第4話 未来の旦那様、その愛は激重だ
——さらに2年後
「はぁぁぁ!!」
——カァン!
「そこまで! アル、団長、いい試合だったぞ」
「えへへ。ありがとう、リース」
「アルトロン様、成長なされましたな。この団長、よもや完敗を喫するとは」
この2年でアルは剣も魔法も目覚ましく上達した。強者のミストエッジ家私兵団長ガラルドに勝てるまでにはあと1年かかると踏んだが分からんものだな。
「団長さんもありがとう! それに団員のみんなも! いつも僕の稽古に付き合ってくれたからここまで強くなれたんだ」
「そうだな。多様な相手がいるのはいいことだ。後見人代理として、私も礼を言う。ありがとよ」
団員たちからの拍手を受け、少し照れくさそうにするアルの顔は2年前より少しキリッとし始めた。
「じゃあ僕、1人で魔物を狩ってもいいんだよね?」
「おう。約束だからな。ただし護衛だけはつけていけ。万が一にも領主に何かあったらダメだからな」
アルは数ヶ月前から1人で魔物を狩りに行きたいと言い出すようになった。
実力的にはよほど危険地帯に行かない限り大丈夫だろうと思ったがロバートが念には念をと団長に試合で勝てたらという条件をつけたんだよな。
「やったぁ! もう準備できてるから明日にでも行く!」
「なかなか厳しい条件だったんだが……それにしてもなんで1人で行きたいんだ? 素材が欲しいなら私と行ったっていいだろうに」
「それじゃダメなの! 理由は秘密だけど……」
「ほお〜。まあいいか、約束は約束だ。でも無理はするなよ」
「うん! じゃあ僕部屋でもう少し準備するね!」
ウキウキとして訓練場から走っていったアルの背は4年前より確かに大きくなっている。12歳になってグッと背が伸びたのを見ると、大人に近づいてるんだなぁと思うぜ。
「ヴァレリス様、子どもの成長とは早いものですな」
「ああ、同感だ。もう打ち合いでひょいとは捕まえられん」
「今のアルトロン様を捕まえられるだけ凄いと思うのですがな……」
「あんなに大きくなると抱きかかえられんからな。ちょっと前までは簡単に抱っこできたんだが」
ガラルドは2児の父でもある。きっと私以上にその感覚は鋭いはずだ。
それに私はどこまでいっても家の外の者で後見人代理。婚約者という建前はあれどそれをどこまでアルが本気で理解しているかは未知数だ。
「私は本当にアルの居場所になれてんのかな」
「……なれていますとも。そうでなければあんな笑顔は見せますまい」
「父母がいない寂しさに私がつけ込んでるだけかもしれんぞ?」
「そんなことはない、と断言できますな。きっとそれはアルトロン様が狩りから帰ってきたら分かりますとも」
狩り、か。アルは一体何を求めて狩りをするんだ?
————
——翌々日、昼
「あー、寝不足だ」
昨日の朝にアルが出発してから、私は妙に落ち着かず眠れなかった。
狩りに行く場所も出てくるだろう魔物も、アルの腕前なら難なく狩れるし護衛もいるのに、だ。
「クソっ、ソワソワするな……」
正直、居ても立ってもいられない感じだった。現に朝からずっと屋敷の門を開けてウロウロしながら待っている。
1秒1秒が長く感じるのはきっと気のせいじゃねぇ。
「あれ? 門が開いてるよ?」
「!!」
声がして、目を向けた先に泥だらけのアルがいた。
「アル!!」
「うわっ! リース、いきなりどうしたの!」
堪らず、抱きしめた。
何に突き動かされているか分からないがこうするしかなかった。
「アル、無事でよかった……!」
「そ、そんな大袈裟な。許可したのはリースでしょ?」
「そうだが……いや、とにかく、本当に……っ!」
「そっか。心配してくれてたんだね。ありがと、リース」
私はどうやらアルを心配していたらしい。そんなことをアルの言葉で気付かされてしまった。
その事実に少し申し訳なさを感じているとアルが口をひらいた。
「ねぇリース。僕が魔物を1人で狩りに行った理由って分かる?」
「いや、正直分からん」
「あのね、僕はもう12歳だから4月には王都の王立学園に行くでしょ? それまでに一人前の証がほしくて」
「そうだったのか。だから急いでたんだな」
魔物を1人で狩れることは魔物の強さに関わらず一人前の証だ。辺境伯領の魔物ならその箔は高くなるだろう。
「自分が王立学園でナメられないようにしたかったんだな。流石は辺境領主だ」
「ん? 王立学園内のことなんてどうでもいいよ? 僕が欲しかったのはこっち!」
そういってポーチから取り出したのはムーンアルミラージの魔石が2個。倒すときに魔力を込めれば魔石に刻まれるから証になるはずだが?
