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第二章 王立魔導学園編 7

扉の向こうは、静寂だった。


巨大な円形ホール

天井は遥か高く、魔力光が星のように瞬いている。

床には複雑な魔法陣が刻まれ、学園全体の中枢であることが一目で分かった。


学園長は足を止める。


「ここが、あなたの当面の居場所です」


レインはゆっくり周囲を見回した。


  広い


静かすぎるほどに。


  そして――冷たい。


居心地が悪いわけではない。

ただ

“自分がここにいる理由”が、どこにも見当たらない。

セレナが小さく息を呑む。


「ここで……?」


リアが周囲を見て眉をひそめる。


「監獄みてぇだな」


黒ローブの教師が即座に否定する。


「研究区画だ」


ミシェルが静かに呟く。


「どちらにせよ、観察対象だがな」


その言葉に、レインは特に反応しなかった。

反応できなかった。

自分が“何か”として扱われていることは、もう理解している。


その時

学園長が手を上げる。

空間に複数の魔法陣が展開される。


「これより三つの処置を行います」


淡々とした声。


「第一に、侵食抑制封印」


「第二に、魔力制御訓練の強制導入」


「第三に――」


そこで一瞬だけ、間が空いた。

そして続ける。


「記憶干渉領域の解析」


レインの視線が鋭くなる。


「……記憶?」


学園長は答えない。

だが

その沈黙が答えだった。

セレナが反応する。


「記憶って……戻せるんですか?」


学園長はゆっくり首を振る。


「戻るとは限りません」


「むしろ」


少しだけ視線を落とす。


「“戻してはいけないもの”もあります」


空気が重くなる。

レインの胸が僅かに痛んだ。

戻してはいけないもの。

その言葉が、妙に引っかかる。

まるで

自分の中に、触れてはいけない何かがあるような。


その時

フィアナが小さく手を挙げた。


「えっと……」


全員の視線が集まる。

彼女は少し緊張しながらも、真っ直ぐレインを見る。


「レイン先輩って、やっぱり危ない人なんですか?」


ストレートだった。

リアが頭を抱える。


「お前ほんと空気読まねぇな」


だがフィアナは真剣だった。

レインは少し考える。


  危ない。

  それは事実だろう。

  実際、深淵門を閉じた。

  力は制御できていない。


  そして――記憶もない。


だから。

否定はできない。

レインは静かに答えた。


「……たぶん、そうだ」


その一言に、セレナの肩が震えた。

でも

フィアナは少しだけ眉を下げて。

そして、ぽつりと言った。


「でも」


「怖い感じ、しないです」


一瞬

空気が止まる。

レインが彼女を見る。

フィアナは困ったように笑った。


「さっきも、今も」


「危ないって言われても、なんか……」


言葉を探して。


「一人にしたらダメな感じ、です」


その瞬間

レインの胸の奥で、何かが強く軋んだ。


  “置いていかれる感覚”。


知らないはずなのに、知っている痛み。

視界が揺れる。

灰炎が一瞬だけ漏れる。


「っ……」


セレナがすぐに駆け寄る。


「レイン!」


学園長が即座に結界を展開する。

だがその時

レインの耳の奥で、はっきりと“声”がした。


  『――また一人にするの?』


知らない少女の声。

涙混じりの声。

世界が一瞬だけ、遠のいた。


そして

次に戻ったとき

レインは無意識に呟いていた。


「……誰だ」


その言葉は

ホールの静寂に、重く落ちた。

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