決戦、四面挿花!Ⅲ
見れば、ここから3メートル先の地点、そこには江坂沙姫が不気味な笑みを浮かべながらこちらに向かって来る姿があった。
――いや、それだけでなない――
さらに、俺は注意深く目を凝らした。
江坂沙姫のほかに天音美架、その他4人の見覚えのない少女達がぞろぞろと江坂陣営に立っていた。
一人は小学生のように背が低く、腰辺りまで伸びた長い銀髪をした目が赤い、アルビノ系を連想させる美少女で、もう一人は身長169センチくらいありそうなかなりの長身で、自身のウエストほどにも太く筋肉質な太ももと巨乳が印象的な、チャイナドレスを着るときにつける髪飾りを左右につけたクールな佇まいの美少女だった。3人目は明るいブロンドの髪をツーサイドアップで結ってある、ターコイズブルーのきれいな瞳が印象的な西洋風の美少女、4人目はボーイッシュな髪型が印象的な……いや、この中に唯一知っている奴がいた! 確か今日俺の夢で出てきた鈴鹿凛だ。まさか、ゲームの世界で対面するとは思ってもみなかったな。
沙姫の奴、6対3とはやってくれる。
「それは、あなたを人質に取るためよ。いいでしょ、亜利沙に日向?」
沙姫は蛇のように鋭利な視線を亜利沙と日向にチラつかせた。
これは最悪だ……最悪。
「そ……それはちょっと……」
日向は困り果てた表情で、おどおど呟く。
「駄 目 だ! 絶対駄目だ。仲間を売るなんてことを私には出来ない」
亜利沙は黒曜石のように黒くきれいな瞳を大きく見開きながら、主張の強い声色で答えた。
「まさか、私達を敵に回すと言うのかしら? こっちはLV3以上が6人、それに対してあなた達はまだゲームをやり始めたばっかのヒヨッ子でさらに人数的に不利。諦めなさいよ、どうせ勝てるわけないのだから」
沙姫は嘲るように笑い、小馬鹿にするような口調で言った。
――そんなことないわよ? これでちょうど6人になるじゃない――
聞き覚えのない何者かの声が、この運動場内に小さく静かに浸透した。
それは、俺の遥か前方、沙姫達の後方から聞こえてきたのだった。
沙姫達は、素早く後方を振り向く。
そこには、黒いブラウスに臙脂色のミニスカートを着用した見慣れない3人組みがゆっくりとこちらに向かっていた。
一人は、一際小さな背丈に短い白銀の髪をした、まるでフランス人形のようにかなり顔立ちの整った美少女で、もう一人はそれとは対照的に身長がかなり高く、バスケットボールほどに大きな胸をしている、やや茶色がかったブロンドの髪が印象的なポニーテールの美少女で、そしてもう一人は、決して二人目ほどに身長が高いわけではないが、高身長の部類で、手足がスラリと長い、短い黒髪の理知的な印象を漂わせる美少女だった。
「見かけない顔ね、あなたたちは?」
沙姫は怪訝な表情で彼女達を睨みつけた。
「私はこのゲームの管理者であり、プライマル・ディーラーでもあるルリア・グラシアルよ。ところで、あなた達がこのゲームを悪用して世界的な大悪盗を演じている四面挿花なのね?」
「そうよ、私達が世界的に有名な四面挿花よ。それにしても、よく私達が四面挿花ってことを調べ上げたわね」
あっさり自白するんかい!
俺は心の中でそうツッコミを入れた。
「このゲームと現実世界とを行き来できるゲートの履歴と四面挿花による盗難事件とを照らし合わせたらたまたまあなた方の名前が出てきたのよ。管理者の捜索能力を舐めないでくれる?」
ルリアは沙姫達をあざ笑うかのような口調で言った。
「何を言っているのかしら? 私達はあなた達が今回の件で動くことを計算していたのよ。否、むしろ、あなた方が動いてくれなければ困るところだったわ」
沙姫は、これまた負け惜しみなのか何なのか、訳の分からない話を自信満々に切り出した。
「それは、どういうこと?」
ルリアは沙姫の訳の分からない発言に眉をひそめた。
「さあね、自分で考えてみれば?」
沙姫は馬鹿にした表情で、余裕の笑みを浮かべながらこう尋ねるのだった。
さすがにルリアも頭にきたのか、鋭く眉をつり上げた。
「まあ、何はともあれ、あなた達をここからゲートへ向かわせるわけにはいかないわ。覚悟しなさい!」
ルリアは叫びながら、指差しする。
「ふうん……やってみればいいじゃない? どうせ負けるのはあなた達なんだから。さっきも言ったけれど、こっちはLV3以上が6人、対してそっちは初心者のLV1が3人よ。まさか、あなた達3人で私達6人を相手するつもり?」
「ねえ、日向に亜利沙? 私は新しく別アカウントでこのゲームをやることに関しては、特に咎めはしないけれど、今はしっかりとプライマル・ディーラーとして取得したアカウントでやってくれないかしら?」
何だ?
急に現れては江坂に宣戦布告したと思えば、お次は亜利沙と日向に放しかけ始めたぞ?
