夫だよ……さっきの奴は……倒した」


ロロは小さく、納得するように頷く。


「流石だね、ヴェンクス……」


「……ショウだよ、ロロ」


ショウはロロに駆け寄り、その小さな体を抱きかかえるようにして支えた。ロロの瞳には安堵と、何処か困惑が混じっている。

ショウはロロとレンの側に移動し、ロロは小さく息を吐いて集中する。

美しい緑の光がレンの傷口を包み込み、周囲には刹那的な草花が芽吹く。苦悶の表情を浮かべていたレンの顔が、ゆっくりと穏やかになっていく。

やがて、レンが瞼を開いた。


「シ、ショウ……ロジカの野郎は……?」


「ああ……倒したよ」


レンはふっと弱々しく笑い、悪態をつくように言う。


「お、お前が……? はっ……こっちの世界ではお前、そんなに優秀なのかよ……?」


「……どーいう意味だよ」


二人は顔を見合わせ、弱々しく、しかし確かに笑い合った。

レンは呼吸を整えると、塔の一角を指差した。


「……そうだ、ショウ。予言の石だ。あの壁を見ろ……あそこ、隠し部屋になっている。中にきっとあるはずだ……俺はこんな様だ……頼む、取ってきてくれ」


ショウはレンの指し示す方向へ歩み寄る。壁の継ぎ目に、微かな違和感――風の通り道のような、人工的な気配があった。

ショウがそっと手を触れると、石造りの壁が音もなく滑り、隠し扉が口を開けた。


そこに広がっていたのは、静寂に満ちた書斎だった。

壁一面に埋め尽くされた古書。奥には小さな机と椅子が置かれ、埃を被った魔法薬の瓶や、誰かが着ていたであろう古びたローブが、まるで時が止まったかのように静かに佇んでいた。

ショウは、吸い寄せられるように隠し部屋の奥へと足を踏み入れた。埃っぽい空気の中に、古びた紙と干からびた薬草の匂いが混じり合う。

静かに、しかし確かな緊張を抱いて机へと歩み寄る。そこには、書きかけのまま放置された一枚の羊皮紙が残されていた。ショウはそれを手に取り、震える目で文字を追う。


『空に気をつけろ……奴らがいる……』


そこで文章は途切れていた。まるで何者かに筆を折られたかのような、唐突で絶望的な言葉。

ショウが首を傾げ、その羊皮紙の隣に視線を移したとき、息を呑んだ。


そこには、片手に収まるほどの大きさの、透き通った白い宝玉が置かれていた。かすかな乳白色の輝きを放つ、それは——。


「これが……予言の石……?」


初めて見るはずなのに、胸の奥が締め付けられるような、奇妙な懐かしさがこみ上げてくる。まるで、ずっと以前から自分の一部であったかのような感覚。

ショウが恐る恐るその石を掴んだ瞬間だった。


——ッ!?


