トレスティン魔法学院Ⅸ
さて、これはどうしたものだろうか……。
神と自称する見知らぬ美少女にベッドに押し倒されて、いきなり『君は私のものだ』と言われる。
はたして、このことは現実なのだろうか、それとも夢なのだろうか……。
全く持って謎だ。
謎だらけだ。
俺の腹部の上に真正面を向きながら乗っかている美少女も、この辺り一面に広がる真っ白な空間も、何もかもが謎に満ちあふれている。
「ところで、さっきパルは俺のことを『君は私のものである』と言ったよな? これは一体どういう意味なんだ?」
「知りたいか?」
パルピーナはニヤリと怪しげな笑みを浮かべながら、顔を俺の顔に接近させる。
「そりゃまあ……」
「なら、言っておかねばならないな」
パルピーナはゆっくり顔を上げると、その白くて美しいむっちりした太ももの間に俺の腹部をはさみながら、馬乗りになって上半身を起こすのだった。
「その前に俺の上からどいて欲しいところなんだが……」
「ふむ? 別に良いではないか?」
パルピーナは首を傾げた。
「あの……少し言いにくいんだが……」
俺は頬を引きつらせながら、不自然な笑みを浮かべながら言った。
「重い……と?」
パルピーナは満面の笑みを浮かべた。
しかし、その笑顔にはどういう訳か笑顔なのにも関わらず、それに似つかわしくないような恐怖感と圧迫感が感じられた。
俺は、ま……まあ、そういうことだよとでも言うように弱弱しく笑ってみせた。
「それは困った……。春人、本来女子に『重い』は禁句な訳だが……」
「お、おう」
俺は、額から冷や汗を滝のように流しながらあせあせと言った。
「だが、仕方がない。よく考えてみれば、私の体重を考慮すれば確かに重いはずだ。悪かったな」パルピーナは自信なさげな表情で溜め息混じりに呟いた。そして、パルピーナは俺の腹部から体を移動させると、俺の真横に体を倒した。「それでは話に戻ろう、その前に君はこの世界に神が何人ほど存在しているか知っているか?」
なるほど、メインの話に入る前に少し前置き話をするのか。
それにしても、パルピーナは自分の体重のことについて少し触れたとき、どこか沈んだ表情をしていたわけだが、そこまで体重を気にするとは一体何キロぐらいなんだ?
少し気になる……。
まあ、この件については触れないでおこう。俺もそこまでデリカシーのない男子じゃあるまいし。
「神……多くて20人程度か?」
「実はもう少し多い、ざっと50人ぐらいだろう。ところで、君は神に選ばれた特別な人間なのだ。君は世界を変える。そういう種の人間なのだ。私は君の存在を、乳母が生むはるか前から知っていた。何故なら君は特別な存在だからな」
パルピーナは、俺に親しみ深い笑顔を見せた。
「俺が特別な存在? そんなこと分かるものなのか?」
俺は、もの問いたげな表情を浮かべて尋ねた。
「分かるとも。神には人の潜在能力を見極める能力があるからな。それで私は君を選んだのだ。現代のめまぐるしく変化しつつあるこの御時勢、人類にとって最も最大の敵が現れないとも限らないからな。だから、我々神は人々の未来を護るために力のある勇者を選ぶ必要があった。それが君なわけだ。ちなみに、勇者は君だけではない。世界中に50人程度が散り散りなって存在している。それも君とほぼ同い年だったはずだ。つまり、君の世代が黄金世代となるわけだな」
「ところで、一つ気になることがある。さっき言った『人類にとって最も最大の敵』って何なんだ?」
「決して驚くなよ?」
「ああ、大丈夫だ。何を聞いても驚かないつもりだ」
「それは面白い」パルピーナは俺の余裕な表情を見ると、愉快そうに声を上げて笑った。「それはだ……悪魔だ」
へっ……何だそれ?
俺は驚いたというより、むしろ呆れたというような表情を見せた。
「確か悪魔って言ったら…………、サタンとかベルゼバブとかそういう感じの悪魔だよな?」
俺は思わず首を傾げた。
「まあ、そういうところだな。どうした、何を間抜けな顔をしている?」
「いや、どうにも悪魔って言ったら物語上の存在でしかなかったからな。そんなのが、現実に存在しているなんてとても考えられないだけだよ」
「まあ、そう言われるのも無理はないか……」パルピーナは呆れた表情で溜め息まじりに言った。「と に か く だ! これは神からの大切なお告げの言葉だ。だから大切にしておくように! 分かったな!?」
「分かった、分かった。一応、頭の中に留めておくから」
俺が面倒くさそうに答えると、パルピーナは何故かニッと笑った。
「まあ、これで私は君に伝えるべきことを全て伝えたわけだし、そろそろ本題と行こうか?」
「本題?」
俺は、頭の上にクエスチョンマークを3つほど乗っけたような、ぼけーっとした表情で尋ねた。
「それは君が結婚相手に誰を選ぶかということについてだ」
「いや、待て待て待て待て! 何故いきなりこんな話題になるんだ!?」
俺はあたふたしながら尋ねた。
「それは春人が私のものだからだ。それなのに、春人は周りの女子達に鼻を伸ばしているからな」
パルピーナはムッとした表情で、かわいくホッペをふくらましながら言った。
「い、いや……そんなこと言われても」
俺はそっぽを向いて当惑気味に返事を返す。
「そ こ で だ! そんな春人に私の魅力を分かりやすく伝えるために、私と他のライバル勢4人の実物大の立体ホログラムを用意したのだ!」
パルピーナは興奮気味になってそう言うと、パルピーナと他4人の身長やスリーサイズが記載された実物大の立体ホログラムをベッドの前に出現させた。
しかも、それはあろうことか全員水着姿だ。
これ、プライバシーの問題上大丈夫なのだろうか?
