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<書記くんの事情。>2

本日二話更新しております。



 ――そう。




 あの日も……姫と初めて会った日も、いつもと変わらない「自分」を「無意識」に演じていた。

 当たり前のように、周囲もそれを受け入れていた。

 なのに、彼女だけ……彼女だけは違っていたのだ。


 元々、尊敬する会長が興味を持っている事を知って、好奇心から近付いた。あの議長でさえも夢中になっていると知り、純粋に興味を持った。

 三人で話しているところに加わるのはどうしても勇気がいるので、たまたま姫が一人になった時を見計らって声を掛けてみた。


「こんにちは、来栖さん」

 眼を細めてふんわりと笑った圭に、姫は少し驚いた後、蕾が綻ぶような素敵な笑顔を向けてくれた。

「こんにちは! えっと、金森くん……だよね?」

 当たり前に名前を呼び返してくる姫に、警戒心が脳裏を過ぎる。

 会長や議長が心を許しているからといって、全面的に信頼はしちゃダメなんだろうな……と。

 そんなことを考えていた圭に気付く事もなく、姫は軽やかに傍に駆け寄るとぎゅっと圭の右手を握った。「私は来栖 姫冠! よかったら姫って呼んでね」

「え、あ……」

 いきなり詰められたパーソナルスペースに思わず及び腰になると、そんな圭に臆することなく姫はにっこりと笑った。

「でもね、私の事知ってたならちゃんと”先輩”ってつけてくれなきゃ。私の方が年上だよ、ね?」

「あ……」


 当たり前のことを、突きつけられた。

 圭は、圭に注意をしてくる人間を知らなかった。会長を含め生徒会のメンバーや身内以外。誰しも圭に話しかけられれば嬉しそうに舞い上がり、そして圭も相手が喜ぶような態度に努めていた。

 それは作り上げられた「金森 圭」であり、自分でも無意識に演じているもう一人の自分。

 その上に胡坐をかいていた自分……誰しも否定的な意見を持たない自分という存在……に、違和感の端緒をつかんだ気がした。


「金森くん! 何してるの?」


 ふと後ろから掛けられた声に、崩れかかっていた表情が綺麗に塗り替わる。斜め後ろに顔を向ければ、同じクラスの女子生徒達が数人こちらに向かってきていた。

「うん、来栖先輩とお話をしていたんだ。皆は、どうしたの?」

 ふんわりと笑いながら問いかけると、女子生徒達は顔を赤くさせながら女子特有の高い声で各々がしゃべりだす。

「皆で放課後遊びに行こうって話してたの! ねぇねぇ、金森くんも一緒にいかない? お父様がお会いしたいって言ってたわ」

 ……お父様……。

 脳裏に浮かぶ、彼女の背景。確か、取引のある会社の令嬢だったはず。

あぁ、僕は。僕は……


 一瞬にして、再び「金森 圭」を被った圭の腕を、隣にいた姫がぎゅっと掴んだ。

「あ、え?」

「ごめんね! 私、圭くんとお話があるの!」

 姫はそう言い放つと有無を言わさず、圭を彼女達から遠ざける様にぱたぱたと走り出した。驚きつつも引っ張られるままついていけば、少し走った先の校舎裏でその足は止まった。

「来栖先輩?」


 いったい何が起きたのか分からないまま姫を見下ろしていたら、両手を握られて思わず肩が震える。初対面だというのにあまりにも近い距離は、圭に警戒心を持たせることさえ忘れさせるものだった。


「圭くん、笑いたくなければ笑わなくていいんだよ。他人にばかり気を遣って、自分をないがしろにしちゃダメ。どんな圭くんも、大切な圭くんなんだから!」



「え……?」



そんな事を言われたのは初めてで。しかも、ほぼ初対面。

自分でも分からなかった違和感に気付いてくれた姫の存在は、……気付かせてくれた彼女の存在は圭の中で一気に膨れ上がった。

 姫は怒った表情を一変させてふわりと笑うと、もう一度握った手に力を込めた。




「圭くんが思ってる事を、そのまま聞かせて? いつでも私は圭くんの味方だよ?」




 その言葉は、圭の心に大切に刻まれている。 




*************************************************************




「ん……、まぁこんなもんかな」


 朝一捕まえた金森と楽しいひと時を過ごした後、来栖はと言えばその足で特別教室棟の階段横の部屋へと向かった。

既に冷たさも感じられる秋の空気を震わせて、来栖は椅子を引き出して腰を下ろす。その手にはスマートフォンを持ちながら。


「もう圭くんの好感度はカンストしてるから、これ以上かまわなくてもいいんだけどなー。どっちかといえば、未攻略の3人をどうにかしたいとこだけど……」

開いているアプリは、来栖と皆川だけ……厳密にいえば裏に控える調査チームやトップである上司も含む……が使用しているもの。詳細な報告は書面で皆川経由で提出しているけれど、普段のメモ代わりに好感度や起こしたイベントなどを自分で入力する為のアプリ。勿論自動入力されるわけはなく、手動でパーセンテージを変更させていくというアナログなものだけれど。

来栖はこの学園に来てから、せっせとアプリを参考に好感度を上げてきた。まぁ、現実世界なわけで思っていたよりもパーセンテージが違うように感じたこともあったけど、リアルゲームの様で入力することさえも楽しい。


 ずらりと並ぶデフォルメされた攻略対象者キャラアイコンの中の金森 圭をタップすれば、好感度100%が表示されている。

 そこに公にされているパーソナルデータが入力されており、来栖はその設定(リアルには背景)に基づいて攻略の仕方を練っていた。そして自分が気づいたキーポイントなどを事細かに入力することで、その情報は攻略者のプライベートの表情を露わにしていた。

 ……その手の情報を欲しがるものにとっては、最高の宝物だろう。


 けれど来栖にはそんなこと関係ない。自分が攻略者たちの中心にいればいいのだ。それだけが彼女の目的なのだから。


「圭くんもなぁ、可愛いんだけど可愛いだけなんだよねぇ。刺激がないというかなんというか」

 ぶつぶつと呟きながら、「戻る」をタップして攻略者の一覧へと戻る。そこで目についたのは、議長のアイコン。


「ふふ、お昼は御津先輩の好感度上げちゃおうかなっ」


 そうなったら、残りの二人はどう反応するんだろう……そんな意地の悪い想像を巡らせながら、来栖はアプリを閉じた。

それでは皆さま、またお会いする日まで♪( ´▽`)

お読みくださりありがとうございました。

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