トレスティン魔法学院Ⅲ
「その言葉、後悔するなよ?」
亜利沙は大胆不敵にニヤリと笑みを浮かべて言った。
「気にするな。公式では俺のほうがランキング的に優位な立場らしいからな。こういう時は強者が相手に選択権を与えるべきだろう?」
俺も負けじと不敵な笑みを浮かべて言い返す。
辺り一面が黄土色に包まれた、晴天晴れのカラッとした暑さの亜空間。
俺と亜利沙はそこで静かに互いの様子を探り合っていた。
再び、砂漠の黄沙が強風に乗って強烈な砂嵐が吹き荒れる。
俺はその砂嵐のすさまじさに、思わず両目をを腕で被った。
その瞬間、不意にも俺は亜利沙からのすさまじい打撃攻撃を腹部に受けるのだった。
俺は、腹部を両手で押さえたまま、真後ろにぶっ飛ばされる。
思い切り地面に叩きつけられた俺は、地面に手を突きながら、倒れた体を起こして、ゆっくりと立ち上がる。
おそらく、最低でも10メートルはぶっ飛ばされたはずだ。
俺は、足の悪い老人がぎこちなくその場から立ち上がるように、フラリと身を起こすと、地面に茶色い血反吐を吐き捨てながら、仁王立ちする亜利沙の姿を両目に激しく焼き付けるのだった。
ここは誤解を避けるために念のため言っておくが、このゲームには敵の攻撃によって、痛覚を感じるという、恐ろしいシステムはない。
ただ、リアルさの演出のためか、ものすごい威力の攻撃を受けると、血反吐を吐くようになっているらしい。
まあ、このシステムが必要かどうかは、議論の余地がありそうだ。
「まさか、いきなり殴ってくるとは思ってもみなかったぜ」
俺は、相手を鋭く睨みつけながら言う。
「何を言っている? さっきのが不意打ちだと言わんばかりの激しい視線だな? 私はさっきバトル開始だ、と言ったはずだが? 勝手に戦闘中に両目をふさいだお前が悪い、自業自得だろう?」
亜利沙は、俺の発言がよほどツボに入ったのか、腹を抱えて激しく大笑いして尋ねた。
確かにそう言われてしまえば、反論の余地はない。
「それもそうだな、さっきのは完璧に俺の自業自得だよ。何一つ構わないでくれ。ところで、さっきまでいた、連れの娘はどうした?」
俺は頭に何も話題が浮かばなかったので、会話を続けるために何となくで訊いてみることにした。
「ああ、初瀬日向のことか。日向なら、食堂で待っているところだろう」
ほっておいてんのかよ!
「待て待て、一人で待たせておいていいのか!?」
「別にあそこならナンパされることも無かろうし、時間制限も10分程度だ。問題ない」
「それにしても、初瀬日向だっけか? 俺とのバトルの申し込みのために、何であの娘を連れてきたんだ? 待たせるだけだぞ?」
「それは、日向と私はルームメイトで、一緒に朝食を取ろうと思ったからだ。そして、私達が通りかかったところに、たまたま、お前の姿があったから、ついでとして、私はお前にバトルを申し込みに来た、ただそれだけのことだ」
なるほどな。俺とのバトルはあくまでついでだったという訳か。
まあ、どんなスキルを使ったのかは知らないが、こんな人ごみの中、わざわざ俺を探し出してくれてお疲れ様といったところか。
俺はさっきの食堂での人ごみの多さを思い浮かべながら、心の中で呟く。
「ルームメイトか、うらやましいところだな」
俺は苦笑いして言った。
「何だ、お前にはルームメイトがいないのか?」
亜利沙は、不思議そうに首をかしげながら、そう尋ねた。
どうやら、ルームメイトがいるのが当然だと思っているらしい。
「ああ、見ての通り」
俺は肩をすくめた。
「そうなのか……、私はてっきりルームメイトと上手くいかず、それで独り悲しく朝食を取っているのかと思ったのだが……」
亜利沙は、見るからに驚いた表情で俺の顔を伺いながら言った。
「何が悲しくて、俺が独りで朝食を取っていると思っているんだ。とはいえ、俺は独りの方が、落ち着くからいいんだがな」
俺は完全に落ち着き払って言った。
「せっかくのオンラインゲーム、しかもVRMMOだ。友達と一緒に遊んだり、お話ししたりした方が楽しいはずだ」
「生憎、不運にもルームメイトがいないもんでね。それに一人にはもう慣れっ子だ。まあ、こうして他のプレイヤーとバトルしている方が楽しいのは言うまでもないがな」
「同感だ。私も楽しい。どうやら、これがVRMMOというものらしい」
俺と亜利沙は何故なのかは分からないが、何気なく会話に夢中になっていた。それがVRMMOという特殊な環境下における一つの奇妙な現象なのだろうか?
そのことに関しては何も分からないから、特にコメントできないが、俺と亜利沙が何気ない会話に夢中になっている間に、いつの間にか激しい砂嵐や砂塵の突風は、すでに静まりかえっていた。
「さて、そろそろ砂嵐も収まったことだし、第2ラウンドと行くか?」
俺は大胆不敵に笑って尋ねた。
「それもそうだな。こうして私達が話している間にも無駄な時間が流れているのだ。…………ところで、一つ気になることがあるのだが、何故お前のHPは私の攻撃を受けたのにも関わらず、全く減っていないのだ?」
亜利沙は、この奇妙な現象を目の当たりにして、思わず眉をひそめた。
「さあ? それは企業秘密だ」
俺はニヤリと不敵に笑うと、右手から光芒を発して、武器のハリセンを具現化させる。