いや、本人の許可を取ってはいないし、勝手に裸姿を覗き見するようなものだよな。
「なあ、一つ聞くが、これ……何で全員水着姿なんだ?」
「それは全員のスタイルを比較しやすくするためだ。おっと……そういえば言い忘れていたが、プライバシーだとかそういう問題については一切応じないぞ。私は人間ではなく神だからな。人間の法律など神に適用できるはずがないからな。ところで、どうだ春人? 全員のスタイルに関して一言欲しいところだ」
はあ……。
まあ、神がいいって言ってるんなら、遠慮なく全員の水着姿を拝めさせてもらうとするか。
俺は全員の実物大の立体ホログラムに、神経を極限まで研ぎ澄まして、せわしく目を凝らした。
まずは、江坂からだな。
江坂沙姫、身長163センチ……まあ身長に関しては少し高めとは思っていたし妥当なところか。次はスリーサイズ、バストは94…………94!?
でかい、これは相当でかいな。
普通に巨乳の部類だ。ていうか下手したら、爆乳の域か!?
ウエストは61、ヒップは89。
これはなかなか、スタイルのよろしいことで。
次は美架の番か。
天音美架、身長157センチ。まあ平均ってところだな。スリーサイズはバストが90……、
まあ確かに胸は大きかったよ、そこは否定しない。
やっぱり大きかったんだな、うすうす感づいてはいたよ。
ウエストは55にヒップは82。
スレンダーだ、かなりスレンダーだな。
それなのに、あの巨乳……一体どうなっているんだか。
次は初瀬だな。
初瀬日向、身長156センチ。なるほど、身長は美架とほとんど変わらないのか。
スリーサイズはバストが91。バストも美架とほとんど変わらない。ウエストは60、ヒップは86、決して太ってる訳ではないし美架が細すぎるだけだ。ただ、太ももに関してはこの中では一番太く、何というか……エロい気はするな。
そして、亜利沙の番が回ってきた訳だが……これは比較出来ないな。
伊吹亜利沙、身長142センチ、もちろん、言うまでもなくこの中で一番小柄だ。
スリーサイズはバスト73、ウエスト51、ヒップ81という感じで、全体的に控えめの数値か。まあ、ここは彼女の身体の将来性に期待しておこう。
とにかく、亜利沙と他の4人に関しては好みの分かれるところだな。
ある話によると、貧乳派と巨乳派は五分五分の割合で分かれているらしいが、もちろん、俺は巨乳派だ。
巨乳は王道であり、貧乳は邪道であると俺は考える。
さて、ラストはパルピーナか。
パルピーナ・デ・マルガーテ。身長167センチ……高いな! 俺と1センチしか違わないぞ。スリーサイズはバスト94、ウエスト61、ヒップ86。バストとウエストは江坂と同じ。
ただ、ヒップは3センチほどパルの方が引き締まっているな。とは言え、どういう訳か太ももの太さに関してはパルの方が若干太いな。
まあ、総評としてはやっぱりルックスだけで見るなら、パルが一番だな。
巨乳派としては、大和撫子の江坂を選ぶか、西洋美人のパルを選ぶかで好みが分かれるところだろうな。
「そうだな、江坂は大和撫子のような顔立ちでスタイルは抜群だし、美架はスレンダーな体つきの割にはかなりの巨乳だし、初瀬は全体として胸も大きいし健康的なスタイルでルックスはいいし、亜利沙は背が小さいけれど、むしろそれが可愛らしくていいかな。ただ、やっぱり俺としてはパルが一番かな」
「理由を聞かせてもらおうか」
パルは自分が一番に選ばれたことがよほど嬉しかったのか、有頂天気味になっていた。
「背が高くて、胸もかなり大きいし、何より顔立ちが西洋人のように上品に整っていて、そこが好きだからだ」
俺は特に照れもせずに、淡々と説明口調で話した。
「よくも、ここまで恥じらいを見せずにそのようなことが言える……」
パルピーナは、照れくさそうに枕の上に顔を沈めた。
「まあ、色々神経が狂ってるのは自覚しているんでな」
俺は思わず苦笑いして言った。
「さて、そろそろ私も時間のようだ。今度会う時は、次は現実世界で会おう春人」
パルピーナは枕から顔を上げると、勢いよく俺にキスをするのだった。
パルピーナの胸が俺の身体に力強く押し付けられた。パルピーナの胸は俺の身体に押し付けられて、立派な球体の乳房が押しつぶされたスライムのように平らに広がっていた。
俺は何とも言えぬ快感に、思わず言葉を失った。
「さよなら春人」
キスを終えたパルピーナは俺のくちびるから薄紅色のきれいなくちびるを離すと満面の笑顔で言った。
「さよならパル、またどこかで」
俺もパルピーナに満面の笑みを送った。
すると、周囲が真っ暗になる。
ただ、それはほんの一瞬の出来事にすぎなかった。
俺ははっとしたように目を覚ますと、そのまだ目が覚めたばかりのぼやけた視界にはベッドの上にちょこんと腰掛ける江坂沙姫の姿があった。
「ようやくお目覚めのようね、春人」
沙姫は口元にわずかな笑みを浮かべながら言った。