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聖剣カタストロフィⅡ

「わざわざこんな朝早くに、ご苦労だった皆の衆。今回の件についてはすでに知っている者も多いとは思うが、今朝ユーパル王国からの宣戦布告状がティガレスク城に届いた。そこで、今日は君達からこの件ついて何か解決策が欲しいわけだが、何か案を持っている人は手を挙げてくれ」

「一つよろしいですか?」

 パルピーナ女王が話し終えた直後、すぐさま一人の男性が挙手する。 


 男性は見たところ、中年をすでに超えていて、彼の頭髪にはいくらかの白髪が散見できた。中年男性にしては白髪の割合がいくらか多く、眼鏡のレンズ越しに映る、彼のもの問いたげの視線はいつもそこにあったように、その場所にすっかり馴染んでいた。


「よろしい、許可しよう!」

 パルピーナ女王は勢いよく男性に指差しした。


 パルピーナ女王はどっしりと胸を張り、背筋を伸ばして、姿勢を整えるといくらか真剣な視線を彼のみに向けた。


「今回の件について主な対戦国はユーパル王国ということになっております。少しお伺いしますが、ユーパル王国について、彼らの同盟となる国々については女王、すでに把握されておりますか?」


「いや、この件についてはまだ完全に把握し切れてはいない。全く持って情けないことではあるが、私自身が現在この件について知っていることと言えば、ユーパル王国と戦争をすることと、ユーパル王国の宣戦布告日がちょうど1週間後という事実だけなのだ」

 パルピーナ女王は申し訳なさそうに、顔をしかめた。


 すると、突如として入り口からドンと激しく戸を開ける音が会場内に響き渡った。


 振り返ってみれば、一人の若者が息を切らして、満身創痍であるかのように体をよろめかせながらその場に立っていた。


「緊急です! 緊急事態です、姫! 先ほど、ユーパル王国から一通の手紙がお届き致しました! 恐れ入りますが、この場を借りて文書の報告内容をお読みしてもよろしいでしょうか?」

 若者は甚大な焦燥感にかられ、震えながら声を張り上げる。


「構わん! 今、この場で読み上げよ」

 パルピーナ女王は若者の話を聞くと、即座に指令を出した。


「それでは読み上げたいと思います。先ほど、ユーパル王国から届いたお手紙によりますと、今回の戦争では、お互いに同盟国などを組まずに1対1で、我が国といくさを始めたいとのことです!」

 若者は指令を受けると、手紙を目の前で手一杯に広げながら、広い会場内に響き渡るように、水泳選手が息継ぎをするような間隔で、時折、手紙から目を離して、顔を上げながらすらすらと読み上げるのだった。


「何っ!? それは本当か!?」

 パルピーナ女王は、相手国の予想外の対応に、思わず声を荒げた。ユーパル王国は小国で、大国であるティガレスク王国に戦争で勝つためには、強力な同盟国の存在が必要不可欠なのである。これでは、裸で戦場におもむくようなものだ。

 パルピーナ女王は、ユーパル王国の手紙に対し、小馬鹿にされたときのような激しい憤りを覚えた。


「はっ……はい、誠でございます! 姫!」

 若者は、パルピーナ女王が怒りから声の波長が、刃物のように鋭くなるのを感じ取ると、思わず神経が縮こまってしまって、思うように口から声が出せなくなってしまうのだった。一応、声は出るといえば出るものの、一度ひとたび発せられた声は震え声となってしまい、思うように声が出ないのである。


