2.出会い
「大丈夫かい、お嬢ちゃん達」
声が聞こえる方を向くと、白髪に白い髭を生やした静かな雰囲気のおじさんが立っていた。
「あなたは……」
魔物に襲われてすぐなのに、ルージュは焦ることなく、そう聞いた。
「なに、儂はクレオメと言う。そう、警戒せんでも良いぞ」
両手を広げていたルージュはその言葉を聞いてか、腕を下ろすと同時にいきなりよろけて倒れそうになったので、私は慌てて支え、クレオメを睨む。ちらっとルージュを見ると気を失っていた。
「何をしたの?」
「体に無理がきたんじゃ。水しか飲んでおらんのじゃろ?ゆっくりと、寝かしてやるといい」
「……どうして、それを?」
「見れば分かる。そう怒るな。お主らに何かするつもりはないんじゃ」
クレオメの言葉を信じてもいいのか、私は迷う。確かに助けられた。でも……私が悩んでいる間、クレオメはずっと微かな微笑を浮かべている。信じるべきか……
「うぅ……」
ルージュが苦しそうに唸り声をあげる。その声に私は折れて言葉通り、ルージュをゆっくりと寝かした。体に触れて分かったが、異様に熱い。きっと、熱がある。
本当に無理をしていたらしい。どうして、もっと早くに気が付いてあげれなかったんだろう。どうしてもっと早くに言ってくれなかったんだろう……
「よく出来たお嬢ちゃん達じゃな。少し待っておれ……ほれ薬草を溶かした水じゃ。二人で飲むと良い」
魔法陣から差し出された木のコップの中には、薄緑色の液体が入っていた。罠かもしれないそう思いながらも匂いを嗅ぐと、確かに薬草の匂いがする。
飲んでも良いものなのか私は悩んだ末に、自分から飲むことにした。一口、口に入れる。薬草次いで甘い味。特に問題は無さそうだが……
「毒など入っておらんよ」
私はもう一口飲む。体に異常はなく……大丈夫な物らしい。コップの半分まで飲んで、残りはルージュの口にゆっくりと注いであげる。
その間にクレオメは仕留めた魔物の解体を始め出した。短剣を使い手際よく解体していく。そして、魔法陣から木を出すと、魔法で火を付けて、魔物の肉を焼き出す。
「お嬢ちゃん達はどこから来たんじゃ?」
クレオメは一通り肉を火にかけてから、私達の方を向き聞いてくる。
「……近くに村があった」
「魔物か?」
「知らない。ただ、急に燃えた」
私のその言葉に、クレオメは目を見開く。まるで何かを知っているかのように。
私はそんな表情が気に食わず、薬草を全て飲ませ終えたルージュを膝の上に寝かせて下を向き、頭を撫でる。
「いつ燃えたか……聞いてもよいか?」
「……三日前」
「そうか……お嬢さん達、王都のニールに向かいなさい」
「向かったところで、その後生きていけない」
私がそう顔を上げて睨むと、クレオメは楽しそうに笑い出す。
「ほおっほおっほおっ、やっぱり賢いお嬢さんじゃな。それならばどうじゃ?一週間、儂が魔法を教えてやろう。これでも王都ニールではちょいと有名な魔法使いじゃからな」
魔法使い……私とルージュは魔法が使えない、というかまともに教えられたことがない。村の中で魔法を使える人はいたけれど、その人たちはいつも狩りに出ていた。
魔法を使えるようになれば確かに何とか生きていけるかもしれないが……
「……ルージュが起きてから、話し合う」
「そうか、分かった。ならばまずは、肉を食え。元気の源じゃ」
その後私は焼いた肉を食べ、ルージュが起きるのを待った。最初こそ、苦しそうな表情を浮かべていたルージュだったけれど、次第に落ち着いた表情になっていき、一時間もたたずにルージュは目を覚ます。
「サ……テン……サテンっ!大丈夫?怪我は……」
朧げな目から、一瞬で体を起こして辺りを見渡し私を心配してくれる。
「安心せい。儂が魔物を狩った。ほれ、肉じゃ。食べるとよい」
クレオメのその言葉に、ルージュは食べてもいいのかと迷うように私の方を見てくる。私はそんなルージュに頷きを返す。
「ほおっほおっ、いい食べっぷりじゃな」
よほどお腹が空いていたらしい。今まで見た中で、一番忙しく食べている。
「サテンとルージュか。可愛い名じゃな。ルージュや、サテンと一緒に魔法使いになる気はないか?」
クレオメのその言葉に、ルージュの目がキラキラしたものへと変わり、私の方を見てくる。ルージュは昔から魔法を使いたいと言っていた。こうなってしまったら、断るに断れない。
ルージュの視線に、私は負けて渋々頷くとクレオメの方に向き直る。
「魔法使いになる」
「ほおっほおっほおっ、決定じゃな」
こうして結局、私とルージュはクレオメに魔法を教わることになった。
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