第1話【式典】
帝国中枢、中央広場。
整然と並ぶ兵士、壇上に集う貴族や軍上層部、そしてそれを取り囲む無数の観衆。
複数のフレイムが待機し、今日の主役を静かに際立たせていた。
本日の式典は、帝国の技術力を誇示するものだ。
エネルギー問題、食料問題、環境問題――その全ての解決糸口となる技術が、各ブースにズラリと展示されている。
軍事技術は特に注目されており、若手技術者が設計・開発したとされる最新の人型有人兵器、
―機動兵装フレイム―
その実戦形式のデモンストレーションが、今まさに始まろうとしていた。
そして、そのパイロットには――“一騎当千”の異名を持つ男が選ばれていた。
式典会場内の、人気のない建物の屋上。
柵にもたれかかるようにして、ひとりの青年が下を見下ろしていた。
整えられた銀髪、無駄のない立ち姿。
ただ、その視線にはどこか熱がない。
歓声も、期待も、すべて他人事のように流している。
背後で扉が軋む音がした。
青年は振り向かない。ただ、そのままの姿勢で下を見ている。
屋上に現れたのは、一人の小柄な女性だった。
手には簡易端末、白衣の裾を揺らしながら周囲を見回す。
そして――先客の存在に気づく。
(……ちぇっ、人いるじゃん)
一瞬だけそんな表情を浮かべたが、すぐに取り繕う。
「……すみません、ここ使ってます?」
軽く様子を探るような声。
青年は視線も向けず、短く答えた。
「別に」
それだけだった。
「お隣、ご一緒しても?」
青年からの返答は無かった。
気まずい沈黙が流れる。
女性――リカは、小さくため息をついてから柵に歩み寄る。
結局、同じ景色を共有する形になった。
やがて、式典の開始を告げるアナウンスが響く。
空に一機のフレイムが浮かび上がった。
「……あれが」
リカが小さく呟く。
一騎当千。そう呼ばれるパイロットが、今、自分が設計した機体に乗っている。
何度もシミュレーションを重ね、理論上は既存機を大きく上回る性能を持つ。
そのはずだった。
人型の機体が飛び上がり、瞬時に戦闘機へと変形し加速する。
滑らかな軌道。無駄のない動き。標的を捉え、正確に撃ち抜く。
観衆がどよめく。
だが、リカの表情は曇っていた。
「……確かに凄いパイロットですけど」
少し迷うように言葉を選ぶ。
「なんていうか……機体の性能、活かしきれてない感じがします」
隣の青年は、変わらず下を見ていた。
「伝説のパイロットって聞いてたから、ちょっと楽しみだったんですけど……」
少しだけ、残念そうに笑う。
やがて青年が口を開いた。
「人の噂なんて、そんなものさ」
感情の乗らない、淡々とした声。
リカは一瞬、違和感を覚えた。
(……なんだろう、この人)
視線を横に向ける。
青年は相変わらず、興味なさげに空を見ている。
その横顔に、ほんのわずかな影が差していた。
やがて、青年が小さく呟いた。
「確かに良い機体だな。だが、機体に振り回されている。あいつもまだまだだな……」
帝国一と称されるパイロットに対して、随分な言いようだとリカは思った。
「お知り合いですか?」
できるだけ落ち着いた口調で尋ねる。
「まあ、そんなところだ」
良い機体、と評価されたことが素直に嬉しくて、リカは思わず口を開いた。
「あの機体、初の飛行機能を備えたフレイムなんですよ。ビーム兵器も、実戦レベルで運用できるものを搭載していますし」
――私が設計したんです。
喉元まで出かかった言葉を、飲み込む。
少しはしゃぎすぎたかもしれない。
頬がわずかに熱くなるのを感じる。
それでも――ノクティスは、自分が設計・開発した最高傑作だった。
「飛べるフレイムなら、既にあるだろう?」
期待していた反応とは少し違った。だが、青年は一応こちらの話に付き合う気はあるらしい。
「量産機のことですよね。あれは可変式といっても、作戦に応じて人型と飛行モードを使い分ける必要がありますし、変形にも整備兵のサポートが必要ですから」
リカは続ける。
「でも、あの機体は違います。戦闘中でも任意のタイミングで可変できます。人型の火力と、飛行形態の機動力――その両方を活かせるんです」
「フライトユニットで事足りる」
間髪入れずに返ってくる。
フライトユニット――地上戦を主とするフレイムを空中で運用するための補助装備だ。
機体を立ち姿勢、あるいは膝立ちの状態で固定し、そのまま飛行させる。
兵士の間では「座布団」と呼ばれることもある。
「新兵器のビーム砲とやらも、バッテリーの消耗が激しい。実戦でまともに機能するかどうか」
まるで興味がないかのような口調。
リカは思わず、頬を膨らませた。




