第7話 夜の射撃場
訓練が始まって二週間が経った頃、アラタは初めてアームキャノンを撃った。
射撃訓練室は訓練施設の最下層にあった。防音と防弾を兼ねた壁に囲まれた空間で、標的が二十メートル先に並んでいた。金属製の人型標的。神徒連盟の戦士を模した形をしていた。
教官が説明した。
「アームキャノンは通常弾と高出力エネルギー弾の二種類を切り替えられる。通常弾は連射が可能だが、連射すると熱量が上昇してオーバーヒートのリスクがある。高出力弾は一発の威力が高いが、チャージに時間がかかる。使い分けが重要だ」
アラタは標的を見た。人型だった。人の形をした標的に向けて撃つということを、少し考えた。考えて、考えるのをやめた。今は訓練だ。
引き金を引いた。
エネルギー弾が走った。標的の胸部に命中した。金属が焦げた匂いがした。
「いい命中率だ」と教官が言った。
「ただし、動く標的はどうだ」
標的が動き始めた。左右に、不規則に動く。アラタはHUDの解析機能を使って動きを予測し、弾を撃った。三発のうち二発が命中した。
「悪くない。ただし神徒連盟の戦士の動きはこれより速い。翼があれば三次元に動くからな。上下も考えろ」
その日の夜、アラタは訓練後の自由時間に一人で射撃訓練室に残った。
教官に許可を取って、一人で撃ち続けた。動く標的。速度を上げた標的。複数の標的が同時に動く設定。
二時間撃ち続けた。
手首が熱を持っていた。肩が張っていた。それでも止めなかった。
なぜそこまでやるのか、自分でも正確にはわからなかった。訓練の進度に不満があるわけではなかった。ただ、止まっていると考えてしまうからだと思った。
ユイのことを。颯太のことを。
動いていれば考えない。撃っていれば考えない。それだけのことだった。
三週間目に入ると、訓練に新しい要素が加わった。
自律支援攻撃ユニットの操作だ。
小型の浮遊ドローンが四基。AI制御で動くが、優先目標の設定や動作モードの切り替えは装着者が行う。HUDを通じて操作する。
最初は一基だけ動かした。ドローンが浮遊し、指定した目標に向かってレーザーを発射する。シンプルだった。しかし四基を同時に動かしながら、自分自身も戦闘行動を取るのは別の話だった。
注意が分散する。ドローンの動きを追いながら、自分の体を動かし、標的を狙う。情報量が増える。
アラタは目を閉じた。
情報を階層化する。ドローンの位置情報は視界の端に置く。意識の中心には自分の動きと標的だけを残す。ドローンはAIに任せて、大きな方向指示だけを出す。
開いた。
撃った。
命中率が上がった。
「そうだ」と教官が言った。
「全部を自分でやろうとするな。AIに任せるところは任せる。それがECSの使い方だ」
その夜、アラタは自分の部屋で端末を開いた。
ユイに連絡しようとして、やめた。
メッセージを打った。消した。また打った。また消した。
何を言えばいいのかわからなかった。会いたい、とは言えなかった。来い、とも言えなかった。お前の選んだことは間違いだ、とも言えなかった。言えることが何もなかった。
端末を閉じた。
天井を見た。
ユイは今頃、長野の山の中にいるはずだった。祈っているのか。訓練しているのか。どんな顔をしているのか。颯太のことを、毎日思い出しているのか。
わからなかった。
わからないことは保留にする。それがアラタのやり方だった。でも保留にしたはずのことが、夜になると戻ってきた。
アラタは目を閉じた。明日また五時に起きる。それだけを考えた。
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