プリヴェはいつも安定したい3
テーブルを挟み、私とプリヴェさんはセンコさんマルゼンさんと対峙している。
調停人として上級神官のマルゴットと下級神官の人も同席している。
また状況が飲み込めていないのか、ふたりはキョロキョロしている。
公正の女神様の神殿に呼び出されたのだから用件は察してほしかったけれど。
「今回の調停を始める前に、申し出の内容に誤りがないか確認いたします」
「お願いします」
「今回依頼人であるセンコとマルゼンは、契約期間中にも拘らず、請負人であるプリヴェに男女交際を迫った。間違いありませんか?」
「ま、間違いありません」
緊張した様子で答えたプリヴェさんを見て、ようやくふたりは呼び出された用件を察したらしい。
「プリヴェちゃんどういうこと?」
「こんな個人的な話に調停だなんて」
「依頼人両名、この場では確認内容に誤りがあるかどうかだけお答えください。誤りがあるのであれば後ほど訂正をお願いします」
マルゴットから厳しい声が飛ぶ。
なお現在この部屋には非戦闘職ばかりが集まっているため、立場も戦闘力もマルゴットが一番強い。
「間違ってはないな?」
「まあそう言われればその通りだけど」
「では誤りはないとの認識で進めます」
隣に座るプリヴェさんが小さくほっと息を吐く。
ふたりが怖いというわけではないけれど、認められなかったらと不安だったのだろう。
「冒険者ギルドを通した契約に関して、契約期間中に依頼者が請負人に、または請負人が依頼者に、個人的な関係を迫ることは重大なルール違反である、という認識はありますか?」
「いや、俺たちはそんな関係じゃなくて」
「仲間だからそんな契約とか関係ないですよ」
おや、認識違い。
今回の場合、私を代理とする冒険者ギルド及び町の代表者が依頼人。彼らはそれの請負人であり、更にプリヴェさんと契約する依頼人である。
契約終了後、ギルドを通さずチームを組んだならその言い分は通るけれど、作成中のダンジョンが完成するか頓挫するまでは契約期間だ。
「実態はどうあれ、契約書を交わしているため、現在は依頼人と請負人の関係です」
「だけど仲良くやってきたと思ってたのに」
これはだめだな。わかってない。
「マルゴット様、発言を」
「許します」
「マルゼンさん、センコさん。あなた方の自覚はなくとも、仕事を盾に関係を迫ったと言われても仕方のない行動なんですよ。あなた方が全く気のない年上の依頼人から関係を迫られて、仲が良いと思っていたとか仲間だからとか言われて、素直に受け入れられますか?」
「だけど全く気がないなんてことはないでしょう」
「プリヴェさんにはないですよ。おふたりからの告白を断る気しかありません。依頼人瑕疵による契約解除をお勧めしましたが、今後もダンジョンの仕事を続けたいとのことでしたので今回は調停の場を設けさせていただきました」
おお視線が痛い。
モテない女が男女間の話に口出ししてくる、みたいな顔をしている。
それを口に出さないだけの良識はあるようだが。
「おふたりが依頼人になるのは初めてですし、契約書に書いてあったとしても読み飛ばしている可能性もあったため、今回の件でペナルティをつけるつもりは冒険者ギルドとしてもありません。ただ今回の注意を受けてなお改善されないようであれば、再度調停の場を設け、次回は罰則も含めて話し合いをしたいと思います」
「なあプリヴェちゃん、アデリーさんが言ったように本当に全く気がないの?」
「そんなことないよな? あんなに笑いかけてくれたのに」
「……ないです。あくまで仕事の相手で、笑いかけたとかそんなのは誰にでも普通にすることじゃないですか。私はどちらともお付き合いするつもりはありません!」
ばっさり振られたね。
わかりやすくショックを受けてるなあ。
どちらかは選んでくれると本気で思ってたのか。
「アデリーさんは、俺たちの味方じゃないんですか?」
こちらに向く視線を振り払うように首を横に振る。
モテない人間の気持ちならわかるだろうと言うのかしら?
いやそんな意味はないかもしれないが。
「冒険者ギルドは助けを求めた人の味方です。マルゼンさんもセンコさんもパネにやってきたとき、自分を役立たずだと思い込んで自暴自棄で、ギルドが進んで助けなければいけない人でした。今回はスキルが使えなくなったと冒険者ギルドを頼ってきてくれたプリヴェさんの味方です」
「えっ」
「初耳でしたか? プリヴェさんのスキルレベルが上がり、使用条件に精神の安定が求められるようになりました。しかしおふたりからの告白により、現在スキルが使えない状態です。どういうことかわかりますよね?」
「そんな……」
精神的に追い詰められながら、ふたりから離れることを選ばずに、公共事業であるダンジョン計画へ協力を続けたいプリヴェさんを私は尊重したい。
勿論マルゼンさんやセンコさんがまたなにか困ったりしてギルドに助けを求めたなら、それを助けたいとも思っている。
「さてここまでを踏まえて、依頼人である両名はどうされます?」
よかったのかしらね、あれで。
とりあえず調停はまとまり、今後は個人的な関係を求めず仕事相手として接するということで終着した。
ただ話し合いはそうなっただけで、彼らの恋心が消えたわけではない。もうきっぱりはっきり振られたけれど、それでももしかしたらと思ってしまうものだ。
個人的なやりとりはダンジョン計画が終わった後ならば関与しないとは言ってあるので、そこまで我慢してくれることを祈ろう。
もしふたりがゴネるなら一旦中断して、ふたりと同じスキルを持つ人を探してくればいいと思ってたけれど、すぐにそれをする必要はなくなったので、しばらくは様子見だ。
そういえばプリヴェさんがふたりをばっさり振った瞬間に、安定化のロックが外れ、ついでのように後天スキルが発生してたのは面白かった。
流石に後天スキル発生の瞬間に居合わせるのは私も初めてだし。
まだプリヴェさんは気付いてないから、明日か明後日か気付いたときにまた相談にくるだろう。
新しいスキルは「自動化」だって。
レベルが上がって使いこなすようになったら、ダンジョン計画の主軸はあのふたりではなくてプリヴェさんになるかもしれないわね。




