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限界突破のエリクシール  作者: 鈴木君
憤怒の塔と世界の秘密

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20/31

マリリン・ヒルデガード


 明るくなったドーム状の部屋は憤怒電光竜(ネオンライトラースドラゴン)が飛び回っても余裕があるほど広かった。その中心には扉が現れ、ノブが蛍光ピンクでそれ以外は黒。憤怒竜(ラースドラゴン)をモチーフにした地上への帰還ゲートだ。


「これをくぐれば地上に出れる」

「………………はい」


 口先まで出かけている言葉を発する事ができないドーラは、うつむいた。


 その気持ちは感謝。


(もう出ることは叶わないと思っていました)


 共に戦った3人の冒険者はドーラを残し散っていった。絶望したドーラはボスに挑むことをやめ、2人の冒険者は1人で挑み帰らなかった。


 充電がなくなる直前まで挑もうとすら考えられない、そんな日々。そしてもう戦わなければ充電が持たない、そんな時にその男はやってきた。


 今までやってきた中で最弱の冒険者。そして最高の冒険者だった。


「進夢」

「ん?」


 立ち止まり名前を呼ばれた進夢は聞き返す。


 ドーラは深く頭を下げ、微笑んだ。すると自然に口が気持ちを紡いでいく。


「ありがとうございます、進夢のおかげでここから出られます。この恩は生涯忘れません。貴方が窮するとき、私は何を置いても貴方の一助となる為に尽力することを誓います」


 覚悟して礼を言ったドーラだったが、面と向かって言われた進夢はどうにも気恥ずかしいという顔で、視線が彷徨っている。だが決まってこんなときは考えるのだ。格好いい冒険者ならどう答えるのだろうなと。そう持ち直すと、次いで思い直す。自分の言葉で伝えないと失礼だと。


───そして。


「お俺もドーラが居なかったら死んでたよ、だからおあいこだな。もしドーラが困ってたら、何をしてでも絶対に助ける。俺はそれを誓う」


 進夢も微笑みうなずいた。


「なんか私のパクりっぽいですね。そこはドーラ様に隷属させていただきます。とかのほうがいいんじゃないですか?」


 しかし1度気持ちを吐き出したドーラは通常の毒舌モードに戻っていた。


「お前……まあそっちのほうがドーラっぽいけどな。さ、行こうぜ」


 呆れ顔からの即行動。進夢は進夢で顔が赤くなっているのを隠そうと、ドーラに背を向けて扉を開ける。


 だがそれはドーラに筒抜けだった。


「ふふ。はい」


 こうして【憤怒の塔】が攻略された。



 ダンジョンが生まれてから30年。ダンジョン産の食べ物や魔石、鉱石などが取れるようになると、人、物の出入りが盛んになりダンジョンのある土地は栄えた。


 しかし、それは()()のあるダンジョンの話し。推奨LEVELが低い割に実入りがいい、LEVEL上げに丁度いいなどの条件が揃ったダンジョンでなければそうはならない。


 高LEVELを要求し、ボスを倒す以外に副産物もなく、近くに他のダンジョンがないような【憤怒の塔】付近はとても栄えているとは言い難い所だった。


「出られたな」

「凄いです、これが地上ですか」


 進夢、ドーラの両人は【憤怒の塔】入り口までワープしてきた。背後には雲を突き抜ける石の塔。前方にはドロップ品を扱う店が数点、しかし不気味なほど閑散としていた。


「とりあえずここから離れるぞ」

(誰もいない。ラッキーだな)

「?はい」


 人が居なくてもドーラにとっては全てが目新しい。地上を噛み締めたいという思いを残しつつも、進夢へついていく。


 憂慮すべきは【憤怒の塔】の休息時間だった。ダンジョンは攻略されるとしばらくの間、休息で進入できなくなるが、休息が終われば魔物(モンスター)や環境が復活し再度挑戦することができるようになる。


 因みにボスを倒した時、攻略パーティー以外の冒険者がいると、外へ強制的にワープさせられる。


【憤怒の塔】へ進入ができない。ワープで帰還してくる。つまりダンジョンを攻略した人間だと特定できる。進夢はそれを憂慮した。ワープしてきたのは進夢とドーラだけなのだから。

 

