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防犯ことはじめ2

「カロートとラデュから来てる人が半分以上いますねぇ。バルダーヌからも3人……遠いのにご苦労様です」


 同じ街道沿いにあるカロートとラデュは隣町だ。

 カロートのほうが王都に近く、若干栄えている。

 ラデュは栄えているわけではないが住人が多い。

 よく嫌がらせの手紙を送ってくるのはこのふたつの町だ。

 どちらも最近栄え始めたパネに危機感を抱いているらしい。

 なおカロートとラデュも仲がよろしくない。元々パネはこのふたつの町の緩衝材だったはずだけど、今は共通の敵になっている。


「なるほど、カロートとラデュで捕まった犯罪者が、パネで悪事を行うことを条件に解放されて、こちらに来たと」


 牢の中で捕まっている人たちが私を前にして怯えている。

 主犯らしき何人かは鑑定阻害の魔法をかけられているのだけれど、そんなもの私には意味がない。

 向こうの町のギルドも取引を全く知らないと言うことはないだろう。

 黙認か協力か……確かうちと違って地元採用職員ばかりだったと思うので一度本部から監査を入れよう。


「今までみたいな軽い嫌がらせ程度なら見逃してあげたんですけど」


 使える権力は使っておきましょう。

 どの町でも冒険者ギルド長は町長に次ぐ発言権があるので、腐っていたなら切って変えれば今後の防止策になる。


「ギルド長、いえビルグリムさん。あなたの上司である人事部門長宛にカロート支部、ラデュ支部への監査依頼をお願いします。私の名前は出して構いません」


 同席していたギルド長に部門長として指示を出すと、それを待ちかねていたように彼は笑って頷いた。

 どうやら彼も隣町からの度を越えた行為を腹に据えかねていたらしい。


「さて……バルダーヌからの人は全員栄養状態が悪いですね。それもここ最近ではなくそれなりに長い期間の栄養失調です。村になにかがあって食い詰めて、打開のためにどこかを目指して、この辺りで路銀が尽きて、悪い人に目を付けられて、片棒を担がされた、というところですか」


 バルダーヌは街道から外れ、少し遠方にある村だ。ラデュのほうが近いはずなので、ここまで来たということはカロートを目指していたのかしら。

 牢の中で信じられないものを見るような目で私を見ているひとりに声をかける。


「害獣ですか? 不作ですか?」


「う、ウィングベア、です」


「……それは大変でしたね」


 ウィングベアは住処にしている山間部から物凄い速さで滑空しながら人里に現れて作物を荒らす大型の野生動物だ。

 獰猛だし冒険者もいない小さな村なら追い出すこともできなかったのだろう。

 周辺地域にはいない生物であるはずだけど、野生動物なのでどこからか移動してきたのかもしれない。


「パネからバルダーヌへ災害指定で冒険者を派遣します。罪を犯したあなた方を解放するわけにはいきませんが、家族や友人は必ず助けますので、きちんと罪を償ってください」


 極限状態で騙されたのだからそこまで重い罪にはならないだろう。

 残りの自然発生した天然の犯罪者とふたつの町から送られてきた犯罪者たちは神殿できっちり裁いてもらいましょう。


 それにしてもしっかり意識して鑑定を沢山したせいなのか情報量の波で脳に疲労感がある。

 やっぱり窓口で鑑定員やっているほうが楽ね。

 部門長モードも終わり終わり。


 疲れてるから、牢の中から聞こえてくる「バケモノ」なんて囁きも聞き逃してあげよう。

 暴言の主たちの家族の名前を全部口に出して釘を刺す元気も今はないんだから。



「これで全てが終わったわけではないですが、波は乗り切ったと見て問題ないでしょう。被害報告も激減しています」


 定例会議で受付嬢がギルド長に報告を入れている。

 どうやらここ最近の盗難被害件数が落ち着いてきたらしい。

 先日ふたつの町の冒険者ギルドに査察が入ったばかりだけど、隠蔽されることなくボロボロと証拠が出てきたのだろうか。


「バルダーヌへの食糧支援ですが、概ね村民の栄養状態は改善されたとのことです。ただ畑への被害は甚大なため支援は引き続き行います」


 別の職員からバルダーヌの現状も知らされる。

 捕まっていたあの3人も神殿での奉公という軽い刑罰がそろそろ終わるのでバルダーヌへ帰れるだろう。


「みんな、ここしばらくの激務を乗り切ってくれてありがとう。警戒は引き続き続けるし、町そのものの防犯については今後も町長と協議していくが、非常事態体制は一旦本日をもって終了とする。明日は一斉休業日とし、それ以降は調整しながら順次代休を消化していってくれ」


 出席している職員たちから歓声があがる。

 私だけではなくみんな休日返上して対応にあたっていたので嬉しいのだろう。


 とはいえ、今回の件で近隣の町から異常に逆恨みされていることが判明したし、本来この地域にはいない筈の野生動物がバルダーヌ付近に現れたということで町の周辺の生態系にも変化があったかもしれない。

 上層部はまだ考えないといけないことが山積みだ。

 私はヒラ職員です、という顔をしておくつもりだけど、どこかで必ず駆り出されると思うので、休みの予定は潰されないうちに入れておこう。

パネ(panais)

カロート(carotte)

ラディ(radis)

バルダーヌ(bardane)

全部根菜

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完結済み連載作です。
ゲームで育てた不人気作物パースニップでみんなを元気にしてあげる
VRMMOで成人女性が農業したり育てたマンドラゴラに振り回される話です。

尻軽女が暴力系ヒロインに転生したので、暴力を封印してみた
不幸だけど折れない女の子の心を折る内容です。ほのぼのしません。
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