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アイリは『太初の鯨』からつぎのような文字列を発見した
この道を抜けたら、私たちはどこに行くのかな。独りごちるように私は言った。この道の先に、白い白い光が差しているの。あなたは、それでも私の言葉を受け止めて言った。
どうしたら、どうしたら私たちはその先に行けるのだろう。無限に長い道、そして無限の彼方から来る光。どうしたら光は私たちに届いているのだろう。私は、そう考え始めてしまう。私の横顔をみてあなたは励ます。考えすぎなくて良いんだよ。
辺りは、暗い。道だけがある。しかし、道しかないから暗いとも心細いとも思わない。歩くたびに私は、意識が軽く遠のいていくことを感じる。私は今すぐにでも、私を捨ててしまえるのではないかと思う。あなたはどうなの、そう言いたいけれど言葉が出てこなかった。かわりに私は隣をあるくあなたの手を握る。強く、握る。
怖いの、怖いの。
私は何を恐れているのかも知らずに、そう思う。
思うのではなく、体が震え出す。
あなたは気づいているはずなのに、そのまままっすぐ歩いている。
あるいは強がるように。
暗い、暗い道だけがある。
私はもう怖さに慣れてきたようだ。ふるえたままの体は、それでも歩き続けている。あなたの手をつかむ手はそのまま固まったように力が入っている。あなたは、すこし無理をするように歩いている。強がるように。私を不安にさせないように。
私はこんなに怖がっているのに。あなたがそう思わないはずはないのに。私は一層、あなたのことが好きになる。
体が痛む。
足が痛む。手が痛む。
息が外れてゆく。
私はいつの間にか目の前がかすれてしまっていた。光はぼんやりと広がって確かさを失っていった。あなたを握る手は感覚を失って、物体のように私に逆らった。それでもなぜか手は離れなかった。
それだけは覚えている。
そこから私はどこに行ったのだろう。と考える。考えるべきことなどそう多くはないはずなのに思考がまとまらない。
それからあなたと私はどうなったのだろう。あの光は何だったのだろう。
どうして私は、今考えているのだろう。
あなたの手は。
私は右手を探そうとする。
どこにもない。右手を忘れてしまった。私は探し続ける。あなたの右手を。私の左手を。
力を込めていたはずなのに。
体がどこかに行ってしまった。
精神だけがある。
私は急いで思考を回す、回す。
空回りするように言葉がきれきれになる。
真空で呼吸をするように、私はもがく。
苦しい。
遠くまで歩くはずだった。私とあなただった。
私の思考は。
思考は道から外れて一人から回る。
よどみの中で一人立ち止まる
やがて動きがとまっていって
私は冷たい温度に染まってゆく
戻れない
アイリは『太初の鯨』から次のような文字列を発見した




