第40話 地図
G2の十一月が始まった。
ユイは田代の部隊とともに、群馬の前線区域を南に移動していた。神徒連盟の支配域が少し南に広がりつつあった。それに合わせた前線の再編だった。
新しい拠点は山の中腹にある廃屋を改装したものだった。五人が寝るには狭かったが十分に使えた。窓から南の山が見えた。澄んだ十一月の空気の中に、遠くの稜線がくっきりと見えた。
田代は拠点に着いた翌日、地図を広げた。
「この辺りの地形を頭に入れておけ。どこが開けていて、どこが狭いか。空から見た時の目印になるものを確認しておけ」
ユイは地図を見た。等高線が密だった。複雑な地形だった。
「一つ聞いていいですか」
「何だ」
「空から見る時と、地図で見る時で感覚が違います。地図だと平面なので実際の高さのイメージが合わなくて」
田代は少し考えてから言った。「そうだな、翼を出して上空から確認してこい。石川を連れて行け。往復三十分。遠くには行くなよ」
「はい。わかりました」
石川と二人で外に出た。翼を出した。出力を抑えて低く上がって止まった。
地形が見えた。
地図とは違う見え方だった。等高線の密な場所は切り立った斜面だった。広いように見えた平地は、実際には木が密に生えていて視界が遮られていた。西側の稜線は、空から見ると予想より長く伸びていた。
石川が隣で同じように地形を見ていた。
「覚えられたか」
「はい。西の稜線が長くて、南西の沢に狭い道があります。東側は低木が多くて視界が悪いです」
「東から来られた時が一番難しい。覚えておけ」
二人で降りた。
拠点に戻って、ユイは地図にメモを書き込んだ。高さのイメージ、視界が悪い方向、逃げ道になる地形。
田代は何も言わなかったが、書き込んでいるのを見て「それでいい」と一言言った。
その日の午後、任務が来た。
西の稜線沿いでテクノフォースの偵察ドローンが複数確認された。部隊が後に続く可能性があった。ドローンを追い払うか、電子的に無効化する必要があった。田代の部隊が対処に向かった。
西の稜線に向かった。翼を使ってゆっくり山道を十分かけて登った。稜線に出た。南の空が広かった。そこに三基の小型ドローンが飛んでいた。静かな羽音をたてて、ゆっくり旋回していた。索敵タイプのドローンだった。
「壊しますか?」とユイは聞いた。
「できれば一基は生かしたまま回収したい。破壊して落としてしまえば、部隊が来る理由が増える」
田代は部隊員の一人に指示した。
「自然に落下したように見せる。直接破壊せず、ドローンの飛行ユニット部分を狙え」
部隊員が光弾を鋭く絞った。ドローンに直接当ててしまった。ドローンの一基が爆発した。
残り二基が反応した。旋回方向が変わった。こちらに向いた。
「見つかった」とユイは言った。
「上がれ。出来るだけ壊すな」
翼を広げた。石川も上がった。
ドローンの一基が距離を詰めてきた。カメラが正面にあった。撮影している。ユイは翼で急加速して、ドローンの死角に出た。翼を大きく広げた。ドローンが止まった。
旋回方向を変えようとした。ユイは追った。カメラが反転する前に飛行ユニットを破壊した。
石川がもう一基に向かっていた。同じように死角に出て、飛行ユニットを破壊した。
一分後、二基とも直接破壊せず、飛行ユニット失ったため制御できずに林に落下していった。
「あの二基は」
「林に落ちた。回収する」
田代が林の中に入って、落ちたドローンを拾い上げた。損傷していた。データを確認した。
「クソ、記録は消えてしまったか」
「部隊は来ますか」と部隊員が聞いた。
「来ないことを祈ろう。ドローンの通信が途切れたことは向こうもわかっている。何があったか確認しようとするか、別のルートを探すか。どちらか」
「どちらだと思いますか」とユイは聞いた。
田代は少し間を置いた。
「別のルートにするだろう。ここが抑えられていることは明らかだ。無駄な正面衝突はしない。それがテクノフォースのやり方だ」
田代の読みは正確なことが多かった。ユイはそれを見てきてた。感情で判断しない。状況と相手の論理から判断する。それが田代の動き方だった。
「撤収する」
帰り道、石川がユイに言った。
「さっきの判断。追い払う前に田代に確認を取ったのは正しかった」
「なぜですか」
「直接壊すことと狙って壊すことは違う。破壊することそのものが目的か、破壊した後が目的かということだ。どちらを選ぶかで、この後の展開が変わる。自分で判断できることと、上に確認することを区別しておけ」
ユイはその言葉を頭の中に入れた。
夜、拠点に戻ってから、ユイは地図に今日の情報を書き込んだ。ドローンが来た方向、田代が「別のルートを探す」と言った根拠になる地形など。今日得た情報をまとめた。
地図が少しずつ埋まっていった。
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