「ここまでくれば安心だな」


 そこまで離れてはいないが、店舗がある付近までやってきた。しかしドーラには何の話しをしているのかさっぱりだ。


「何がですか?」


 感情のない瞳が進夢を見つめている。


「あそこにいたら攻略したってバレる」


 進夢もドーラに習い、視線で場所を伝える。


「そういうことですか。だから挙動不審だったんですね」


 ドーラの視線は【憤怒の塔】。巨大で荘厳な扉が固く閉じていた。


「一言多いぞ。さて、どうやって帰るかな。フリフォも壊れてるし誰かに電話借りるしかないか」


 電話もなければ財布ない。着の身着のままの進夢に自宅まで帰る手段はない。辺りを見回す進夢だが、全くもって人の気配が微塵も感じられない。


「…………人がいない」


 【憤怒の塔】はダンジョンとしては不人気だ。しかしその巨大な塔を一目見ようと物見遊山でくる人間もいるはずだった。人気のない神社のような不気味さを進夢は感じていた。


「人がいないのがどうかしたんですか?」

「本来なら10人、20人くらいは居ると思うんだよな、いくらなんでも」


 不思議だな。進夢がそう警戒していると、先ほどまではいなかった道の真ん中に人が現れた。訝しげに視線を向けた進夢はその人から目を離せなくなった。


(……うそだろ?)


 その人間は真っ白い髪をした女性で、頭の上から半円型の耳が生えている獣人だった。と言っても特長は耳としっぽくらいのもので後は人と変わらないネズミの獣人。白いミニスカートに黒いシャツを着ており、腰まで伸びた白い髪が黒と相まってよく目立つ。


 瞳は紅玉(ルビー)、肌は血管が透き通るほど白く、毛は睫毛まで白い。アルビノの症状と似た姿をしていた。


 身長は180越える進夢に迫る。整った眉目は美しく、足は長く細い美脚。しかしどこか儚く薄弱な印象を受ける女性だった。


「……マリリン・ヒルデガードだ」

「知り合いではなさそうですね」


 進夢の唖然とした表情を見てそう判断した。それにどこから見ても一般人とは一線を画す雰囲気が女性から出ていた。


 2人でこそこそと話していると、マリリンが溜息をついた。


「今日は非番だったのですが。マリ、憂鬱であります」


 誰もいない閑散とした広場では声が響く。マリリンの一人言は2人にも聞こえた。


「うわあ! あのしゃべり方やっぱりマリリンだ!」


 大興奮の進夢だがボリュームは落として話している。


「キャラが濃いですね」


 思ったことをそのまま口にしたドーラに進夢はジト目をプレゼントした。


「お前には言われたくないだろうよ」

「で、誰なんですか?」

「マリはマリですよ?」


 2人で話していたはず。そしてマリリンは先ほどまで道の真ん中に立っていたはずだった。


「「なっ!?」」


 飛び退く2人。


「初めまして。自衛隊特殊作戦軍所属マリリン・ヒルデガードであります。能化(のうか) 進夢(すすむ)君とそっちのメイド君。スパイ防止法に基づき連行します」


 告げられる言われなき罪。


「………スパイですか?」


 驚きながらも何か掴まれていることを悟った進夢。


「であります」


 マリリンは素直そうな反応に話しが早そうだとうなずいた。しかし2人は憤怒電光竜(ネオンライトラースドラゴン)の恐怖に打ち勝った胆力を持っている。それは憤怒竜と戦うことで更に磨きがかかっている。


「俺達は何もしてないですよ?」

(やったのは不死原(ふしはら)です)


「よくある間違いですね。進夢、行きましょうか」

「ん? ああそうだな」

 

 マリリンに頭を下げてドーラに手を引かれる。進夢はマリリンが見えなくなっても視線の限界まで端を見ている。こんなことで見逃されるはずがないのだから。


(というかこの人の少なさは人払いか? 見逃すどころか、下手したら殺そうとしてる? ………だとしたら絶望的だぞ)


 進夢はマリリン・ヒルデガードを見て喜んだ。進夢が人をみてはしゃぐということは、その人は冒険者(ハンター)かランカー。そして途轍もない実力を有しているということだ。


「進夢、彼女強いんですか?」


 知っているんだろ、という目線を受けた進夢は空笑い。


「強いよ。なんせLEVEL7(レベルセブン)、世界ランク2位の化物なんだから」


 そう口にしたのだった。

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