「魔力が刻まれてないぞ? これじゃ後付けになって一人前の証にはならんはず」
「ふふん、刻みたいのは別のだからね! さ、リース、僕の手に手を握って?」
「? 別にいいが……」
言われた通り、魔石を持つ手を包むように握る。何をしたいんだ?
「じゃ、行くよ。少し魔力を込めて離さないでね?」
「お、おう」
「アルトロン=ミストエッジは魔石に誓う! ヴァレリス=オルガマークを生涯ただ一人の妻とし、永遠の愛を捧げよう!」
「なっ、なぁ!? アル、お前何やってんだ!?」
私の魔力が少し魔石に吸収されていく。
まさかコレって契約の類か!?
「ふふ、完成しちゃったね。僕とリースの誓いの魔石」
「私とアルの魔力が混ざって刻まれてるが……」
「これはね、僕だけを縛る誓いだよ。僕はリース以外の女性とは結婚できないし、リースを裏切ったら呪われちゃうんだ。ムーンアルミラージの魔石だから凄く苦しい思いすると思うよ」
「な!? そんなヤバいモン今すぐ取り消せ!」
「残念だけど僕から取り消せないんだ。取り消しはリースからしかできないよ」
そんな片方が圧倒的に不利な契約があってたまるか!
四の五の言ってる場合じゃねぇ!
「今すぐ取り消して……」
「でも僕、取り消されたら悲しいな。リースは僕と結婚したくないってことでしょ?」
「んなこたぁねぇよ! ああもうどうすれば……!」
「リースってこうでもしないと本気にしてくれないもん。僕は絶対リースをお嫁さんにしたいのに」
「んなぁぁぁ、ええっと……」
く、くそっ、この一瞬で逃げ道を全部潰された!
どうしようもねぇぞ!? なんとかして正気に……
「リース、あのね、順番は逆になるんだけど、告白したいこともあるんだ」
「な、なんだ?」
「僕ね、リースのこと、お姉ちゃんみたいだし母上みたいだって思ってたこともあるんだ」
「まぁ、あの状況じゃあな」
「でもね、仮にも婚約者になって、リースと一緒にいて、リースのことを異性として好きになったんだ。恋しちゃったっていうのかな?」
「私のことを異性として、か?」
そんなこと、生まれてこの方言われたことがなかった。
アルがお嫁さんだと主張しても子どものおままごとか、ちょっとませてるだけだと思っていた。
そうか、アルはいつでも真剣だったんだ。
そうだ、握った手からは本気の熱が伝わってくるじゃないか。
「僕はどうしてもリースが欲しいんだ! リース以外に考えられない! でも、かわされてばっかりで……」
「……」
「だから、リースの優しさにつけ込んで魔石の誓いを立てたんだ。こうしたら断らないだろう、って」
「……」
「ごめんね。やった後に言っても意味ないよね……でも、でもそれでも僕は……っ! リースとずっと一緒にいたい! 僕だけのリースでいて欲しい! その気持ちが収まらないんだ!」
目に涙をためて涙声で訴えるその声に胸が跳ね上がり、そしてそれを私は胸に刻み込んだ。
私のやるべきことは一つだ。
「悪かったのは私の方だ。アルの想いに気づかないフリしてたんだ。それでこんなことまでさせたんだ。本当にすまない……!」
「うん……」
「私に恋は分からない。でも恋でなくともアルを好きな気持ちに代わりはない。だから、私も言おう」
「うん……」
ゆっくり、そして静かに、真っ直ぐ目を見て伝えよう。
「どうか、私の旦那様になって下さい」
未来の小さな旦那様はその言葉に泣きながら返してくれた。
私はこの人と生涯を共にしたい。
そう、心から思える。
……この後、私が恋心を理解し、恋の病に悶え、結果として王立学園へ再入学するのはまた別の話。
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