世界が、白く塗り替えられた。


「な……なんだ……これは……っ!!」


脳裏に、洪水のように景色が流れ込んでくる。

幾千もの場所、幾万もの記憶が万華鏡のように回る中、ある一つの光景が焼き付くように浮かび上がった。

天を仰ぐほどに太く、神々しいまでに高く聳え立つ大樹。


「なんだ……ここは……。サクラ、お前はここにいるのか……?」


ショウが呟くと同時に、ビジョンが強制的に切り替わる。


今度は——地上の街、ヴェールフェンだった。

しかし、目に映ったのは地獄だった。

街路に散らばる血の海。エマやアリナ、ガルド、アエラ、ゴードン、レン、レンの仲間達、そして、ショウ自身の体もまた、冷たい石畳の上で無残に倒れていた。

その傍らに、空を見上げるようにして立つ、禍々しい——言葉にできないほど異質な魔力を纏う「何か」。


「くっ……あぁぁっ……!」


ショウは自分の頭を抱え、その場に崩れ落ちた。視界が急速に現実の書斎へと戻っていく。

心臓が早鐘のように打ち鳴らされている。はぁ、はぁ、と荒い呼吸を繰り返しながら、ショウは予言の石を強く握りしめた。


——何かが、近づいている。

得体の知れない恐怖が、鋭い槍のように背筋を刺す。このままここに留まってはいけない。

ショウはふらつく足で立ち上がり、石を懐に押し込むと、レンとロロが待つ外の部屋へと駆け出した。


塔の階段から響いていた激しい足音は、部屋の入り口でピタリと止まった。一瞬の静寂の後、弾かれたようにエマが飛び込んでくる。


「ハァッ!! さっきの雄叫びをあげた魔物はどこだ!!」


エマは先頭に立ち、愛用の杖を構えていた。魔法障壁を展開しつつ、いつでも攻撃呪文を放てる構えだ。その背後から、アリナ、ガルド、アエラ、そして最後にゴードンが続いた。

部屋の中に、ショウ、レン、ロロが無事に立っている姿を見て、仲間たちの顔に安堵の色が広がる。


「みんな……!! 無事でよかった!」


ショウが駆け寄ると、ガルドが笑いながら、ショウの肩を掌で叩いた。


「ショウ!! お前も無事そうだな、よかった!」

ガルドは部屋を鋭く見回す。


「……てか、さっき塔の上で叫んでいた化け物はどこへ行った? ここまで振動が伝わってきたぞ、2つの禍々しい魔力をこの塔から感じたが...」


ガルドの問いに、エマ、アリナ、アエラ、ゴードンもショウへ視線を注ぐ。

ショウは一瞬、自分の胸元――致命傷が消えた場所――に手をやり、すぐにそれを濁すように濁した。


「……あいつは、……俺の手には負えそうにないくらい強くて、……そのまま、塔から出ていき飛んで行きました。もうここにはいません」


「出て行った……?」


エマが怪訝そうに眉をひそめる。地下都市の塔から? しかし、ショウの言葉には嘘が含まれていることを察しながらも、追及する時間はなかった。


何故なら、一行の最後尾から現れたゴードンは、その屈強な両腕に二人を担いでいたからだ。右腕には濃い青の短髪を揺らす弓とダガー使いのザック、左腕には優しい顔立ちをした茶髪の魔法使いルーシィ。

二人はボロボロになりながらも、ゴードンの腕の中で意識を保っていた。


「ザック! ルーシィ!!」


レンの声に、ゴードンが二人をそっと、壊れ物を扱うように床へ下ろす。


「レン……無事でよかった……」


ザックが苦しげに、しかし嬉しそうに笑い、ルーシィも涙を浮かべて頷く。


「みんな、無事でよかった。……レン、予言の石は?」


「ああ、手に入った。それと……」


レンはショウの方を指差す。


「あいつが俺が探していた友人の1人……ショウだ」


レンの言葉に、ザックとルーシィは驚きに目を見開いた。


「えっ……? 会えたのか……!?」


「彼が、離れ離れになったって言う友人の……?」


驚く二人を制するように、ショウが切迫した声を上げる。


「みんな! そんなことより早くここから抜け出さないと!!」


その尋常ではないショウの焦燥感に、ガルドが怪訝そうに眉を潜める。


「どーした、ショウ。そんなに慌てて」


「なにか……禍々しい『何か』が、すぐそこまで近づいてきているんだ! 予言の石を掴んだとき、見たんだ……。このままだと、俺たち全員が……」


ショウが予言の石で見た、血に染まるヴェールフェンの石畳と倒れる自分自身のビジョンを短く説明すると、部屋の空気が一変した。

誰もが、その「予言」が持つ重みを理解した。

アエラが表情を強張らせて呟く。


「それが本当なら、一刻の猶予もないわね。私たちに死の危険が迫っているってことだわ」


「……よし、まずはこの地下都市を出て地上へ急ぐぞ!!!」


ガルドの号令が響き、一行は再びゴードンが負傷者を支え、ショウを先頭に塔の階段を猛烈な勢いで駆け降り始めた。

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