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トレスティン魔法学院Ⅳ

「なるほど、企業秘密か。妙な技を使う……、それなら私も本気で行かせてもらうとしよう」 

 亜利沙は落ち着き払ってそう言うと、左手の甲に光輝く魔方陣のようなものを具現化させる。

 

 左手を大きく空にかざすと、亜利沙の立っている地面に左手と同じ模様の魔方陣が現れる。すると、彼女の身体は突如として暗闇に包まれ、彼女の身体は見えなくなってしまうのだった。


 何だ? 何が起こっているんだ?

 俺はせわしく目を凝らした。


 やがて、彼女を被う暗闇が晴れると、さっきまでとは全く違う、変わり果てた姿で彼女は俺の目の前に現れるのだった。


 さっきまで制服姿だったのが、やたらに露出度の高い悪趣味な黒のコスチュームに黒のブーツという姿に変わっていて、瞳は赤くなり、背中には冗談のように蝙蝠こうもりの羽が生えていた。


「何だ? 急に姿が変わったぞ?」

 俺は彼女の姿に思わず、目を丸くした。


「これが、私のスキルだ。この状態の時、私の全能力値は通常時の10倍になり、相手に攻撃を与える際、相手の防御スキルを無効にする。だから、次からは私はお前にダメージを与えることができるのだ」

 亜利沙は仁王立ちして、ビシッと俺を指差しながら自慢げに言った。


「なるほど、それなら、俺の相手の攻撃によるダメージを無効にするスキルである【No Damaging】を無効にできるわけだ。となると、俺も少しヤバイかもな」


「お試しクエスト、トップ通過が何を弱気になっている? まさか、あれが実力なわけがなかろう? 全力でやらなければ死ぬぞ?」


「おいおい冗談はよせよ。この世界のゲームで負けても、死ぬことはまずないんだぜ」

 俺は馬鹿にするような調子で言った。


「何を言っている? ゲームオーバーイコール死ぬというのは、ゲーム内では暗黙の了解ではないか?」

 亜利沙も俺と同じような調子で、ルビーのように赤い、薔薇ばら色の瞳をギラリと光らせながら言った。


「暗黙の了解…………、言われてみれば俺達の世界において、ゲームオーバーとは死を意味する」次の瞬間、ハリセンで叩いた時の心地よい響きが周囲にこだました。「だから、どんなことがあっても死ぬことだけは避けないとな」

 俺は口元に不気味な笑みを浮かべて言った。


 この勝負、俺の勝ちだ。

 何故なら、俺は亜利沙に攻撃を与えることに成功したからだ。


 亜利沙に攻撃を与えることに成功した……。

 はたして、このことが何を意味するのか?


 攻撃を与えることに成功したということは、攻撃を与えることに成功した相手のスキルを1分間使用不可にする俺のスキル【Minute out】(ミニッツ・アウト)が発動することを意味する。それによって亜利沙の所持スキルを全て無効に出来るからだ。


 プレイヤーは、基本的に自身のスキルを頼りに戦闘を行うため、スキルを無効にされるということは、相手の主力武装が破壊されることと何ら変わりはない。


 俺は超高速で亜利沙の背後に回ってハリセンで攻撃した時、その時に心から勝利を確信した。


 これで、しばらくすれば亜利沙のこの悪魔みたいな姿から制服姿に元に戻るはずだ。


 俺は深く安堵した。




 ――ただ、それはつかの間の安堵でしかなかった――




 亜利沙は、背後から俺がハリセンで攻撃したのを確認すると、その0・1秒後、素早くそれに反応して、体を素早く切り替えして、右足を軸にし、身体を右に回して、鋭い裏拳を放つ。


 俺は、そのことに瞬時、すなわち、0・002秒で反応すると、素早く後方にジャンプしてその攻撃を回避する。


 俺が回避して0・2秒後、初めて亜利沙は自身の裏拳が回避されたのを知るのだった。

 俺は後方にジャンプすると3メートルほどの間合いを空けた。


 俺は驚きの表情をもって、彼女を見つめた。


「何を驚いている? 何か不都合でもあったような顔をしているな。ひょっとして、私にスキルが通用しないことを嘆いているのか?」

 亜利沙は怪しく微笑みながら、俺の表情をそっとうかがった。


 俺は悔しそうに、鋭く彼女を睨みつける。


「まあ、気にすることはない。今の私にはいかなるスキルも効かないからな」

 悔しそうな俺の表情を、哀れむような視線で見つめた亜利沙は高笑いしながら言った。


「そんなのチートだろ?」

 俺がボソリと小さくそう尋ねた瞬間、彼女はその場から……、


 消えた?


 そんなはずはない!


 ひょっとして……、

 俺は嫌な予感を感じて後ろへ振り向く。


 すると、そこには、いつの間にか俺の背後に移動している亜利沙の姿があった。

 亜利沙は、蝙蝠こうもりの羽を広げて、トップスピードで俺に突っ込んでくる。


 やられた……、

 あと0・4秒気づくのが早かったら何とかなったかもしれない。

 ただ、気づくのが遅すぎた。

 俺が気づいたときには、亜利沙は俺との間合い、半径30センチ圏内の距離にいたからだ。


 半径30センチ……、亜利沙が今から俺に手を伸ばせば十分攻撃が届く距離だ。

 これは、さすがに素早さ100000とは言えど、かわし切れない。


 亜利沙はまだ、自身の能力を完全に使いこなせていないのか、手足をバタつかせながら、慌てて胸から俺の顔面に突っ込むのだった。


 これは、俗に言う、いわゆるラッキースケベというヤツだろうか?


 俺は亜利沙からの猛烈な突撃を顔面に食らうと、ものすごい勢いで俺は体を地面に叩きつけられるのだった。


 それと同時に、俺の体力ゲージが元は満タンだったのが、一気にゼロになってしまう。


 亜利沙が恥ずかしそうにしながら、こちらを見つめる姿を最期に、俺はこの亜空間から消え失せてしまうのだった。  


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