第4章:水は再び流れ出す
「レイチェルって、なんだかとっても可愛くないですか?」
夕日が完全に地平線へと沈むと、心地よかった森は一瞬にして深い紺碧の闇へと姿を変えた。茂みの奥からは、まるで合図でもされたかのように、野生の獣たちの低く恐ろしい唸り声が響き始めた。私の小さな肩はわずかに震えた。いくら前世の知能があるとはいえ、この幼児の身体で猛獣の住む暗闇の森にいるのは、客観的に見ても恐怖そのものだった。
隣にいたヨシアは、恐怖など微塵も感じていないようだった。彼の鋭い監視人の眼差しは木々の並びを走査し、冷静に周囲を警戒している。彼は落ち着いた様子で辺りを探すと、柔らかく清潔な砂地を見つけ出した。
「さあ、レイチェル。目を閉じて」と、ヨシアは優しく、穏やかな声で言った。
私は言われるままに頷き、目を閉じた。瞼を閉じたその瞬間、周囲には不思議な静寂が広がった。森の猛獣たちの唸り声は、どこか遠くへ消え去り、高い山々からは聖なる調べが聞こえてきた。それは王国全土に響き渡る、聖者たちによる荘厳な詠唱だった。
夜の空気の中を漂う美しい旋律に合わせ、ヨシアは砂の上に跪き、深く静かな敬意を込めて祈り始めた。
「星々の彼方に住まう、我らの創造主であり宇宙の王よ、
その聖なる御名は永遠なり。
御国が来ますように、
天で行われるように、地にも御心がなされますように。
日々の糧を与え、
過ちを犯す者を赦す我らを、どうか赦したまえ。
悪しき道から我らを遠ざけ、
忍び寄る影から魂を守りたまえ。
アーメン。」
リディアにおいて、この祈りは神聖な伝統だ。夕べの教会の鐘が鳴り響く瞬間、高位の司祭や大臣から最下層の村人まで、皆が膝をつき心を一つにする。
祈りが終わって目を開けると、驚くべきことに、森を支配していた恐ろしい雰囲気は跡形もなく消え去り、心地よい夜風が吹いていた。すぐ近くの小川が、可愛らしい「チョロチョロ」という音を立てている。
しかし、その穏やかな空気が満ちた瞬間、ヨシアのプロの監視人としての本能が顔を出した。私のそばで見せていた、いつもの「パパ」のような親しみやすさは完全に消え去っていた。彼の目は信じられないほど鋭く、暗い茂みに隠れた狼を一匹も逃さないかのように光っている。彼はマッチを擦って携帯用のランプに火を灯すと、長い道のりを帰るために油の残量を念入りにチェックした。
彼は私の小さな手をその大きな節くれだった手で握り、暗い森を確かな足取りで歩き出した。私の短い幼児の足では追いつくのがやっとだったが、彼は完璧に私に合わせて歩調を緩めてくれた。やがて私たちは頑丈なゼフナ橋を渡り、彼の guard post(監視所)のある南門を過ぎた。
村の中を少し歩いたところで、泥壁にぶつかったかのような強烈な疲労が私を襲った。幼児のスタミナは完全にゼロになった。足元がふらつき、私はヨシアの袖を掴んだ。瞼は鉛のように重い。
ヨシアは足を止め、私を見下ろした。彼は耳を傾け、私の微かな呟きを聞こうと腰を低くした。
私は、眠たそうな息を吐きながらこう言った。「レヴィ……レイチェルは今、寝る時間なの。レイチェルをお家に運んでくれる?」
彼が返事をするより早く、膝の力が完全に抜けてしまった。身体がもう起きていられなかったのだ。私は泥の道へと崩れ落ち、親指をしっかりと口に入れ、深い眠りへと落ちていった。
「おい、レイチェル!?」
彼が驚いて、私が寝たふりをしているのではないかと目の前で手を振るのを、うっすらと聞いた。私が完全に眠りについたことに気づくと、彼の表情は信じられないほど優しく、守るようなものに変わった。彼は私のぐったりとした身体を丁寧に抱き上げ、私の頭が胸にしっかりと落ち着くように抱き方を変えた。
村の北のルートを歩きながら、ヨシアはずっと高い警戒心を保っていた。彼はランプの明かりを絶えず確認し、闇に対して油断を見せなかった。ようやく家にたどり着くと、彼は私を待っていたおばあちゃんの腕へと優しく引き渡した。夕食も食べずに疲れ切っていた私は、引き渡しの間も目を覚まさなかった。
「世話をかけてすまないね、ヨシア」と、おばあちゃんが感謝と疲れの混じったため息をついた。
ヨシアの口調は完全に変わり、責任感のある男の厳しい空気を纏った。「いいえ、お母さん。この子は知恵と同じくらい、かけがえのない宝物です。どうか守ってやってください」
おばあちゃんの顔が誇らしげな笑顔で輝いた。「ヨシア、あんたは時々、エリア王様と全く同じことを言うねぇ。気をつけてお帰り、ほら、夜のために焼きたてのパンを持っていきな」
ヨシアは温かく礼を言い、パンをコートにしまうと、南門までの道を歩いて帰った。彼は guard room(詰め所)に入ると、上着を丁寧にしまい、食事を置き、南門の真上にある椅子に重そうに座った。そして、残りの暗い時間も静かに王国を守り続けた。
翌朝、暗い紺碧の空が割れ、明るい黄金の朝日が差し込んだ。ヨシアは椅子から起き上がり、こわばった肩を大きく伸ばすと、過酷な労働を始めようとする農夫たちがやってくるのと同時に外へ出た。
疲れ果て、背中を丸めた農夫たちを見て、ヨシアは力強い声で呼びかけた。「よう! 兄弟たち、朝早くからご苦労さん!」
農夫たちは足を止め、重い木製の鋤を地面に下ろし、不思議そうに顔を上げた。ヨシアは明るく微笑み、腕を広げた。「農夫のみんな、こっちへ来てくれ! すごい朗報があるんだ!」
興奮が群衆に走った。農夫たちは仕事を投げ出して guard station(詰め所)に押し寄せた。「なんだ、なんだ! 何があるんだ、ヨシア!」
ヨシアは自信満々にニカッと笑った。「水不足は解決できるぞ! みんな、農具を全部持って、シフラ湖の近くまで来い! 答えはそこにあるんだ!」
群衆は息を呑み、驚きと新たな希望に呟いた。先頭の農夫が前に出た。「誰の知恵だ、ヨシア!? 誰が作物を救う案を考えたんだ?」
ヨシアは首の後ろを掻きながら、心から誇らしげな笑顔を浮かべた。「えーっと……実は、小さなレイチェルの考えなんだ」
村人たちは全員、驚きで動けなくなった。小さな幼児が王国の最大の危機を解決した? そんな馬鹿な話があるものか!
