決戦、四面挿花!Ⅱ
「どうした、春人。貴様の力はそんなものか? 逃げてるだけでは私に勝てんぞ」
「分かってるよ、それぐらい! ていうか、もうちょい手加減してくれてもいいだろ!」
ここはトレスティン魔法学院の運動場。
そこでは、俺と亜利沙がちょっとした手合わせをしていた。
その近くでは、日向が屈託のない笑顔を浮かべながら、俺と亜利沙の手合わせを見守っているのだった。
ところで、俺と亜利沙が何故運動場なんかで手合わせなんてしているのか?
それは、自分のスキルと素早さを上手く使いこなせるようにするためという目的と、亜利沙は悪魔モードのスピードにしっかり慣れるためという目的があるからだ。
そんな訳で、俺と亜利沙は平均時速300キロの高速の世界で、激しい戦いを繰り広げているわけだ。
亜利沙は自身のスピードに慣れてきたのか、蝙蝠のような羽を広げて飛行しながら、俺の胸部めがけて、側宙を切り、一回転しながら正確に俺の胸部を捕らえて、強烈な回し蹴りを放った。
俺は悪魔モード時の亜利沙の攻撃をくらうとこの世界ではもちろん、現実世界でも死んでしまうようなので、ハリセンでガードする。
だが、ゲーム上の俺の筋力はたったの10。
はっきり言ってゴミだ。
俺の身体は亜利沙の鋭い回し蹴りに耐え切れずに、そのまま真後ろへぶっ飛ばされる。
さらに、そこから追い討ちをかけようと亜利沙は羽を羽ばたかせ加速して俺に接近し、もう一度さっきと同じ技を繰り出した。
ヤバイ!
空中じゃさすがに身動きが取れないぞ。
焦る俺に、笑う亜利沙。
どちらが優勢かは一目瞭然だ。
だが、きっと来るはずだ。
書き換えスキル【Evolutional galaxy】が。
この状況、客観的に見ればヤバイ状況ではあるが、さっきの江坂戦の時のようにスキルはニートしないし、スピードもしっかり出る。
調子は絶好調なのだ。
亜利沙の鋭い回し蹴りが当たるほんの0・1秒前、俺からすると1秒前に俺の身体は空中で消えて、さっき亜利沙の回し蹴りをハリセンで受け止めた場所にワープするのだった。
危なかったな、今のは。
俺はその場で落ち着き払って、深く安堵するのだった。
「なかなかやるな、春人。あれをかわすとは」
亜利沙は羽を羽ばたかせながら、ゆっくりと地上に着地した。
「そりゃそうだ。さっきのが当たっていれば俺はこの世界からはおろか、現実世界からも他界することになるんだからな」
「そうだったのか? それは初耳だ」
亜利沙は目を大きく見開き、驚いたような表情を見せた。
「どうやら、この世界でバトルを申し込まずに学内の施設内で決闘をした場合は、相手のHPが完全に尽きると、結果的にデスゲームになるらしい」
「ということは……私はさっき春人を殺そうとしていたと言うのか……」
亜利沙は、罪悪感に苛まれて、その場に崩れ落ちて、悲しい表情で膝をつくのだった。
「いやいや、さっきのは俺が悪いんだよ。俺はスキルがどれほど正確に反応するのかを試したくて、あえてこのことを言わずに手合わせをお願いしたんだからな。お陰で俺がピンチになった時にはしっかりとスキルが反応することが分かって良かったよ」
俺は膝をついて申し訳なさそうにする亜利沙の髪を優しく撫でる。
すると、亜利沙は顔を上げて、上目遣いしながら不思議そうな表情で俺の顔をぼんやりと眺めるのだった。
か……かわいい。
俺は亜利沙にじっと顔を見つめられて、照れくさそうに少しだけ目線をよそに移した。
「良かった、春人の力になれて良かった」
「俺も亜利沙の力になれて良かったよ。どうだ、悪魔の翼の制御は上手く行きそうか?」
「大丈夫だ、問題ない」
亜利沙は柔らかな笑顔を浮かべた。
――あらあら、これはこれはいい感じになってるわね春人に亜利沙――
冷笑の含まれた聞き覚えのある不気味な笑い声……、
俺は明らかに敵意を持って声のする方を睨みつけた。
「江坂沙姫、何故ここに?」