3.殻破り
ルージュが魔物の肉を食べ終わり少し経った頃、片付けを終えたクレオメは立ち上がって、私とルージュを交互に見ながら口を開く。
「ルージュ、サテン。まずは魔法の基本についてじゃ。今では分からぬ程の昔、願いから魔法は生まれたとされておる。つまりは、こういう事じゃ」
クレオメが言葉を言い終わった瞬間、まるで恐怖に近い何かが体に絡みつくような感覚が体を一瞬で襲ってきた。そして気が付けば、辺りの空気は暗く重くなり、体が動かない。
「よいか?魔力に伝えるのじゃ。どうしたいか。どうしてほしいかを。魔力はこの星を満たしておる。ならばもちろん、体の中にもある」
クレオメがそこで言葉を切ると、重かった空気が一瞬で元に戻る。少し呼吸が荒くなったぐらいで済んだのは、もっと酷い本物の恐怖を味わった事があるからだろうか。
「体の中の魔力に願うのじゃ。魔法を使いたい、と。それが出来て初めて魔法使いの卵となる。それでは、せいぜい励むと良い。儂は今晩の飯を取りに行ってくる」
「えっ……ちょっ……」
「まっ、待って……」
私達の驚いた声は聞こえているはずなのに、クレオメは止まることなく歩き続け、森の中へと消えていく。残された私達は顔を見合わせてから、クレオメが言った通り体の中の魔力に魔法を使いたい、そう願うことにした。
○●
夜になった。クレオメはまだ帰ってきていない。だが……
「サテン、炎が出せるようになった!」
ルージュははしゃぎながら魔法を使いこなせるまで成長し、私は全く持って駄目だった。
ルージュと私とでは、何が違うんだろう。魔法を使いたい。ずっとそう思っているのに……
「どうして……」
思わず私の口から心の声が小さく漏れる。魔法は願いから生まれた。だから、私はずっと願っている。魔法が使いたい、そう願っているのに、なのにどうして何も変わらないの?どうして、変わる気配がないの?なんで……なんで……
『本当の願い事は違うでしょ?』
「えっ……」
「どうしたの?サテン」
私の驚いた声に、ルージュは心配そうに私の方を見てくる。今一瞬、ルークおばさんの声がした。気のせいじゃないはず……
「今、声がしなかった?」
「誰の?」
ルージュは首を傾げて不思議そうに問い返してくる。どうやら、ルージュには聞こえてないらしい。私だけに声が聞こえた……?
「な、何でもない」
私はルージュにそれだけ言って、目を瞑る。そして、考える、私の本当の願い事を。
ルージュと一緒にいたい。どうして村がああなったのか知りたい。もう二度とあんな悲しい目にルージュがってほしくない……
『そのためにいる物は?』
「魔法……」
ああ、そっか、そうなんだ。魔法を使いたい理由も本当の願い事も私分かった。ありがとう、ルークおばさん。
私はルージュを笑顔にしたい。だから、私は……
「魔法が使いたいっ!」
私の大きく発したその言葉。その言葉に呼応するかのようにあたりには強い風が吹き、木々の葉が揺れる。体の芯は熱くなり、見えなかった力、使えなかった力の見方、使い方がほんの少しだけ分かるようになる。
「ふむ、成長したようじゃな。よくぞ頑張った。晩ご飯の時間じゃ」
いつの間にか帰ってきていたクレオメは、満足げにそう言うと火を起こして、私達にご飯を出してくれる。
「良かったねサテン。どんなお願いをしたの?」
「えっーと……秘密」
「教えてくれてもいいのに。まあ、いいけど」
どこか拗ねている新鮮なルージュを見ながらご飯を食べ、その後私達はすぐに眠りにつき、気が付けば朝になっていた。
そしてその日の朝から、私達二人はクレオメに一つずつ丁寧に、魔法を教えてもらった。
火、風、水、氷、土、光、闇。魔法使いは、あらゆる魔法の形を作ってきたらしくたくさんの種類があって大変だった。
ただ本来、詠唱もあるらしい。けれど、強い魔法が使えるようになった時に、自分で作れば良いと、クレオメは教えてくれず、結局ある程度の魔法は無詠唱でほぼ全てが出来るようになった。
「ほおっほおっほおっ、上出来じゃ。さて、最後は儂と戦おう」
気が付けば最終日の夜。私達は互いに顔を見合わせてから頷き、クレオメと勝負することになった。
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