「そうか……、それはご苦労だった。もう戻ってもよい」


「は……はい、それでは失礼します」

 若者は、恐怖心から身体をガクガク震わせながら、深々と礼をすると、後ろに振り向くや否や、直ちにこの場から全速力で立ち去るのだった。


「全く、これだから若いのは……」

 パルピーナ女王は、落ち着き払った様子で若者の背中を見送ると、溜め息混じりにこう呟くのだった。


 いや……、アンタの方が若いだろ。


 俺は苦笑いしながら、心の中で突っ込む。


 実年齢は定かではないが、おそらく年齢は俺達とほとんど変わらないはずだ。


 それにしても、ちまたの情報によると、パルピーナ女王はどうやら、国一番の美女と言われているらしい。


 まあ、それは分からないでもない。


 身長はオルターほど高くないものの、目測身長167センチの長身に加えて、推定Gカップの巨乳。さらには、腰までかかるほどに長い白銀の髪に、赤と青のオッドアイ。

 

 今、思えば……何という豪華なフル装備!

 確かに、彼女は国一番の美少女に違いない!


 俺はなんとなくで、パルピーナ女王の大きな胸を見た。

 すると、偶然にも俺とパルピーナ女王の視線が合ってしまう。


「おい、貴様! さては今、性的な目線で私のことを見つめていただろう!?」

 パルピーナ女王は俺と視線が合うと、すぐに俺のことを指差しして、このように妙な憶測を俺に投げつけるのだった。


 周囲の群衆が囲いに囲み、俺の方を振り返る。


「いえ、そんなことはありませんが……」

 俺は完全に落ち着き払って、パルピーナ女王の目を見つめた。


「いや、貴様はさっき私のことを確実に性的な目で見ていたはずだ。私には相手の心が読めるのだからな」


 いやいや、いくら何でもそれはないでしょう。

 女王という高位に、さらには国一番の美女という称号。その上、相手の心が読める超能力と来ましたか?

 それはさすがにフル装備がすぎるぜ。


「当然だ、私は女王だからな」 

 周囲の群集は、女王の謎の一言に首を傾げた。

 ただ、俺だけが唯一、彼女の言葉を理解し、額から冷や汗を垂らすのだった


 えっ!?

嘘だろ!?

どうやらガチなのか?


 よし、こうなったら試しにテストしてやるぜ!


「そこまでおっしゃるなら、仕方がございませんなパルピーナ女王。あなたのその特技が誠なのかをはっきりさせるために、少しテストをしていただきましょう」

 俺は不敵な笑みを浮かべた。

 マンガのキャラクターのように、冷や汗を滝つぼのように出しながら。


「テスト? 面白い」

 彼女はニヤリと笑うと、俺の瞳をじっくりと観察した。

 そして、

「答えはハンバーグであろう。そのテストの内容は確か『今日、俺が食べたいと思っている夕食のメニューを当ててみよ』という内容だったはずだ」

 と、俺のテストの内容を訊かずに、答えまで当ててしまうのだった。


 俺は、この不気味な光景に、思わず固唾を飲む。

 俺は、驚きのあまり言葉も出なかった。


「まあいい、驚きのあまり、言葉も出ないのであろう。さあ、遣いの者よ! セクハラ罪としてこやつを捕まえとくと檻の中へ入れよ!」


 パルピーナ女王は、ちょっと下心を露わにした俺に対し、実に容赦ない洗礼を与えた。

 すると、群集たちが脅えながら道をあけ、その中から見事な青銅の鎧に身を包んだ、いかにも屈強そうな兵士達が右手に剣を左手に盾を携えて、列をなしながら、俺のほうにどっしりとした足取りで向かってくるのだった。


 人数は十数名程度か?

 面白い、どちらが上が試してみようじゃないか。

 俺は不敵に笑うと、腰に装備してある剣に手を伸ばす?


 だが、どういう訳か俺の体は石像のように固まって動かない。


「抵抗はするなよ、貴様! その場で殺してくれる」

 女王は、疑問に顔をゆがめた俺の哀れな姿に冷笑すると、その場で大きく高笑いするのだった。


 俺は小さく舌打ちすると、女王の表情を思い切り睨みつける。その表情のまま、顔色一つ変えずに、俺は女王の手下によって檻まで連行されてしまうのだった。



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