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想像通りの行動をしてくれるリィアデルに、僕は楽しくてしょうがない。彼女、魔法の適正が高いのだから無理矢理にでも逃げればいいのに。そうせずに、手順を踏んで婚約破棄しようとする健気さがどうしようもなく愛おしい。


あぁ、早く戻ってこないかな。



 僕は前世と言うものがあることを、生まれた時から自覚していた。乳母や父母から見れば、僕はとても異様な存在であったことは間違いない。泣きもせず食い入るように人間観察をしている幼児など、本来であれば気色悪がられる。僕にとってはそれも仕方ない事で、まずは言葉を覚える必要があった。その為には多少気色悪がられても気にならなかったのだ。時が経って、言葉も理解できるようになれば前世の記憶はとても役に立った。それにこの体は、前世で言う所のハイスペックとかいうやつでいくら動こうが、運動しようが疲れることはないし、魔力だって底なしとまではいかないもののその魔力量がバレた時を恐れるぐらいには持っていた。出る杭は打たれる、そんな言葉を思い出し、出来過ぎたところはほどほどに力を抜いて優秀な第一王子としての地位を確立していく。

 これも全ては、彼女のため。

 転生した異世界で、彼女に出会える確率なんて低いかもしれないが、僕は運が良いからね。“必ず”この世界にいるはず。


 ほとんどの足場が固まった僕の祝いの席で、僕は念願の“彼女”を見つけた。 ほらやっぱり。

 僕を見て何を感じたのか青ざめて人混みに紛れてしまったが、僕が君を間違えるはずないじゃないか。


ーーー美雨。


「やっと見つけたよ。僕の念願の恋しい人」


 周りにいた令嬢は、きゃぁ! と色めきだってワクワクとしているようだ。

 足場固めもここまでたどり着くのには本当に苦労した。この国の令嬢に僕の妃になろうと考える奴は一人としていない。


「あら、本当ですの? では早く準備をしなくては!」


「サウィル様が、長年思われていた方ですもの! 最高のウエディングにして差し上げなければ!」


 彼女達は僕の想い(のろけ)をいつも聞かされていたからか、思考が僕と近い。


「うん。頼むよ。きっと彼女は恥ずかしがって逃げてしまうからね」


「「「捕まえれば良いのですね!! 必ずやサウィル様の元に差し出しますわ!!」」」


 彼女はいつ、逃げられないと気付くだろう。

 生まれた時から、囲うことだけに意識を傾けて賢い王子として演じて来た僕にいつになったら身を委ねてくれるだろう。


 なんども逃げ出そうとする彼女と遊びながら、婚約発表をした後は閨で起きられなくなる程度に愛している。

 彼女はこのまま隙を見て逃げられると思っているのかな?

 この国の貴族達は、僕の執着を嫌という程知っているというのに。みんな、生贄として彼女を捧げることは予想がついても、匿う物好きはいるはずもないし。

 今世は、殺してもあげない。


「逃さない」


 疲れ切って眠る彼女に暗示でもかけるように囁いた。





 賢王と知られるサウィル・フォン・ファグラスは、後世で最も愛妻家だったと伝えられている。国民達もそれを微笑ましく、時にはなまぬるぅーく見守ったと言う。

 しかし、実態が前世から拗らせたひん曲がった愛情と偏愛にまみれた当事者としてみれば迷惑この上ない重たい愛情だったことは誰にも知られていない。




目が覚めた朝。


「だからどうしてこうなったし。絶対逃げてやる! あんのぉ変態!!」


ベッドの上で逃亡を心に誓う妃の姿は、闇に葬られているのである。




これにて完結となります。

ありがとうございました!

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