しかし、希望に駆られたヨシアと農夫たちの群れは、指定された水路へと突き進んだ。彼らは重い鉄のつるはし、シャベル、バールを手に、私の計算が割り出した正確な地点を突き止めた。強烈な日差しの下、汗だくになりながら、彼らは地面を叩き、長い間自然の流れを塞いでいた重くて不透水な赤い岩を突き出し、取り除いていった。
最後の一つ、巨大な赤い石をヨシアが棒で叩くと、それは砕け散った。石を取り除いた瞬間、農夫たちは息を呑み、歓声を上げた。囚われていた澄んだ水が勢いよく噴き出し、土壌を潤し、枯れ果てていた水路を通って村へと流れていく。
私が朝の眠りから覚める前に、奇跡の噂は村中に火がついたように広がった。一時間もしないうちに、大勢の元気な村の女性や叔母さんたちが、声を響かせながら庭へと押し寄せてきた。
騒ぎを聞いて、おばあちゃんは玄関の外に出た。群衆を見て、何かが壊れたか、恐ろしいトラブルでも起こしたのかと心臓が飛び出るほど焦った。
「レイチェルはどこだい!」と女性たちが口々に叫ぶ。
恐怖に駆られたおばあちゃんは家の方を向き、必死に叫んだ。「レイチェル! レイチェル、早く出ておいで! あんたに会いに来たよ!」
家の中で、私は大きな欠伸をした。まだ「お昼寝モード」の私は、アホ毛が wild に跳ねたまま、フラフラと玄関の外に出た。 blinding な朝日に目を細め、眠そうにポーチ(ポケット)をこすった。
「なに……? なにがあったの?」
私が玄関に立った瞬間、叔母さんたちは一斉に甲高い悲鳴を上げた。
「ああ! レイチェルちゃんだ!」と女性たちは目を輝かせて喜んだ。「おいで、小さな天使ちゃん! あんたのために新鮮な果物を買ってきたのよ!」
私の目は驚きで見開かれた。えっ!? なにが起こってるの!? 私の天才脳は完全にショートし、突然の人の波を理解できなかった。
逃げ帰ろうとする隙もなく、叔母さんたちは私を取り囲んだ。彼女たちの手は、私の柔らかい頬を、まるで新鮮な餅のようにぷにぷにとつねった。「まあ、いい子ね! この村の天使だわ!」
数秒のうちに、彼女たちは果実で溢れかえった巨大な木製の籠を、私の小さな腕に無理やり押し付けた。私がお礼を言う暇も、状況を説明する暇もなく、彼女たちは笑顔で立ち去り、川のことについて興奮しながら話していた。
朝の騒ぎに圧倒され、疲れ果てた幼児の身体は限界だった。私は重い果実の籠を床に置き、ベッドへと這い戻り、朝寝を完遂するために再び深い眠りへと落ちた。
その頃、村の広場は深い静寂に包まれていた。村人たちは、ずっと枯れていた共同井戸を囲んでいた。やがて、水の音が響き、井戸の底が清らかな水で満たされ始めた。水位は着実に上昇し、渇き切った石を潤した。
その奇跡を目の当たりにした駐留していた王室の使者は息を呑んだ。その報せは彼らの耳に瞬く間に伝わり、彼らは雷のような大声で叫んだ。「あの小さなレイチェルは賢すぎる! 本当に解決したんだ! 水を救ったぞ!」
王室の使者の一人は、最速の馬に飛び乗り、猛スピードで王都へと走った。王座の間の扉を突き破り、使者は玉座の前に膝をつき、息を切らしながら村で目撃した一部始終を伝えた。
エリア王はその報告を聞くと、顔に深い誇りと温かい笑みを浮かべた。彼は敬意を込めて使者を見下ろした。
「ここまで報せに来てくれて感謝する」と、王は声を震わせながら優しく言った。
そして、エリア王は金色の玉座からゆっくりと降りた。唖然とする廷臣たちの前で、強大な君主は謙虚に膝をつき、頭を下げて両手を合わせた。彼は天を仰ぎ、感謝の祈りを捧げた。
「主よ、感謝いたします。レイチェルを導き、民を救う知恵を与えてくださったことに。アーメン。」
「あとがき
いつも私のページを訪れてくださり、小説を読んでくださって本当にありがとうございます!
皆さんの期待に応えられるよう、これからも精一杯頑張ります!」