「おい、亜利沙? あのルリアとかいう奴と知り合いなのか?」
俺は亜利沙の耳元に無声音で囁いた。
すると、亜利沙はコクリと頷くのだった。そして亜利沙は俺と同じく無声音で話を続けた。
「そういえば隠していて悪かったな、春人。実はと言えば私達はこのゲームの初心者ではない。私はこのゲームの開発のためにテストプレイヤーとして選ばれ、1年間もの間、このゲームの世界に滞在していたプライマル・ディーラーなのだ」
プライマル・ディーラー……。
なるほど、だから結構強かった訳だ。
ただ、それなら運動場の手合わせの時、もうちょっと俺のことを考慮してくれてもよくなかったか、亜利沙さん?
もし、あの時俺のスキルが発動していなかったら、俺は、頭に変なわっかを乗せながら白い翼を広げて、あの世行きだったんだからな。
「ていうか、それだったら何でプライマル・ディーラーなのに、俺がこの学内戦闘で倒れたらこの世からいなくなることを知らなかったんだ?」
「すまん、ちょっと忘れていたのだ」
亜利沙は平然とした表情で返した。
天然か!
脳キンだ……、全能力値10倍でそのうえスキル無効とか脳キンすぎだろ! とは思っていたが、まさかその本人が脳キンだったとは……。
「あ、それとね春人くん。実はと言うと、学内で誰かに殺されてもその場に倒れるだけで、絶対に死ぬことはないんだよ」
日向はさりげなく俺の耳元で耳打ちした。
「ちょっと亜利沙、日向? 私の話を聞いているのかしら? 早く答えないと……」
ルリアは、亜利沙と日向に恐ろしい笑顔を見せて言った。
それを見た亜利沙と日向は一瞬だけ身体がビクッと反応する。
「わ……分かりました、大将」
亜利沙は、おどおどしながらぎこちなく答えると、ルリアに向かって敬礼を始めた。
「う……うん、大丈夫……だよ。ルリ……ア……ちゃん」
一方、日向は今にも泣き出しそうな表情で途切れ途切れに答えた。
待て待て!
一体、お前らの間に何があったんだ!?
……まあ、ここはあえて突っ込まないでおこう。
俺も巻き添えを食いたくはないからな。
「えっ、あなた達もプライマル・ディーラーだったの?」
沙姫は驚いたように目を丸くした。
「確かにそうだが……何か問題でも?」
亜利沙は無表情のまま、首を傾げた。
「いいえ別に。特に問題はないわ」沙姫は何かを拒絶するかのように、激しく首を振った。すると、沙姫の腰まで伸びた漆黒の髪がふんわりと左右に揺れた。これまで余裕が感じられた沙姫の表情に、焦りの色が滲み出る。「たとえ、あなた達がどれだけ強かろうと、私達がゲートに向かうのは変わらないのだから! それじゃ、行くわよみんな! まずはルリア・グラシアルを全員で袋叩きにしてしまいましょ」
沙姫が言うと、沙姫を含む6人がいっせいにルリアに向かって走り出した。
おいおい、マジかよ!?
そりゃ、ちょっとやりすぎじゃねぇか……。
「いいわ、全員血祭りの刑ね」
ルリアはこの圧倒的不利な光景を見ても、なお余裕の笑みを浮かべるのだった。
すると、ルリアの周囲に6つのマズルフラッシュが点滅し、そこからは巨大な黒い火の玉が勢いよく飛び出す。
沙姫達は全員、その黒い火の玉に当たり、後方にぶっ飛ばされた。
そして、空中で仰向けになりながらいっせいに背中から地面に叩きつけられるのだった。
「どう? あなた達の相手は私一人でも十分なのよ?」
ルリアは、沙姫達がいっせいにぶっ飛ばされるのを確認すると、面白おかしく笑いながら言った。
「いいえ、さすがにルリア一人では手に余るのではないかと……」
ルリアの左に立っている、スラリとしたスタイルの良い体格をした、髪の短い黒髪の美少女が刀を上段に構えて、ルリアの一歩手前に移動した。
「そうだぞ、ルリア。獲物を一人で持っていくなんて、そんなつれない真似するなよ。見ているこっちが退屈だぜ」
すると、ルリアの右に立っている、服の上にバスケットボールでも詰めているのかと疑うくらいに胸の大きい、茶色がかったブロンドのポニーテールの美少女が竹刀を上段に構えて、ルリアの一歩手前に移動した。
「それもそうね、モネにヤマト。ところで、亜利沙に日向、そして名前の分からないそこのあなた。ちょうど相手が倒れていることだし、6人で包囲して一気に倒してしまうわよ。準備はいい?」
「うむ、了解した」
「うん、分かった」
「江戸川春人だ」
その指示を受けて、俺に亜利沙、日向、モネ、ヤマトはルリアの指示通り、倒れている沙姫達の周囲を武器を構えながら、素早く包囲した。
「ところで、いつまで寝ているのかしら? まさか、この程度でやられたわけじゃないでしょうね?」
ルリアはニヤリと笑いながら、挑発気味に尋ねた。
「無論よ。この程度のダメージ……大したことはないのだから」
沙姫は不気味な笑みを浮かべながら、倒れていたその場からゆっくりと立ち上がる。
それと同時に、仲間達も立ち上がる。
「そうでなくちゃ、面白くないわ。それじゃ、戦争を始めましょうかしら?」
ルリアは大胆不敵に笑った。




